第30話


 リザルト画面を確認すると、ドロップアイテムは『土蜘蛛の人面』『土蜘蛛の割れた殻』だけだった。

 レアなエリアボスだと思ったのに、出てくるのは使えないお面と割れた殻。


 スリングの熟練度は上がらなかったが、刀のスキル熟練度は随分と上がり30になった。13も上がっており、しかも、取得可能スキルが増えていた。

 『正々堂々』という脳筋が欲しそうなスキルで、相手が何人でも素手もしくは、武器だけで戦っている間はDEFが上昇するらしい。


 それに、決意した途端に達成された貯金。しっかりと『銀貨10』あった。


「録画終了した?」

『はい』


 さっさと帰って、鍛冶屋の爺さんに報告しよう。

 後ろに振り向くと、目の前に画面が出てきた。


 『第2の町に続く道を進みますか? ※東西の群れ討伐は終わっていません。 はい・いいえ』


 いいえを選択すると、新しい画面が出てきて、町に転移で戻ることが出来るとあった。

 はいを選択し、転移すると噴水広場にいた。


 今は20時5分。まだまだ時間はある。

 ワクワクしながら鍛冶屋に向かう。

 新しい刀を手に入れることが出来る。しかも強い刀だ。


「爺さん、達成したぞ」

「素材はあるか?」


 扉を開けて鍛冶屋に入ると同時に、誰もいないことを確認して呼びかけた。

 カウンターでパイプをふかしていた爺さんは、達成の確認に素材を要求してくる。

 『土蜘蛛の人面』『土蜘蛛の割れた殻』をカウンターに出す。


「どうよ!」

「刀、渡せ」


 言われた通りに刀を差しだすと、目を細めながらじっくりと見ていく。

 刃に顔を近づけ、じっと見ている。


「問題ない?」

「問題ない。この刀で土蜘蛛を切ったのは間違いなさそうだ」

「はい、銀貨5枚」

「ハッ、一度は死んで返って来ると思ったんだがな。ほれ」


 あの刀を渡してきたのだが、手を離してくれない。

 両手で掴んで引っ張るのだが、まだ離さない。


「言い忘れてたんだが、近接攻撃スキルの熟練度合計100あるよな?」

「え? たぶんない……けど」

「その刀、100無いと装備できないぞ」

「えぇ? 刀を見た時そんなこと書いてなかったけど」

「当たり前だ。鍛冶もした事ねぇ奴が、武器の目利き出来る訳ねぇだろ」


 ホントに? 耐久値見えるのに?

 装備出来ているという事は、防具は大丈夫だったわけだが、購入しても装備できない可能性もあったわけか。


「防具もそういうのある?」

「そらな。防具はすべてのスキル熟練度合計で判断する」


 現実みたいなリアルさが、ゲーム的な考えを忘れさせていたみたいだ。

 一先ず、鐵刀を購入した。試しで装備しようとしたけど、できなかった。

 スキル熟練度上げか。一先ず、今のステータスを確認する。

 

 『メクサ HP:179 MP:115 ATK: +12 DEF:+15』

 『所持スキル:熟練度 片手剣:6、両手剣:10、刀:30、短剣:10、両手斧:5、片手斧:3、斧投げ:5、飛礫:10、スリング:10』

 『所持称号:なし』


 あまり見ることはなかったが、片手剣が思っていたよりも低い。

 今の合計が89。刀以外では片手剣が扱いなれている為、群れの討伐で使えば熟練度11くらい上がるだろう。


「爺さん、刀修理してくれ」

「分かった。銅貨5枚だ」


 銅貨5枚を支払うと、爺さんは刀を持って奥に入って行く。

 扉を閉めると、隙間から光が漏れて収まると爺さんは戻ってきた。


「何で光ったんだ?」

「ああ、修理用のスキルだ」

「へー。ありがとう、爺さん。じゃあな」


 俺が鍛冶屋から出ようとした時、爺さんから声が掛かった。

 目の前には白い画面が表示され、機械音声が爺さんの声に被る。


「メクサ、少し頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」

『シークレットクエストを確認しました。シークレットクエストを開始しますか? (シークレットクエストとは、個人のスキル等の成長に関わるクエストです)』

 『シークレットクエストを開始しますか? はい・いいえ』


 俺は迷わず、はいを選択した。

 すると、視界が暗転。


 いつの間にか椅子に座っており、見覚えのない場所で爺さんと向かい合っていた。

 俺がキョロキョロしているのも構わず、爺さんは話し始める。


 内容をまとめると、北の森で第2の町から来る商人たちが襲われているらしい。

 襲われる商人たちは、決まって馬車で鉱石を運んでいるとのこと。

 彼らは鉱石を渡すことで、生き延びたようだ。

 依頼は、襲っている奴らを特定すること。


 商人はローブ姿の襲撃者しか見ていない為、特定には至っていないらしい。

 爺さんが話を終えると同時に白い画面が出てきて、クエストの内容が表示された。


 『シークレットクエスト 鉱石を奪う賊を特定しよう』

 『シークレットミッション 襲撃場所付近に行こう』

 『シークレットミッション 鉱石を奪う賊を特定しよう』

 『達成条件:死亡回数0回 賊の写真』


 クエストと2つ目のミッション内容が同じだ。

 これだけ達成すれば、クエストが早々にクリアできる。

 達成条件が死亡回数と写真とは、命の危険がある状況で証拠写真を撮るわけだ。


「こいつで賊を写すんだ」


 渡されたのは白い板、1枚。

 調べてみると、アイテム名が写し板、使用方法はスクリーンショットをコピーできるとあった。


「これを見ろ。襲撃場所は3つ。最初は森の浅い場所だったが、今は森の中だ」


 簡易な地図に示された場所は、森の浅いところから段々と奥に移動していた。

 しかし、これらの場所は俺の知らない道だ。馬車が通るならそこそこの大きさの道が、あるということだ。

 どういう道があるのか聞きたいが、俺に行動の自由はない。イベントシーンだ。


「一昨日来る予定だった商人がまだ来ない。下手したら殺された可能性もある。注意しろ」


 ふきだしが出てきて「ああ」と書いてある。

 メクサ君は無愛想だな。


「ああ」


 視界が暗転して、戻ってくるといつもの鍛冶屋だった。

 爺さんはパイプをふかしており、周囲に客の姿はない。


「気ぃ付けろよ」

「わかってる」


 現在は20時30分。まだまだゲームができる。

 今から、護衛依頼を受けて片手剣のスキル熟練度を上げたいが、シークレットクエストがスキルの成長等に関わるクエストらしいから、北の森に向かうことした。


 刀のスキル熟練度がクエストで11上がってくれるのなら、いいのだが。

 刀は修理して耐久値を戻し、HPポーションはまだ余裕がある。

 鍛冶屋を出て、北出入口に向かう。


「そういや、まだ公開してないよなボス戦」

『はい。許可を出されていませんので』

「公開しなくていい。ほかの人が事前情報と違うボスと戦ってたら、公開してくれ」

『判断は私が行いますが、よろしいですか?』

「頼んだ。あと、これから検索で俺の動画出てきたら、弾いてくれ」

『はあ。分かりました』


 AIなのに話すこと以上に、溜め息が人くさい。

 最近のAIはもっと会話が人っぽいぞ。音声が機械っぽくないぞ。

 そう言ってもアプデが入らないから、仕方ない。


「溜め息禁止な」

『はあ。分かりました』


 分かりやすくイラつかせてくるAI。

 販売停止になるのもうなずける。フラッグシップと銘打たれなければ、そこまで売れなかったのではないか?


『もうじき第1の襲撃場所です』

「おい、ゲームの中までサポートするのは、禁止してる」

『そうでしたね、監視しておきます』

「言い方よ」


 文句を言っても返事はない。監視に移ったようだ。

 ゲーム内でもAIのサポートを受けることは可能だ、俺は面白さが減ると思って禁止している。

 まあ、偶に頼み事するけど。


 AIの言う通り、マップに示された第1の襲撃地点に近づいていた。

 エリアボスまでの獣道とは違い、馬車の通った轍があり、そこは草が生えていない。

 森が切り開かれた道で、エリアボスを迂回するような道だと思う。


 この道周辺も魔物が出てこない。獣道と一緒だ。

 少し道を外れると、大量の蜘蛛が出てきたりするかもしれない。

 道を外れて、襲撃地点を森の中から見ていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る