第36話


  起きて食事を摂っていると、スマホにメッセージが届いていた。

 委員長からで『20時にはログインしてください』とだけ、書かれてある。

 昼間の合戦で疲れているから、何かするにしても簡単なものが良い。


 ただ、練習と書かれていないのが気になる。

 19時には食事が終わり、20時まで『犬と一緒』をして癒されていた。

 仕方なくトライリッターにログインするが、招待が掛からない。

 仕方なくこちらから招待を送るが、全く帰ってこなかった。


「しなくていいなら、俺は帰るか」

『連絡してください』

「連絡して出たらどうする、しなくていい理由がなくなるだろ」

『連絡して返答がなければ、しなくていいんです』


 連絡させたいマイカ2の指示に従い、ログアウトして電話をする。

 コール音を聞くこと5回、通じてしまった。


「もしもし、今日は無いんだよな?」

『あるよー』

「え?」

『あるからー』

『招待送りますから、待っててください』

「はい」


 電話を切って、トライリッターにログイン。

 電話口から聞こえてきた声は、委員長が言っていた親戚だろうか。

 この前聞いた、親戚の声は1人だったはずだ。

 考えている間に、招待が送られてきた。

 承認すると、俺は噴水広場にいて、ミントグリーンの傭兵の近くには知らない2人。


「あ、ホークさん。今日はこの2人も参加します」

「この前、電話してたのがホーク?」

「そうです。自己紹介してください」

「はいはーい。カイラルでは『出汁・デジル』トライリッターでは『家鴨・カモ』を名乗ってまーす。ヒルの従姉やってまーす」


 カイラルの正史にいた人。第1陣の抽選に当たった猛者だ。

 見た目は、布防具を着たキリッとした男装の麗人だ。

 顔は出しているが、変装マスクだろう。

 武器は腰に片手剣を2本差している。


「カイラルは第2陣で『和 隆臣(にぎりゅうしん)』トライリッターは『京 景司(かなどめけいし)』ヒルの従妹でーす」


 出汁とは違い、眠たそうな顔をしている。

 ゴツイ鎧に身を包み、腰には短いスティレット。

 武器か防具の選択を間違ってると思うのだが、気にした様子もない。


「マウント・ホークです。よろしく」


 下手に情報を出すこともないだろう。

 自己紹介ついでに送られたフレンド申請を却下したかったが、何か言われそうだったから承認はしておいた。

 カイラルしていると知っていると思うが、言わなければどうにかなる。

 それに、話を変えることは幾らでもできる。


「それでヒル、これから何するんだ?」

「合戦です」

「また?」

「今回はオフライン合戦です」


 俺が疲れからうなだれていた。オンライン合戦の疲れは確実に出ている。

 そんな俺を見て、出汁だか、家鴨だかが挑発してくる。


「ホーク、もしかしてワンパターンのNPC相手に負けるとか、ないよね?」

「この感じだと、負けると思う」

「そうやってさ、最初から諦めているような男は、覇気のない男は、モテないよ」

「そうだよ、容姿も必要だけど、雰囲気暗い人はそもそも相手にされないからね」

「今日はムリ、絶対無理」

「確かに今日はムリかもしれませんね」


 委員長が同意してくれたからよかったが、女性2人から責められるとどうしようもない。

 大抵の男がうまく言い返せないだろうと思うのだが、覇気がないからだろうか。


「オンライン合戦の所為?」

「そうですね。レベル差がありすぎて避ける必要があったので――」

「わかったよ。もう追及しないから」

「疲れてるんなら、早く終わらせよう」

「どこ行くんだ?」

「オンラインロビーに入る前の、2階受付です」


 京の提案に乗り、俺は誰よりも先に傭兵派遣組織の2階に向かった。

 女性に責められるのは、心がすり減って仕方ない。


「それでは、申請してきますから待っていてください」


 2階の受付に行くと、委員長がオフライン合戦の手続きをしに行った。

 その間、俺は無防備だ。

 案の定、近づいてくるのは委員長の親戚姉妹である2人。


「ホークはさぁ、ヒルとこれからもゲームするの?」

「障害物競走の練習が終われば、しなくなると思う」

「それってちょっと薄情じゃない?」

「そうか。むこうも俺に22000円使わせて、カイラル第3陣のチケットが欲しいんだぞ」

「カイラルで一緒にゲームすればいいじゃん?」

「サーバー決められてたけど?」

「第3陣は偏りがない限り、自由だけど」

「えぇ⁉」

「まあ、問題ないでしょ。私たちはレセプトだから、ヒルと一緒にゲームしないなら、そこに来てもらうけど」

「へぇー」


 マズイ。

 どうして同じサーバーなのか。

 バレるとそれだけで、何だか面倒になりそうな相手だ。


「ホークはどこ?」

「さあ、うちのAIにゲーム開始まで進めてもらったからな」

「それは噓でしょ?」

「ヒルに聞いてみればいい『そういうことするかも』て言うから」

「それAIの範疇超えてない?」

「そういうAIだから」


 それにしてもこの姉妹、聞き出そうとしてくるな。

 まあ、マイカ2を身代わりにしたからどうにかなる気もするが。


「お、キタキタ」


 訝し気な顔をした2人に詰められることはないようだ。

 カモが言うように、合戦の参加確認画面が出てきた。

 タイミングがいいおかげで、話から逃れることができたようだ。

 参加確認を押して少しすると、場所が変わり合戦場になっていた。

 薄暗く、地面がぬかるんでいる。

 日本の梅雨と言われれば納得するような、ジメジメした感じがする気候条件だ。


「3人とも準備できましたか?」

「おっけー」

「私も」

「ああ」


 返事をすると、指揮官のお話も無く、開始のラッパもなく始まった。

 いつの間にか先頭にいる。準備完了で戦列まで決められるのか。

 ラッパがなかった所為で状況把握できなかった俺は、体に無数の矢が刺さった。

 体力は残り6割。


「しっかりして下さい」

「ホーク」

「剣武会の冴えはどこに行ったホーク」


 俺、そんなに言われるほどか。

 確かにボーっとしてたけど。


「はい」


 返事をしたが、またボーっとしていたのか後ろから人の波に押されて走り出した。

 どうしたんだろう、俺。不安になるくらい音が届いてないな。


「ちょっと、ほんとにダイジョブ?」

「ホークさん」

「冴えないな、ホーク」

『聞こえませんでしたか、ラッパの音』


 お前か。

 どうやらマイカ2がラッパの音を聞こえないようにしていたようだ。

 器用なものだ。設定を弄ったのか。

 邪魔した理由は、嘘に使われたからだろう。

 ここまで、嫌がらせの上手いAIは他にいない。


「ごめん」


 走りながら言うが、戦闘が始まりそれどころではない。

 突撃してオンライン合戦同様に、敵の体勢を崩していくが、力が入っていないのか、効いた様子がない。

 意識して2撃以上当てて、ようやく体勢を崩す。


 それ目がけて委員長が攻撃する。

 このパターンだったのだが、委員長も疲れているのか攻撃がうまくいかず、俺は背後から刺される。

 刺されて動きが悪くなり、正面の敵にも攻撃され、袋叩きにされた。


 その結果、肉体を残して霊体となったのは20時20分。

 開始が15分だったから、5分だけだった。

 霊体の観戦場にはプレイヤーしかこれないのか、俺だけだ。

 委員長を見ていると、袋叩きにされ霊体が登ってくるところだった。


「早かったな」

「そちらこそです」

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