第27話
水曜日、朝練を終えて教室に向かうと、他クラスのカマタニが待ち構えていた。
入り口近くにいて、ニヤニヤしていることから、面倒を持ち込んでいるような気がしてならない。
「釜谷さん、おはようございます」
「おはよう。坂下さん、わったん」
「おはよ、朝からどうした?」
「フフフっ。まあ、席についてからだよ」
俺よりも入り口から近い、委員長の席に集まるとカマタニはスマホを取り出した。
スマホには、動画の再生ボタンが表示されている。
「面白いから、見てよ」
「リンク送ってくれ」
「一先ず見ましょう、鷹峯さん」
ARメガネかけてるんだから、リンク送ってくれればその場で見られるのに。
確かに手間をかけることにはなるが、言うほどの手間ではない。
そもそも会いに来ることなく、メッセージで飛ばしてくれれば良かっただろ。
そう言うこともなく、俺も普通にカマタニのスマホを見た。
動画には昨日の剣武会、1回戦が映っていた。
大手の動画投稿サイトで再生回数が3万と少し。2分くらいの切り抜き動画だった。
「2人とも、三騎士内で名前が広がったな」
「ほーん」
テキトーに返事をしながら、ARメガネを使って同じページを開く。
投稿者は知らない人で三騎士系の動画を挙げていた。
コメント欄を見ていくと、俺と委員長への批判コメントは少なかった。
「ボロボロに言われてるな。カマタニ」
「そうですね。酷い言われようです」
コメントには〈初心者を連れてきて自己顕示欲を満たした〉〈高レベル相手に戦闘させ、自分は一撃で倒すという愉悦を感じている〉とか言われている。
言わんとすることは理解できる。そういう奴じゃないことも理解できる。
「わったん。矢を弾いたのに対してチート疑われてたぞ」
「えっ? 俺、VRのチートなんて詳しくないぞ」
スマホから顔を上げて、カマタニにの方を向く。
VRのチートで俺が知っているのは、感覚制限、物質透過くらいだ。
触覚、嗅覚、聴覚をなくして行動できるのが感覚制限。攻撃に対して発動し、攻撃が体をすり抜ける物質透過。
今回の場合、俺は何のチートを疑われているのだろう?
「あれだよ。思考加速ソフト使ってるとか、なかったか?」
「ありました。そのコメントにジャンク・デ・オモレーという人がコメントしてから、疑いは晴れているようですね」
AIがコメントを見つけてARメガネに映し出す。
オモレーのコメントは〈練習すればできる、誰でも〉と書かれており、そのコメントに対して多数の人がオモレーの名前を連呼していた。
「オモレーはおれと同じ最古参のプレイヤーで、名誉ポイントランキングのトップだ」
「へー」
名誉ポイントランキングのトップといわれても、ポイントを稼ぐ方法は戦闘以外にもあるだろう。
俺がしたみたいに話を聞くことでも稼げるんだから、トップだからVRが上手いわけじゃないはずだ。
「俺、カマタニとオンラインゲームするのやめる」
「私もそうした方がいいでしょうか?」
「ま、そう言われても仕方がないな」
「冗談ですよ」
「俺は本気だぞ」
2人のやれやれ顔を見て、冗談だと思われていることを理解した。
言い返そうと思ったがチャイムが鳴り、諦める。
俺は席に戻り、6時限目までの課題に取り組み始めた。
3時限目が終わり、帰る準備をして食堂に向かっていると背後から声を掛けられる。
「今日も昼から帰るんですか?」
「当たり前。メンテの所為でカイラルできなかったからな」
「そういう話でしたね」
食堂で今日の昼食を受け取り、いつもの席に着くと、1つ空けた隣の席にカマタニが座った。
「お二人さん」
「自己顕示欲のカマタニ」
「自己顕示欲さん」
いつの間にか対面にいた委員長が、いい返事をしてくれた。
委員長が言うのは意外なようで、カマタニはポカンと口を開けている。
「坂下さんも、そういうこと言うんだ?」
「一緒くたにしないで下さい、と言いましたから」
「あー! ごめん」
ペアで呼ばれていたときか。
俺のダメージは蓄積されるばかりだ。
「練習どうなの? 嫌味の連携は取れてたけど」
「釜谷さんも問題ですからね」
「まだまだ、かもな」
「2人は、昨日の名誉ポイントで何か交換するのか?」
「分からん。そもそもが連携練習用だからな」
こいつ、また一緒にゲームしようとしてないか。
俺はしっかり拒否したはずだ。
本気で嫌かというと、そういうわけではないが。
「私が先行プレイできるようになれば、しなくなると思います」
「それまではすると?」
「たぶんな。俺はもうしたくないんだけど」
うんざりしながら、委員長を見るとこちらを見ていた。
俺の視線から、言葉以上の何かを感じたようだ。
「鷹峯さん。同じ状況であれば協力してくれると言いましたよね。随分と面倒くさそうですが」
「あれだよ、あれ。レベル上げが面倒なんだ。カマタニ、レベルは名誉ポイントでサクッと上がらないのか?」
委員長の追及から逃れようとテキトーなことを言うと、三騎士の事だっためカマタニが喰いついて来た。
「そういうのはない。基本的には武具とか回復薬とか、かな。レベルを上げたいなら合戦すればいいよ」
そこから、俺の昼食は終わっても、合戦の説明が終わらなかった。
合戦にはオンライン、オフラインがあって、経験値が稼げるのはオンラインの方らしい。
勝ち陣営の方にいれば1.5倍で、陣営の貢献度に応じた経験値とお金、名誉ポイント、アイテムが得られるらしい。
死んだ場合は生き返ることなく、霊体という状態で合戦を見ることができ、霊体になるまでの経験値が得られるそうだ。
「俺は帰るぞ。それで委員長、今日は合戦か?」
「釜谷さんが話しているのは、レベル上げに必要なことです。私たちは連携練習が必要ですから、オフライン合戦で十分でしょう」
カマタニへの物言いは基本的に俺よりも優しいのに、必要ない時はバッサリ切り捨てるところが委員長らしい。
それに剣武会の時は了承したのに、合戦を了承していないのは、剣武会はそこまでよくなかったのだろう。
当のカマタニは苦笑いしながら、スマホをいじっていた。
13時には運動をして、14時30分には風呂から出てきた。
出てきてすぐにカイラルをするつもりだったのだが、どうやら連日、人とゲームしていたせいで疲れているようだ。
『犬と一緒』を起動して、ポメラニアンを選択するとフワフワのクリーム色の毛をした犬が出現する。
ポメラニアンを撫でながら横になっていると、寝ていたようで頭をつつかれて起きた。
寝ていると30分後に『撫でるを要求』というコマンドで、起こすように設定してある。
偽物とはいえ、その行動に撫でまわしてしまうのは質感や動きが、本物としか思えないからだろう。
俺のメンタル回復手段であるアプリを満喫した後、カイラルを起動する。
今日は第2の町に続く森のボスを討伐だ。
ゲームを起動すると、緊急メンテナンスのお詫びに武器強化用の素材が送られていた。
俺は新しい武器を買うことしか考えていなかったが、そもそもこのゲームは気に入った武器を強化し続けられるという話だったな。
ボス討伐前に運が良い。
ログインすると急いで鍛冶屋に向かった。
「爺さん。刀の強化してくれないか?」
「無理だ」
人のいない店内でワクワクしながら聞くと、すげなく断られた。
当たり前だと言わんばかりの顔だから、理由はあるようだ。
「どうして?」
「俺にそこまでの腕がないからだ」
「この町にはできる人がいないのか?」
「いや、1人だけいる」
「へー。どこにいるんだ?」
「店の裏をまっすぐ行くと金属製の扉の家がある。そこだ」
「じゃ、行ってくる」
鍛冶屋を出て、金属製の扉を探して歩くこと2分。
木製の扉を金属で補強しているのかと思っていたが、全部金属の扉が1つだけあった。
ノッカーを3度叩くと、ドアが少しだけ開かれドワーフと思われる男が顔を覗かせた。
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