第26話
時刻は21時55分、決勝戦直前。
準決勝戦では委員長に実力を見せていないと、2回戦と同じようにカマタニの必殺技一振りで勝ち進んだ。
今から決勝戦なのだが、決勝戦前にしていた3位決定戦のレベルが高かった。
キャラのレベルもそうだが、技術的なレベルも高く、カマタニのように必殺技をぶっ放して、全てを無にするパワープレイとは正反対の動きだ。
HPを削って、焦らして、手を出させて隙を突く、両チームがそうだった。
そういう相手はVRで極少数の為、俺は今とてもうれしい。
実は決勝の相手の戦闘は見ていない。
ただ、そいつらに勝ってきたのだから、上手いのは間違いない。
「2人はおれが受け持つから、他は頼むよ」
「任された!」
「ホークさん、珍しくテンション高いですね?」
「3位決定戦見ただろ。あれぐらいジリジリする戦闘が出来そうだと思ったらな」
「そういう相手じゃないですよ」
「え、うそ?」
返答を聞き流し、2人はガラスから剣闘場へ出て行く。
急いで追い付いて矢印の下へ向かうと、1分のカウントダウンが開始した。
相も変わらず歓声がうるさい。
「アイツら、必殺技ぶっ放してくる奴らなのか?」
「そうです。近距離、遠距離で対応した必殺技を出してきます」
「本当かよ?」
「見てください」
カウントダウンが始まったばかりなのに、武器を構えている相手4人。
ただ、全員が妙な構えだった。
「何だあれは?」
「必殺技は高レベルなものになると、事前動作や構えが要求される。それがあれ」
構えだけで見ると、ダサい。
必殺技を出す、そう考えると良いのだろうが、ダサい。
俺から見て右端の片手剣使いは、両足を開いて右手だけを下げている。左端の細剣使いは両手で細剣を握って、切っ先をこちらに向けて姿勢を正していた。
間にいる2人の斧使いは野球のバッターの構えだ。
全員遠距離の必殺技を使ってくると思う。
「2人とも、カウントがゼロになったら俺の後ろへ」
カマタニの指示に従い、ゼロになると同時に後ろへ行くと必殺技が飛んできた。
細剣と片手剣は一撃重視のようだが、斧の2人は振る度に斬撃が飛んできて、終わる気配がない。
それらを防御したカマタニは、両手で地面に剣を突き刺したまま動かない。
「反撃するよ」
動かなかったカマタニが地面から剣を抜き、横に振った。
斧2人が出していたくらいの斬撃が飛んで行く。さすがベテラン、異常に強い。
斬撃を追い、走り始めたカマタニを見て、委員長と一緒に走り出す。
飛んでくる斬撃を回避する為に、斧2人の後ろへ回る片手剣と細剣。
斧2人は迎撃のため、必殺技を叫びながら振り下ろした。
斧の斬撃が飛んでくることなく残り、赤く光っている。
そこにカマタニの斬撃がぶつかって、相殺された。
しかし、その後に続いたカマタニの攻撃を防御することが出来ずに、斧2人は倒された。
「お前、強すぎだろ」
「当たり前、最古参のON存だからね」
そういう決め台詞でもあるかのように、スルスルと口から出てくる言葉。
少し気持ち悪い。バイクに乗ってる時の俺みたいだ。
「ホークさん、次の必殺技の前に早く行きますよ」
一撃で仲間を屠られた2人は、ようやく衝撃から立ち直ったようだ。
分かれて相手をするつもりだったのに、片手剣と細剣の2人は合流して、迎え撃つつもりのようだ。
俺が前に出て走り、後数歩で間合いに入るという所、メイスを振る準備をしていると。
「伏せてッ!」
真後ろから聞こえたその声に、1回戦でお腹をぶった切られたことを思い出し、目の前にいる片手剣の間合いに滑り込んだ。
「フルスイング!」
委員長の範囲攻撃が少し離れていた細剣の方にも届いたようで、片手剣と細剣は防御姿勢だ。
滑り込んだ状態から、片手剣の足に攻撃して膝を付かせる。
膝を付かせた片手剣士に委員長が、シールドタックルを決める。俺の体を踏みつけて。
「細剣の時間稼ぎしてください」
「わかった」
戦闘が終われば、俺を踏みつけるなと言う事を忘れないようにしなければ。
マウントポジションから盾と拳を叩きつける委員長、それを横目に細剣士へ近づこうとしていると、隙を突かれた。
委員長の方を見ていたのがダメだった。動く間もなく体にスッと細剣が刺さる。
痛みが薄く、違和感だけがあるVR。カイラルの方が情報量は多いな。
ただ、連撃をしてこないため、こちらはまだ倒れていない。
半分以下になったHPを気にせず、刺さったまま相手の首に一撃。
「チェストぉ!」
遥か昔の剣術流派が、使っていたという掛け声とともに攻撃する。
俺もカマタニに影響されたのだろう。傍から見れば気持ち悪そうだ。
気持ち悪そうな俺の一撃は決まり、細剣士はよろけて次の攻撃チャンスが来た。
「ヘビースイング」
狙うは膝、あわよくば委員長の様にマウントポジションまで持ち込みたい。
武器が発光しだした時に、細剣士の武器も輝き出した。細剣の切っ先は俺の顔に向けられている。
慌てて膝から手に狙いを変更して、相手よりも早く当てることが出来た。
それにより動き始めた細剣の軌道が変わっていき、俺の肩に何の抵抗もなく刺さる。
そのままメイスを振りぬき、肩を切られて更にHPを減らす俺。
後一撃でも当たれば終わる。
細剣士と俺、どちらも体勢は悪くて早く持ち直すのが難しい。
「ヘビースラッシュ」
その時、視界外から走り込んできた委員長が、細剣士を頭から縦に切り込んだ。
顔への攻撃に堪らず下がる細剣士を、見逃さず追撃する。
「ヘビースイング」
もう一度、顔に攻撃を受けて倒れる細剣士。
俺はマウントポジションを取る気だったのだが、委員長がジャンプしているのを見て、やめた。
細剣士の顔に円盾の縁が当たり、思わず目を塞ぎたくなる。
目を閉じながら、防御するために細剣士は手を動かそうとしていたが、委員長は寄せ付けることなくボコボコにしていた。
俺は手出しすることをやめ、戦闘終了まで委員長の凶暴性を見ている。
しかし、あと少しというころで細剣士は委員長の檻から脱出。
「ホークさん!」
俺の前に逃げてきた。
相手は走っており、その体目掛けメイスを振り下ろす。
相手を挟んだその奥で、委員長が長剣を振りかぶっているのが見えた。
俺とメイスは止まらない、相手のタックルも止まらない。
そんな2人を見て、委員長は笑っているように見える。
顔は見えないが、笑っている気がした。
「ヘビースラッシュ‼」
まとめて切られた。
1回戦よりも酷いのは俺でもとどめを刺せたのに、俺ごと、とどめを刺したところだ。
暗転し、光がゆっくりと戻ってくる。
戻ってきた視界で最初に認識したのは、笑いながら談笑している2人だった。
「優勝だ、ホーク」
「やりましたね。ホークさん」
「やったのはお前だ、ヒル。俺を踏みつけ、とどめを刺した」
「VRなんですから、気にしすぎですよ」
「そうだ。これで名誉ポイントも結構増えたと思う」
「はあ。それより、なんで控室にいるんだ。終わったんだろ?」
「自分たちで、ここから出る必要があるってだけだよ」
オフラインのルームに戻してくれれば、いいんだけど。
返事をしてメニュー画面を操作したカマタニにより、俺たちは噴水広場に戻ってきた。
「今日は2人ともここまでにしとく?」
「俺はログアウトする」
「私もそうします」
「2人ともじゃあ」
「バイバイ、ホーク」
「オンゾンさん、さよなら。ホークさんは朝練忘れないでください」
「わかってる」
意図してぶっきらぼうな返事をし、そのままログアウトした。
VR部屋に戻ってくる。
たまに落ちる桜の花びらをボーっと眺めていると、VR部屋にAIの声が響いた。
『チェストとは?』
「AIなんだから調べりゃいいだろ」
『いえ、私を購入してから一度も聞いていない言葉でしたので』
「買う前から知ってる言葉くらいある。そもそも買ってからの方がまだ短いだろ」
中学1年の時か。4年経つくらい?
小学生の時からいたなら分かるが、中学校の時だからな。
それより。
「見てたのか?」
『はい、AIですので』
「そういうもんか?」
『そういうものです』
まあ、ゲームの補助も一般的にはAIの仕事だし、今更か。
カイラルでは干渉してこないから、もしかすると俺はそれを含めて、楽しいと思っているのかもしれないな。
その日は23時まで読書をして、明日に備えて寝た。
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