第24話


 剣闘場に向かっている時、こちらをチラチラと見てくるカマタニの視線を感じていた。

 カマタニに視線を向けると、こちらを見てくる。


「何だよ、気持ち悪い」

「ほら、これ見てどう?」


 両手を広げて体を1回転させる。

 鎧に関しては良い評価をしていない、それだけは確かだ。


「鎧の話か?」

「そうだよ、さっきは紋章よりも酷いって話だったけど」

「言ってやれ、ヒル」

「まあ、好みは人それぞれですから」

「だってさ、ホーク」

「うん。だから好みじゃないって話だ。はっきり言ってダサい」


 流れが分からなかったわけではないだろうけど、はっきり言っておく。

 それでも分からなかったのか、カマタニは何度も鎧を見ている。


「ダサいらしいのは分かった。それで、2人はいつまでこのゲームするの?」

「認めた方が楽だぞ。いつまでするんだヒル?」

「分かりません。連携が上手くできるようになるまでです」

「それならこのゲームやりこむんだね」

「俺はそこまでするつもりはないぞ」

「私もやりこむほどではないです」

「まあ、聞いてくれ。このゲームは名誉ポイントをオンラインで競い合うのが楽しみ方なんだ」


 それ以降、続いた話をまとめると。

 名誉ポイントを集めて楽しもう。ポイントはアイテムと交換も可能。

 パーティ毎の名誉ポイントもオンラインに表示され、競い合いになるようだ。

 そして今から行う剣武会は、名誉ポイントを賭けて戦う。


「だから長くゲームをして、名誉ポイントを上げていこう」


 そうしてトライリッターをしようにつながるらしい。

 適当に相槌を打っていたが、それは無理な相談だ。


「俺はカイラルするから無理」

「私もいずれはカイラルをします。ただ、手に入るまではこのゲームですね」

「別にこれじゃなくてもいいだろ。俺は機構戦闘記がしたい」

「ホーク、オンラインは強い奴らがたくさんいる。そっちの方が連携練習できるだろう?」

「それもそうですね。でも名誉ポイントが必要なんですよね?」


 俺はどうにかして機構戦闘記がしたいのだが、カマタニはそれを阻止して三騎士をさせたいらしい。

 名誉ポイントに関して良案があるのだろう、ニヤニヤしていると感じさせた間があった。

 よく見ると龍の兜から見える目が弧を描いていたから、間違いなさそうだ。


「その名誉ポイント集めのために、今から剣武会に出る」


 詳細を聞こうと思った時には剣闘場に着いており、出入り口に向かって行く。

 ある程度剣闘場に近づくと、画面が出てきて『参加券を使う』というのが出てきた。


「参加券を使うのか?」

「そう。参加券を使って、剣武会のチーム戦を押して、賭ける名誉ポイントを決める。そこまで行ったら少し待ってて。おれが招待送るから」


 今持っている全ポイントを賭け、言われたとおりに待っていると、『ON存からパーティに招待されました』と出てきた為、承認してパーティを組んだ。

 すると、視界が暗転して剣闘場内部が見える控室らしき場所にいた。


 剣闘場内と同じ高さにあり、ガラスのようなもので区切られている。

 革張りのソファーと長椅子があり、俺の想像していた石の椅子とは随分と違う現代的なものだった。


「ここが控室。今回の剣武会は名誉ポイント集めのために高レベルのプレイヤーが相手だ。トーナメント方式で4回勝てば優勝。どうよ?」

「良いと思いますが、レベル差によって1撃でも受ければ、終わってしまうのではないですか?」

「そう言うと思って、これ」


 両手で俺と委員長に渡してきたのが、複雑に編まれた紐だった。


「これは体力を越える1撃を1度だけ無効化するアイテム。インベントリに入れて、装備欄から装備すれば戦闘につき1度だけ使える」

「あんまり変わらないな。一応もらっとく」

「いただきます」


 受け取って装備をした。

 1撃しか無効にできないのは、同レベル帯の即死攻撃を無効にする場合使うのであって、どの1撃でも即死攻撃の場合は意味がない。


「いつから始まるんだ?」

「ホークさん、ここです」


 示されたのは壁には、トーナメント表があった。

 チーム戦と書かれており、2人組から4人組のチームで戦うルールらしい。

 ほとんどのチームは上限の4人組で、3人組は俺たちともう1チームだけだった。


 第1回戦は全16チーム、8戦の中で2戦目。1戦目は20時30分から開始らしい。

 剣闘場を見ると、1戦目の人達はもう集まっている。

 20時30分、1戦目は始まって3分くらいで終わった。


「時間になりました。向かってください」


 控室がノックされ、NPCにそう言われた。案内してくれないらしい。

 システムを知っているカマタニに視線を向けると、サムズアップしてくる。


「さあ、出番だ」

「頼むぞベテラン、新人に相談なく高レベルの相手と戦わせるんだ。優勝させてくれないと信頼は取り戻せないぞ」

「辛辣ぅー」

「4人相手の時は3人受け持ってもらいましょう」

「任せてくれ!」


 強気なベテランが向かったのは、剣闘場内と控室を区切っていたガラスのようなものがある方だった。

 そのまま突っ込むと、ガラスを通り抜けていった。ゲーム的だ。


 委員長と俺もその後に続いて、剣闘場内部に入る。

 控室はほとんど音がしなかったが、剣闘場は声を出しても2人には聞こえないのではないかと思うくらい、うるさい。

 控室を見ると俺が通り抜けた後、石壁に変化していた。


 周囲も4mくらいの石壁で囲まれており、その上が観戦席になっている。

 観戦席で同じような服を着た人は多くいるが、派手な鎧を着た人達も見える。NPCとプレイヤーの違いがよく分かる。


 剣闘場は土の地面で、学校のグラウンドと同じだ。

 カマタニの後に続いて、視界に表示された矢印の下へ向かう。

 矢印の上には『線上に並んでください』と書かれていた。


 左から、カマタニ、委員長、俺の順番で並ぶと、正面の割と遠い所に2人の対戦相手が見えた。

 円盾と片手剣、スケイルアーマーでガレアを被った髭面のおっさん。

 豪奢な弓とそれに劣らない服を着た金髪オールバックのイケメン。


「さっきの見たから分かると思うけど、選手紹介ムービーの後にレベルと名前が出てくるから。レベル低い方と戦ってね」


 頷いておくが、1戦目は全く見ていない。気が付けば終わっていた。

 少し待っていると、こちらと相手側の頭上で選手紹介ムービーが始まった。

 まずは相手方の様だ。


 カメラが空中から何かの様子を映している。

 合戦のようで大量の人が両陣営から走り、ぶつかり合う。

 空中のカメラが地面に迫り、髭面のおっさんの顔を映した。


『ゔぉおおぉ!』


 叫ぶと同時に片手剣を相手に振り下ろし、映像が停止して顔の横に名前とレベルが表示される。

 『イェデダイア レベル55』明らかに高い。俺達の攻撃は通るのだろうか。


 映像が動き始め、イェデダイアの隣を矢が掠めて攻撃途中の相手に刺さった。

 矢が飛んできた方向にカメラが向いて、戦場を移動していくと、弓を構えた男がいる。

 この男は全身を映して停止。名前とレベルが体の隣に表示された。

 『ダンクリュス レベル48』それでも高い。でも最大HPはイェデダイアよりは低いだろう。

 映像の出来が良くて感心していると、観客席からは歓声が聞こえてきた。


「あの映像はAIが作ってるんだぞ」

「へー」


 聞こえづらい歓声の中で言わなくても、控室に戻ってからでいいのに。

 そう口に出そうとした時、こちらの紹介ムービーが始まった。


 薄暗い洞窟の中、鈍く光る赤銅色が多数の人間相手に大立ち回りを繰り広げている。

 何人も倒し、必殺技を放つ。片手半剣が光り輝き振り下ろす瞬間、映像が停止する。

 『ON存 レベル65』古参がこのレベルということは、現状のレベル上限が65なのだろう。


 映像が切り替わり剣闘場になった。委員長だ。

 1対1の戦闘。

 粗末な服を着た片手剣士に、片手剣で突きを繰り出す。

 ひるんだところを見逃さず、シールドタックルして武器を背負った長剣に切り替え、振り下ろす。


 振り下ろした所でカメラが顔に寄る。

 『グッド・ヒル レベル5』

 2人共、かっこいい。素直にそう思った。

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