第25話
俺はどこをムービーに使ってくれるのかと楽しみにしていると、チューリッツの道だった。
俺とにらみ合いをする騎士。
「あ」
「これは、勧誘イベントでしたね」
「そうそう、トーイチ王国の役職に就ける勧誘だよ」
どこら辺が勧誘だったんだ?
『ふんっ。怖気づいたか、今回はこのくらいで見逃してやろう』
『こっちが見逃すわけねぇだろ! ヘビースイング!』
加工されている音声で良かった。
俺はそう思っていたのだが、左側にいる2人はそうでもないようだ。
「普通、初対面の相手を殴るか、メイスで」
「明らかに数で負けているのに、よく戦闘を仕掛けますね」
ありえない、考えられないと言ってくる。
結局、副隊長に斧を振り下ろした所で映像が止まった。
『マウント・ホーク レベル10』
「ホークさん、名誉ポイント少なそうですね」
「確かに、相手が剣を納めていたからな」
『1分後に開始します。準備してください』
「俺が剣盾対応するけど、弓に対応できる?」
「ヒル出来るか?」
「できますけど、ホークさんも対応してください」
「わかってる。俺が弓の初撃受ける。イェデダイアの攻撃来ないように頼むぞ」
「分かりました」
「おれがそっちへ行かせないようにするから、問題ない」
確認事項も終わり、残り30秒。
相手も武器を抜いて構えている。
弓使いはこちらを見て、いつでも構えられるようにしていた。
残り5秒。
メイスを握り直して、息を吸った。
喉が渇くような緊張ではないが、手汗が出ているような感覚がある。
残り1秒。
その数字が消えると同時に、走り出す。
左の方で光の壁が立ち上り、イェデダイアと弓使いを分断した。
これは武器の必殺技だろう。ベテランになると他ゲーの魔法と変わらないものを必殺技で出せるらしい。
壁を確認すると、隙を狙った矢が飛んでくるが距離もあり避けることが出来る。
後方で慌てたような足音が聞こえて、顔が歪むのを抑えられない。
後ろを走っている委員長が当たりそうだったのだろう。足音が一定のリズムを刻んでいたのに、急にドタバタしていた。
残り10歩も無いところで相手の弓と矢が発光する。必殺技だ。
「ヒル!」
連携練習にふさわしい動きを俺はした。
右足を伸ばして、壁が無いから膝に手を付いて体を固定する。
すると、走っているリズムのまま、ふくらはぎ、肩を足場として委員長は跳んだ。
それを目で確認する間もなく、激しい発光の後、矢が飛んできた。
どうにかメイスの防御は間に合ったが、必殺技の威力が異常で俺はメイスと一緒に飛ぶ。
転がって起き上がった時には、委員長が弓使いの首に片手剣を突き刺していた。
円盾で腹を殴り、片手剣で頭を切る。
HPは少しずつ減っているが、それだけだ。
ダメージや衝撃を無視する攻撃があれば、脱することが出来る状況。
俺は手から飛んだメイスを拾って、攻撃に参加する。
下がろうとしている弓使いの後ろまで走り、バックステップした頭にメイス。
それからは、傍から見ると酷いものだったろう。
俺は見たくない。それくらい酷いやられようだったはずだ。
動くタイミングがなく、頭にメイスと片手剣、腹には円盾とメイス。
最後は長剣の必殺技で終了。
ついでとばかりに、俺も切られた。
「2人ともすごいけど……」
終了後に一瞬で控室に戻され、聞いたのがカマタニの煮え切らない言葉だった。
俺自身も感じているから、言わずとも分かるというやつだ。
「仕方ありません。レベルが低いのですから」
「そーそー。一撃当てれば終わるのに、当てられないのが問題だ」
「すごいと言えばオンゾンさんは、壁を作っていましたね」
「あれこそ、すごいだろ。必殺技か?」
「いや、まあ、そうだけど。うん」
返答が妙だったが、あれは必殺技で間違いないようだ。
そう言えば、俺の一撃無効化する装備はどうなってるのだろう。
メイスで矢を受けたとはいえ、衝撃は体に伝わっているから無くなっているかもしれない。
装備欄を見てみると、まだ装備されていた。
「そう言えばホーク。名誉ポイントいくら賭けたんだ?」
「俺が持ってた全部」
「いや、いくらよ?」
「2万だったか?」
「2万⁉ 初心者とは思えないくらいあるな」
「そうですね。どこでそれだけ稼いだんですか?」
「廃村の見回りで、村長が住むような家から出てきた男の話を聞いてたら、稼いでた」
俺よりもレベルが低い委員長は、まだその依頼をしていないから稼ぐつもりだろう。
委員長よりも食いつきがいいのは、カマタニだった。
「どこ?」
「教国の端の村」
「おれも初心者の頃したけど、あいつ敵だったぞ」
「え? 俺の前で泣き崩れてたけど」
「そうだけど、家に入ると飲み物取って来るとか言って、武器持って帰って来たぞ」
「話聞こうとしなかったとか。自分の用事を優先したとかか?」
「そうだったかも」
シビアなゲームだ。
一言間違えるだけで、敵にもなるのか。
もしかすると現実でも、そうなのかもしれない。
委員長との関係性なんて、無視されるギリギリのラインで文句言ってるようなものだよな。
「良い情報を聞きました。ありがとうございます」
こういう所で評価上げればいいのかな?
21時15分、剣武会第2回戦。
俺が見ていない1戦目の勝者と戦闘することになった。
相手は3人らしい。
「どんな相手なんだ?」
「レベルが高い1人と中堅2人だったかな」
「1対1じゃ、不安だ。頑張らないと倒せない」
「大丈夫、普通がんばっても倒せないから」
「それなら、大丈夫じゃないだろ」
「大丈夫。2人が負けてもおれが倒すから」
サムズアップしてこちらを見るカマタニ、イライラするいい笑顔だ。
委員長は長椅子に座って、黙ったまま動きがない。
「時間になりました。向かってください」
控室がノックされ、同じようにNPCに言われる。
俺とカマタニが立ち上がるが、委員長に動きはない。
「おい、ヒル」
呼びかけて肩に触れる手前で見えない壁に当たると、白い画面が出てきた。
『ログアウトしています』
「おい。オンゾン」
「フッ。安心して、3人相手しても勝てるから」
「ベテランの後ろで隠れてるから、頼んだぞ」
「ま・か・せ・て!」
またカマタニはサムズアップしてきた。似合ってるのが腹立つ。
剣闘場内に向かって歩いていくと、ガラスを抜けた先で歓声に耳をやられた。
そう言えばそうだった。
うるさすぎて、近くにいる奴の声も聞こえ辛かった。
先ほどと同じように、表示された矢印の下へ向かう。
『線上に並んでください』
『1分後開始します。準備してください』
並び終えると、戦闘準備に移る。
相手の頭上には名前とレベルが表示されている。こちらもそうなのだろう。
『カミソリ レベル50、仁 レベル32、リョー レベル30』
俺は武器を構えもせずに、カマタニの後ろへ移動した。
「本気だったんだ」
「当たり前、このゲームは連携練習しに来てるんだ。相手がいないんじゃ意味ないだろ」
「そう? でもちょうどいい。このゲームでどのくらい強くなれるか、見せたかったんだ」
「安心してくれ。最強になれるとしても、このゲームは練習でしか使わないから」
「分かってるよ。その考えを変えてみせるから」
残り10秒。
ベテランが強さを見せると豪語したくらいだから、本当に俺はいらないだろう。
腕を組んでいると、戦闘が開始した。
戦闘でカマタニは、強さを見せてくれた。
開始直後、片手半剣を顔の横で構えると、剣から空に向かって黄色い光が伸びた。
そのまま、横に振ると前方にいた3人のHPを削り切り、戦闘終了。
面白みのない1戦だったに違いない。
観客席からもブーイングが飛んでおり、俺も混ざってブーイングしていた。
「ブー、ブー」
「ホーク。俺に聞こえてるけど」
「わざとだよ」
返事をした直後、控室に転移してきていた。
長椅子には固まったままの委員長。まるで動きがない。
「おい、ヒル」
「すみませんでした」
「おおうっ! いたんだ、ヒル」
「俺も焦った。何でいなかったんだ?」
「ホークさん。女性にそういうこと、聞かない方がいいと思いますよ」
隣にいるカマタニも同意するように、すごい速さで頷いている。
トイレとか風呂とかそういう話だったのだろうか。そこまで気にするような事でもないと思う。
「そうか、悪い」
「いえ。理解してもらえれば大丈夫です」
「よし、ホークも謝罪したことだし、次の対戦相手の戦いを見よう」
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