第33話


 今日は木曜日。

 火曜日から変わらず、学校には7時20分頃に着き、教室の扉を開けると委員長は待っていた。

 しかし、今日は教科書を読んでいない。


「おはよ」

「おはようございます。昨日はすみませんでした、鷹峯さん」

「今日も無くていいけど」

「今日はします」

「はいはい。それで何があったんだ?」


 VR室への道すがら電話の後、何があったか教えてもらった。

 あの後、親戚と一緒にトライリッターをしたらしい。

 その話をすると再度、謝ってきた。


「俺からすると、とてもありがたいことだ。カイラルをする時間ができたからな」

「ボスの事、調べてましたね」

「昨日倒した。色々クエストがあって三騎士してたら、時間足りなかったから助かった」

「今日はしますけどね」

「分かってる」


 VR室に到着して、VR機を起動した。

 白い空間でボーっと待っていると『VR障害物競争 ノーマル』とタイトルが書かれてある。

 イージーの練習は終わったらしい。


「そういえば、委員長の知り合いは、どれくらい進んだか聞いたか?」

「連絡先知らないのでわかりません。練習しますよ」

「確かに、知り合いだな」


 8時40分までノーマルで練習した。

 イージーとの違いは、昇降機の速度が上がったこと、どこからか垂れ下がっているロープで勢いをつけて飛ぶこと、ネット登りだった。


 タイム短縮という目標があるため、すべての課題をほぼ同時にこなすのだが、蹴落とされたり、ロープに跳んで先に掴まれ落ちていったり、いろいろ噛み合わないことも多い。


 難易度が上がって悩みは増えた。落とされた分は俺も落としたが。

 教室に向かっている途中、今日の三騎士で何をするか聞いてみた。


「オフライン合戦をするつもりだったのですが」

「ですが?」

「調べたところ、行動パターンが決まっているようですから、練習になりません」


 質を求めすぎな気がする。

 文句を言っても変わらないから、仕方なくうなずいておく。


「お、2人とも、おはよう」

「赤沢、おはよ」

「おはよう赤沢、近藤さんと練習しないんですか?」

「選考の前にちょっとするかもな」

「実践学習の時にはしてないのか?」

「暫定で決めていた種目の練習をしてるよ、ほかの選考参加者も」


 教室に到着する直前、赤沢から声を掛けられる。

 それにしても練習してないのか、みんな。


「それなら、俺と委員長で良くないか?」

「それは、朝練しなくてよくなるから?」

「そういうことだ、赤沢」

「選考なくても、朝練はしますから」


 思わず赤沢の顔を見た。

 目が合うと苦笑いで、ゆっくりと首を横に振る。

 『なにもできない』と言葉を使わず教えてくれたようだ。


 その後、いつもと変わらず昼休憩で帰れるように課題を終わらせる。

 3時限目も終わり、帰る準備を進めていると、カマタニが教室に入って来た。

 お目当ては赤沢のようで、席に近づくと話始める。


 いつもであれば教室から出て、食堂に向かっている時にカマタニは来るのだが、随分と早い。

 そこに委員長が加わったのを見て、急いで教室から出た。

 俺にとって不都合なことが、起きると思ったからだ。


 そして現在、食堂で日替わり定食を食べている俺の周囲には3人がいる。

 珍しいことに、その周囲にはクラスメイトがいて食事していた。


「わったん。今日ね、おれたち午前で帰るんだ」

「へー、珍しい。今、周りにクラスメイトがいるくらい珍しいな」

「実は私もなんです」

「僕もね」


 俺は、無言でうなずいて食事を再開した。

 食べるペースを速くするのだが、食べ始めた直後だから終わらない。

 俺のしようとしたことに気付いたのか、委員長が話始める。


「鷹峯さん、今日の14時からオンライン合戦をします。これは練習です」

「無理、運動の時間」

「本当ですか!?」

「ホント」

「本当ですか、マイカ2?」

『はい、本当です。しかし、14時30分から自由時間となっています』


 食事の手が止まり、真顔で委員長を見たのは咎めたかったからだ。

 赤沢とカマタニは、苦笑いで反応に困っている。

 まさか、個人AIが反応するとは思っていなかったのだろう。マイカ2ならでは、だな。


「おい」

「すみません。ですが、14時30分からします。招待送りますから」

「おれとシタンも参加するよ」

「そうか。それなら合戦について説明してくれ」


 諦めるのが早いのは仕方ない。22000円分と何かあれば協力してもらうんだ。

 それに、この協力で一日一善は達成としておこう。

 それより、この前の時は合戦するのに否定的じゃなかったか、委員長。


「今回するのはオンライン合戦」


 オンライン合戦は、4つの合戦場があるらしい。

 どの合戦場も似たり寄ったりで、違いは足場の良さだという。

 騎馬や大型の兵器もなく、人対人のぶつかり合いのようだ。


 合戦の流れだが、最初に戦列のどこに並ぶかを選ぶ。

 ラッパの合図で遠距離攻撃の準備、次のラッパで攻撃。

 双方の遠距離攻撃終了後に、ラッパの合図で突撃が開始されるらしい。

 25分経てばラッパが鳴り、30分で合戦終了。


 残存兵力の多い方が勝利となるようだ。

 回復アイテムは使用不可、剣武会でもらった1撃無効のアクセサリーも使えないらしい。

 倒されると霊体となって、空中を移動して観戦する。


 最終的に返されるが、倒された場合は武器が使用可能な状態で、そのまま戦場に残るようだ。

 亡骸は、その場に残り続けるオブジェクトになるという。


「それで、昼間に練習するんだから、20時からの練習はないよな?」

「オンライン合戦次第ですね」

「じゃあ、鷹峯くん頑張らないとね」

「わかってる。でも、招待送らなかったらしないからな」


 食べ終わった盆を持って立ち上がった。

 3人に加えて、周囲のクラスメイトもこちらを見ているように感じる。


「安心してください。引きずり出しますから」

「わかった。じゃあな」


 何度言っても逃がしてくれそうにないため、急いで帰る。

 駐車場でバイクを取りまわしていると、食堂のクラスメイト達が見えた。

 3人はニコニコと会話が弾んでおり、俺のいた席にクラスメイトが座っている。

 シフトペダルを踏みこんで走り出すと、マイカ2が話しかけてきた。


『ミントタブレットは食べないんですか?』

「ああ、忘れてた」

 

 家に帰ったのが12時55分。いつもより5分遅かった。

 急いで着替えて13時から運動、14時には風呂に入り、14時20分には準備ができた。


 今はVR部屋で暇つぶしのアプリを起動しようか、悩んでいるところだ。

 『犬と一緒』をしたいのだが、時間が少ない。

 ベンチに座って、桜が舞う様を見ていると独特な電子音がした。

 電話だ。


『わったん、招待送ったから三騎士起動して』

「ああ」


 時間ぴったりに来るかと思ったが、案外早めに連絡してきた。

 トライリッターを起動、招待を受けてルーム統合を承認する。

 視界が白んで目を閉じると、聞き覚えのある声、変換された委員長の声と知らない声。


 目を開けると、赤銅色の騎士、ミントグリーンの戦士がいた。

 その近くにいたのは、ザ騎士という感じの男。

 鈍色の騎士鎧に赤いマント、腰には剣がある。

 鎧も剣もシンプルで、単純に格好良いと思った。

 動く度に、鎧がガチャガチャ鳴っているのは気になるが。


「きたきた」

「初めましてだな、ここでは。僕は茸筍胞子(たけのこほうし)」

「タケノコ、俺はマウント・ホークよろしく」

「よろしく。新規の2人は兜の系統似てるな」

「そうでしょうか」

「はーい、みんな注目。今からオンライン合戦用のロビーに行くよ」

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