第35話
後ろの委員長が急かしてきた為、走り出す。
NPCよりも、誰よりも先んじて走り出したようだ。
敵勢も突撃開始をして、それに合わせてこちらも突撃を始めた。
敵の正面は、身軽な者が前に出始める。
見たところ、盾持ちはいない。
モブ兵士の片手剣、両手短剣、メイスだ。
敵勢とぶつかる前に当たるのは、片手剣3人、短剣1人か。
俺が相手の体勢を崩して、委員長が滅多打ちにする。連携を考えるとそうなるか。
「ホークさん、3人は私が前に出ます」
走る速度を落すと、委員長が前に出た。
そのまま、片手剣3人と接敵し、長剣を薙いだ。
走った勢いのまま薙いだ為、3人は防ぎきれずに体勢を崩す。
短剣が来る前に、2人で滅多打ちにして倒した。
『称号:一番メイスを取得しました』
『称号:合戦の傭兵を取得しました』
たしかに槍じゃないけど、メイスは合わないな。
委員長は一番長剣か。
いや、俺が一番だから手に入れてないのか?
「称号手に入れた」
「私もです」
パーティ組んでるからだろうか。
再度、走り出し今度は敵勢とぶつかる。
正面には大盾メイス、後ろには短槍やレイピアなど色々な武器を持っている敵が見えた。
先頭が委員長から俺に変わったため、攻撃したいのだが、大盾相手だと分が悪い。
走った勢いのまま、大盾の縁に手を掛けて頭を叩く。
大盾とはいえ構えた状態だと、頭が少し隠れるくらいだ。
手を掛けてこちらの方が高い位置に来ると、簡単に頭を狙える。
他の大盾たちが群がると、終わりを迎えるが。
頭をメイスで叩かれ倒れこむ大盾、その隙間に委員長が長剣を持って突っ込む。
周囲に敵しかいない中で長剣を振り回し、攻撃していく委員長。
俺もそこに参加して、体勢を崩していない敵に攻撃して転がしていく。
足を攻撃して転ばせると、いつの間にか長剣から片手剣になった委員長がとどめを刺していく。
そうしてびっくりするくらい簡単に敵を倒していると、周囲にいた敵が離れて警戒を始めた。
「一休みできますね」
「案外、疲れたな」
「私はホークさんが疲れている理由、分かります」
「何だ?」
「必殺技、忘れていませんか?」
「そういう場所だったな」
そうだった。
ヘビースイングとフルスイングという必殺技あったな。
物は試しと敵勢に走り出すと、奥の方に大量のプレイヤーが見えた。
倒した敵の大半がモブ兵士のはずだから、どういう連携をしてくるのか。
小盾片手剣の相手に必殺技で攻撃する。
「ヘビースイング」
小盾の中心にメイスが当たるが、必殺技の影響かそのまま押し通せた。
小盾から手が離れた敵の頭に、もう片方のメイスを叩きつける。
力任せに思いっきり叩くと敵が倒れ、いつの間にか来ていた委員長がとどめを刺していた。
それ以降、プレイヤー相手でもモブでも、変わりなく倒すことができた。
敵が近づいて来ないため、休む時間も取れる。
それにより敵を倒す速度も上がった。
だが、疲労が蓄積していることも間違いない。
現状、敵はジリジリ近寄ってきていた。まだ、戦えるが最初ほど余裕はない。
「さすがに、疲れますね」
「確かにな」
突撃をしようとしていると、ラッパの音が鳴った。
25分経ったようだ。
視界には両陣営の残存兵力が表示される。
こちらが500。相手が680。
今から180人倒す元気はない。
目の前の敵に専念しよう。
そう考えて突撃したのだが、疲れを待っていたのか正面の敵に攻撃した瞬間を狙われた。
メイスの攻撃が正面の敵に当たると、横から盾で吹き飛ばされた。
笑えるくらい飛んだ。
着地した周囲にはオブジェクトになったプレイヤーやモブ兵士、大量の武器が落ちていた。
手元からメイスは離れ、背負っていた戦斧も転がっている。
立ち上がろうとしていると、右の方からズザーと音が聞こえた。
委員長も同じように、飛んできたようだ。
「その武器、渡してください」
「刀、取って」
俺の近くにある戦斧を委員長は欲しているが、タダでは渡さない。
俺も使いづらい武器を使いたい状況ではない。
委員長が刀を取ったことを確認して、戦斧を手に取る。
「うおぉ!」
走りこんで来たのはプレイヤー。
軽めの鎧を着たプレイヤーに、戦斧を振りかぶる。
振りかぶった隙だらけの俺に向かってくるプレイヤーは、横から委員長の一太刀を受けた。
体に刀を受け、体勢が崩れるプレイヤーに向かって戦斧を振り下ろす。
戦斧が体を両断し、プレイヤーの体には赤い線が奔る。
そのまま、倒れるのを確認して刀と戦斧を交換した。
「ホークさん、指揮官狙いましょう」
「最奥のボスか」
カマタニと赤沢が行っていると思うのだが、委員長には関係ないのだろう。
俺も戦闘中は他ごとが気にならなくなるから、委員長はそれが持続しているのかもしれない。
敵があまり密集していない合戦場は、移動が簡単だ。
最初はあれだけ列をなしていた敵味方が、個人で戦闘をしている。
疲れてあまり速度は出ないが、中心の方へ走っていると集団を発見した。
揃いの鎧を身に着けた集団が、味方のプレイヤーたちの攻撃を受けている。
集団とはいえ、10人くらいのため1対1でどうにか抑えている敵方。
奥の方では、思っていた通り2人が赤いオーラのようなものを纏ったNPCと戦闘していた。
長剣を持った赤いオーラのNPC、あれが指揮官だろう。
「跳べ!」
集団を走り抜け、刀を支えとし、台になる。
朝練と同様にふくらはぎ、肩と踏みつけて委員長は跳んだ。
跳んでいるのを見ていると、疲れから意識が集中し始め、喧騒が音を無くしていく。
見ている世界がほんの少し遅くなって、頭が何をするのか勝手に判断する。
考える間もなく体が動く。
NPCの頭上で委員長が攻撃して、防がれる。
カマタニと赤沢は同時に攻撃を決め、相手の体勢を崩した。
2人の間に強引に入り込み、NPCの首を一閃。
まだ、倒れる気配はない。
ボーっとしている頭でそれを確認すると、無意識が連撃を選択。
袈裟切り左右、逆袈裟、薙ぎ、袈裟切り、逆袈裟切り、水月に突き。
突きは鎧に阻まれて、浅くしか刺さらなかった。
そのまま、背負い投げるように胴体を頭に向けて切り裂く。
振り返って、残心。
呼吸音が頭に響いて、視界が広がる。
正面にいるNPCは動かないが、長剣を落とし、赤いオーラも消えていることから倒し終えたのだろう。
他の場所で、まだ戦闘しているのを確認した。
そこへ向かおうと刀を納めて走り出したとき、ラッパの音が聞こえた。
疲れてその場に座り込むと、隣には委員長がいて同じように座り込んでいる。
どちらが勝ったのか、視界に表示されている数字は5分前から変わっていないため、分からない。
「2人とも疲れてるな」
「ホークくん、ボロボロだ」
「盾で吹き飛ばされたんだから、ボロボロになる」
「ホークさんもそうだったんですね」
会話よりも休息だ。
地面に寝転がり、体を伸ばす。
「あーっ、つかれたー」
「ホークは武器変えないのか?」
「見た感じヒルとの連携も十分だったと思うけど?」
「武器は変えん。連携練習終われば、このゲームしないから」
「連携はまだまだです。もう少しうまくできると思いますから」
眩しい空を見ながら返事をしていると、視界にはリザルト画面。
結果は勝利。
敵を倒した数は上から10番目。
指揮官を倒したボーナスで経験値と賞金が入っており、10万イエンだった。
リザルトを見ていると、いつの間にか消えていたメイスが手元に戻っている。
吹き飛ばされたときに、落としたのだったか?
「ルームに戻るけどいい?」
「頼む」
「お願いします」
「ああ」
メクサ君と同じ返事をすると、画面が表示されて何の話だったか理解できた。
合戦場から離れるが、オンライン合戦用のロビーに行くか、パーティルームに行くかの話だ。
承認を押して視界が暗転、噴水広場にいた。
「2人とも疲れすぎじゃない?」
戻ってきて早々に、噴水広場のベンチに向かった俺と委員長を見て、カマタニと赤沢は不思議そうだ。
「そりゃ、攻撃よけないとすぐにやられるからな。脳みそが疲れ切ってる」
「そういうことか! おれはダメージ受けながら戦闘してたからな」
「僕も、許容してたね。大半を避けてたら疲れるよ」
「レベル差があるから出来るんだ」
「装備の差もあります」
「連携は十分じゃない?」
俺と委員長の返答に、古参プレイヤー2人は満足のようだ。
2人とも、疲れた様子も無く、まだ遊び足らなさそうに見える。
隣に座っている委員長は項垂れて、俺と同じく疲れているようだ。
「そうだと思う、おれも。それよりも早いけど、お開きにしよう。2人共疲れ切ってるからね」
「そうだな。僕はオンゾンと遊んでるよ。2人も遊ぶ?」
「俺は寝る」
「私もそうします」
15時40分にはログアウトして、VR付けたまま18時まで寝ていた。
マイカ2が起こさないと、そのまま20時まで寝ていただろう。
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