第32話


「依頼終わったから、タダで」

「本当に終わったのか、写し板使ったか?」

「まだだった。どれがいいか教えてくれ」

「たくさんあんのか?」

「2つだけ。賊と指導者と上役が写ってるんだが、上役の写りがいいやつか、賊の写りがいいやつか」

「上役だ」


 刀を渡して、写し板を取り出す。

 そのまま、爺さんを見ているとマイカ2みたいな溜め息を吐いて裏に行った。

 刀を修理してくれそうだ。


 写し板を選択し使用すると、スクショを選ぶ画面に移動した。

 エフェクトや明暗、描き足し等、できるが特に何もせず、黒鎧の写りがいいものを選択する。


 コピーし終え、待っていると扉が開き始める。

 驚かせようと写し板を見せていると、手から奪われた。

 刀は脇に挟まれて、引っ張っても返してくれない。


 何度か引っ張っていると、ようやく気付いて放してくれた。

 しっかりVRしているようで、挟まれて少し暖かいのが、気持ち悪い。


「メクサ、これを誰にも知られないように、ドワーフの爺さんに渡せ」

「わかった」


 刀を装備しなおし、写し板をインベントリに入れる。

 爺さんを見ると、黙って虚空を見つめたままパイプをふかしていた。

 ドワーフの所に行こうと鍛冶屋を出ると、目の前に画面が出てくる。


『ミッションを達成しました。ミッション内容を更新します』


 ミッションの達成報酬は無いらしい。

 ドワーフを訪ね、ノックをした。

 扉を開けて出てきたドワーフはニヤッとしているが、それはボスを倒したからだろう。

 鍛冶屋からの話を聞くと、真顔で対応してきそうだ。


「手斧忘れてた」

「入れ」


 他に頼まれることがないのか、俺が渡した手斧は机の上にあった。

 手斧は、注文通り装飾が施されていて、形だけが同じだ。

 柄の握り以外は金属が巻かれ、斧の金属部に彫刻が施されている。


 このドワーフは、彫金も出来る器用さがあるみたいだ。いや、外注したのかも。

 彫金も柄の金属も、最低限でまだまだ俺から金を搾り取ろうという意思を感じる。


「まだ装飾できるが、金額相応でやめておいた」


 ドワーフから手斧を受け取り、こちらは写し板を出す。

 これを渡すとシークレットクエストは終わるのだろうか。

 刀のスキル熟練度は上がってくれるか。

 不思議そうな顔で写し板を受け取ると、写真を見て俺の方を向いた。


「メクサ。これは⁉」

「鍛冶屋の爺さんから依頼を受けて、商人を襲撃した奴らを探してた」

「この3人が中核人物か?」

「刺青してるのがローブで襲撃してる奴」

「黒い鎧に二重の円とそれを割る縦線。この金色の紋章は⁉」


 俺が説明に入ろうとしたのに、無視して写し板にかじりついている。

 そのまま待つこと数十秒。

 視界が暗転した。


「メクサ、少し頼みがあるんだ」

「ああ」


 イベントシーンだ。場所は変わらずドワーフの家。

 対面のドワーフと一緒に座っている。


「ちと用事が出来てな、この町から7つ町を越えると王都がある。馴染みの鍛冶屋の元に行きたいんだが、護衛がおらん」

「ああ」

「組合に頼んでも護衛は出してくれん、上手くいっても信頼できる者を出してくれる可能性も無い。つながりが少ないからな」

「ああ」

「そこでだ。時間が掛かってもいい、お前が王都まで護衛してくれんか?」


 『シークレットクエストの続きを確認しました。シークレットクエストを開始しますか?』

 『シークレットクエストを開始しますか?』

「ああ」


 返事で選択するタイプだったが『ああ・いや』の選択肢だった。

 会話を進めるのも『ああ』だ。メクサ君、俺より会話が下手なのでは。


 『シークレットクエスト 知り合いのドワーフを王都まで護衛しよう』

 『シークレットミッション ATK60以上にする』

 『シークレットミッション 第4の町 旧砦町に行こう』

 『シークレットミッション 第8の町 王都に行こう』

 『シークレットミッション 王都までドワーフを連れていこう』

 『達成条件:目的地までドワーフを護衛 傷つけず護衛』


「助かる。旧砦町まで行けば、連絡を取れる相手がいる。まずは第4の町まで護衛してくれ。しばらくはそこで生活もできる。王都に行くときも同じだが、町へ着くごとに1泊していく」


 暗転して椅子に座っている同じ状態だが、動けるようになった。

 メニューを開けるため、イベントは終わったようだ。


「わかった。報酬は?」

「んー? 武器と防具の強化を半額で請け負う」

「他には?」

「ほかッ⁉」


 ドワーフはそれで十分だと思っていたようだが、全く足りない。

 鍛冶屋の爺さんは達成報酬がなかった。

 取れるところから取る。

 鍛冶屋の爺さんが払わなかった分は、ドワーフに払ってもらう。


「1回目はタダにする」

「わかった。それでいい」

「第4の町まで行けるようになったら来てくれ」

「それより早く強化しに来るよ」

「そうだな」


 結局、この日は護衛依頼をこなせなかった。

 大量の赤カーソルから追われて、体はともかく精神的に疲弊が激しい。

 ログアウトしたのが、23時20分くらいだった気がする。

 VR機を外して、トイレも行かずそのまま寝た。

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