第34話

 

 カマタニが声を掛け、傭兵派遣組織の建物に向かっていく。

 後についていくと、2階の階段を上がった。


 2階にも1階と同じような受付があり、壁には観音開きの扉がある。

 建物の大きさ的に扉の先は外だと思うのだが、目的地はそこらしい。


 カマタニが扉を開けると、そこは待合室のような椅子で埋まった部屋だった。

 さらに先も観音開きの扉があり、カマタニが開けようとするとロックされているのか開かない。


「ここから先は、オンライン合戦用のロビーでプレイヤーがいるから」


 扉を開こうとして3度目に開き、中の様子が見えてきた。ロード中だったらしい。

 プレイヤーと言われたら一瞬で分かるような、派手な色合いの鎧を着た戦士たち。

 騎士らしいのは少なく、戦士と言った方がしっくりくる見た目の人が多い。


 カマタニを先頭に入っていくと、赤沢とカマタニの近くにロビーの戦士たちが寄っていく。

 古参と聞いていたが、ロビーに入ると人が寄ってくるほどとは思っていなかった。

 そのまま受付に向かい、カマタニは合戦の手続きを進めていく。


 右手で何かを操作しているようだが、その間にも戦士たちと会話をしている。

 俺は今まで、カマタニの人気っぷりを知っているつもりだった。

 学校では友人の多い一面をたまに見ていたが、ゲームとはいえ異常な人気ぶりだ。


 兜から見えている顔が、にこやかに笑っているのは俺との大きな違いだろう。俺は隠れていても仏頂面だ。

 相手に嫌な気持ちをさせない会話、俺の場合は右から左へ、相手の言葉が抜けていくだけだ。


 何とも言えない差がある。

 何かがあると比較してしまうのは、人種的な問題だろうか。

 目の前に画面が表れる。


 『ON存をリーダーとして合戦に参加しますか? はい・いいえ』


 はいを選択すると、カマタニも受付での作業を終えたようだった。


「よし。手続き済んだから、そこで待ってようか」


 そこ、というのは、壁際にある長椅子だ。

 驚くほどの人気者は、まだ戦士たちを引き連れている。

 黙って長椅子に座ると、カマタニの所から俺と隣にいた委員長の前に戦士たちが移った。


「よお、2人の剣武会での戦闘見たぜ」

「オンゾンの友人なんだってな」

「タケノコとも知り合いって聞いた」

「2人とも戦闘系のVRしてるよな」

「確かに、動きが素人じゃねぇ」

「連携すごかったけど、長いこと一緒にゲームしてんの?」


 思わずカマタニを見るが、気にした様子もない。

 お前の知り合いだろう。


「2人とは友人です。戦闘系のVRはよくしています。連携の練習でこのゲームをしています」


 どう答えるべきか考えていると、委員長が答えてくれた。

 俺の場合、返答が投げやりになる。

 委員長が簡潔に答えてくれてよかった。


「そうなんだ。合戦も楽しみにしてるぜ」


 正面にいた上裸肩当だけのバーバリアンが、返事をして戻っていくと、ほかの戦士たちも戻っていった。

 見送って委員長を見ると、こちらを見ている。


「どした?」

「ホークさんも一言二言、話すべきではありませんか?」

「いいだろ、別に。テキトーに答えてゴタゴタするよりは、コミュ障だって思わせとけばいいんだよ」

「実際、そうですしね」


 文句を言おうとした時、目の前に画面が出てきた。

 『合戦まで残り1分』とカウントダウンを始める。

 急いで装備を確認していく。

 斧とメイス、防具もそのまま。特にこれと言って準備するものはなかった。


「フーッ」


 周囲に人がいるということが、緊張を助長する。

 カウントが0になると、視界が暗転し、転移した。

 


 転移すると、周囲にはルーム統合している3人とそのほかの兵士が大量にいる。

 後ろを見ると、どこまで続いているのかズラッと並んでいる兵士。

 所々に色鮮やかな鎧が見えるから、プレイヤーもいると分かる。


 俺のいる場所は、列の先頭。

 目の前には台があり、豪奢な鎧を身に着けたカイゼルひげのおじさんが話していた。


 この戦はどういう理由で行われ、勝利により何が変わるか。

 兵士の皆がいないとどうなるか、多くの戦死者がでるだろうが、それが帝国の礎となるらしい。

 帝国陣営のようだ。


「忠誠を帝国に! 勝利を帝国に! 命を帝国に!」


 カイゼルひげおじさんが叫ぶと、周囲の兵士も一斉に叫ぶ。


『忠誠を帝国に! 勝利を帝国に! 命を帝国に!』


 兵士が叫び終えると、視界が暗転。

 合戦場の戦列右側の最前列にいた。

 合戦場は平原、陽は中天、遠くの方に敵の戦列が見える。

 モブ兵士が所々にいるが、相手はプレイヤーが多そうだ。


「オンゾン、陣形とかないのか?」

「ない。突撃一択の合戦だよ。乱戦必至だ」


 隣のカマタニは笑いながら言うが、多数のプレイヤーを戦わせる為だけのモードということだ。

 部隊に分けて、陣形を変えて対応し戦闘する。戦術的要素はほぼないみたいだ。


 確かに、あったところでそれを楽しめるかは分からないが、あってもよかったと思う。

 ただぶつかり合う乱戦だけとは、運動苦手なVRプレイヤーに優しくないな。


「15時に始まるから、最初は遠距離攻撃、それが終わると突撃だから」

「わかってる。俺はこのまま真っすぐ突撃する」

「おれは、タケと一緒にNPCを踏み台にして中央行くから」

「中央に何かあるのか?」

「敵陣営の最奥にボスNPCがいて、そいつを倒すと指揮官撃破ボーナスが付く」

「他のボーナスは?」

「レベルの高い敵、役職持ち、プレイヤーを倒すとボーナス。合戦でも勝つとボーナス」


 相手の方がプレイヤー多そうだから、倒せば倒すだけボーナス付くわけだ。

 委員長は特に何も言ってこないから、俺はそのまま突撃しよう。

 緊張をほぐすため、深呼吸していると合戦場にラッパの音が響き渡る。


 空間に響いているから、NPCが吹いているわけではないだろう。

 最初のラッパは、遠距離攻撃の準備だ。


「あ、言い忘れてたけど、ここの敵、レベル30くらいだから」


 言い終えると、剣を抜いて上段に構えるカマタニ。

 おい、レベル65の最古参ON存は問題ないかもしれないけど、レベル10のマウント・ホークじゃ相手できないだろ。


 レベル10にレベル30が群がる、一撃必殺ではないのか。

 文句を言おうにも、遠距離攻撃の準備に入ったカマタニは真剣そうだ。

 後ろにいる委員長を見ると、ゆっくりと頷いた。


「ホークさん、連携です」

「わかってる」


 もっといい助言が欲しいのだが、連携練習にちょうど良いということだろうか。

 2度目のラッパが鳴り響くと、両陣営から攻撃が飛び交い始めた。

 速い攻撃は真っすぐ飛び、遅い攻撃は山なりに飛んでいく。

 こっちに飛んできているのは両方だ。


「これ、どうすんの?」


 どうにかしてくれるであろう最古参を見ると、こちらを見てニヤリと笑っている。

 自信満々なのを見ると、一瞬失敗を望んでしまうのは悪いことだが、仕方ないことでもあると思う。


「任せて!」


 剣から光の柱が空に伸び、それが敵に向かって振り下ろされる。

 光に敵の攻撃が当たると、消え失せていく。

 最古参パワーだ。

 迎撃が終わると、3度目のラッパが鳴った。


『ウオォォー!』


 突撃開始のラッパは鳴るが、誰も走り出さない。


「だあぁぁぁ!」


 周囲から聞こえてくる声につられて、俺も叫ぶ。

 久々に大声を出した気がして、気分は晴れやかだ。


「叫んでないで、行きますよ」

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