第22話


 中に入り、大量の依頼があるボードに近寄ると画面が出てきて依頼を見た。

 依頼は他国までの護衛、盗賊の討伐、戦に巻き込まれた廃村の見回り等、色々あった。


 他国までの護衛と廃村の見回り依頼は、方向が同じだったため受ける。

 すると護衛依頼の集合場所と時間が表示された。マップに廃村の位置も表示されている。

 ゲーム内時間で今から1時間後、3つある門の内の東門に集合。


 その間、特にすることも無いためマップを頼りに歩き回ることとした。

 基本オフラインだから、周囲にいるのはNPC。

 確かに所々動きがガクガクしていたりする、だがそれ以外は見分けがつかないくらい人っぽい。


 剣闘場を目指して歩いていると、鎧を着た人がぶつかってきた。

 金髪に白い肌、青い目には嘲りが多分に含まれている。

 似たような人が5人くらいいるが、装備の高級感はぶつかって来た人が一番あるだろう。


「おい、傭兵がぶつかったのに謝罪もないのか?」

「ぶつかったのはお前だろ」


 イベントが発生した。

 謝罪すれば済むのだろうが、ここはゲーム。謝らないで済むところは謝らない。

 俺の返答に不穏なものを感じ取ったのか、取り巻き5人が広がり始める。


「チューリッツの傭兵は礼儀を知らんな」

「そうだな。それに加えてお前の事も知らん」

「それもそうか、頭を下げるなら、相手の事を知らねばな。私は3国最強のトーイチ王国、王国第2騎士団の副隊長だ」


 国の名前がトーイチ。

 身分は騎士団の副隊長。高いのは分かるがどのくらい高いのか分からん。

 副団長と言われれば、高いというのは分かったんだが。


「トーイチの騎士がどうしてここに?」

「傭兵を雇う、それ以外にこの国が存在理由はないだろう。それで謝罪は?」

「ぶつかったのはそっちだから、謝罪するのはお前だろ」


 ここまで露骨な他国人との接触があるという事は、これが国に所属する為のイベントなのだろうか。

 副隊長が腰の剣を抜くと、頭上にHPが表示された。

 取り巻き達も剣を抜き、俺を囲み始める。


「ふんっ。怖気づいたか、今回はこのくらいで見逃してやろう」


 副隊長は剣を納め、取り巻き達も戻り始めた。

 しかし、俺はやる気に満ち満ちている。

 武器を納めた今がチャンスだった。


「こっちが見逃すわけねぇだろ! ヘビースイング!」


 白く発光したメイスを副隊長の頭に叩きつける。

 副隊長の頭上にあるHPが半分くらい減った。攻撃と共に名前とレベルが表示され、初期イベントだと改めて理解した。


 『クラッド・トーイチ レベル10』

 どういう基準で副隊長がレベル10なのか。自分のレベル基準で相手のレベルが変わるのかもしれない。


「副隊長!」

「フルスイング!」


 集まろうとしていた取り巻きを範囲攻撃で近寄らせず、攻撃を続ける。

 しかし9レベル差があると攻撃はあまり通らないようで、ジワジワとしかHPが減らない。

 それでも攻撃の手を緩めず、範囲攻撃で周囲の牽制を行いながらHPがほぼ見えない状態まで減らした。


「おい、副隊長が虫の息だぞ。攻撃したらトドメ刺すからな」

 取り巻き達に注意して、メイスを納めて斧を取り出した。

 刃が分厚く、大きい斧で戦斧と言われれば納得できる大きさだ。


「副隊長、しゃざ——」

 体に違和感があり、腹を見ると剣が刺さっていた。

 いつの間に移動していたのか。

 振り返ると、背後から4人に刺されたようだ。それに剣を振りかぶった5人目が見える。

 HPがドンドン減っている。無抵抗でやられる気はない。


「フルスイング!」


 MPが少ないため最後の必殺技、範囲攻撃を背後に行う。

 柄がメイスよりも長いため攻撃範囲が伸び、剣を振りかぶった5人目を含めて攻撃できたようだ。

 ヨロヨロしながら副隊長の首に斧を振り下ろすと、視界が暗転した。

 

 チューリッツの中心部、3つの大通りが交わる噴水広場で目を開けた。

 体に刺さっていた剣はなく、ログにはレベルの上昇が記録されている。

 最後の攻撃は決まったようだ。

 視界に、表示されているレベルは5。

 剣が刺さっていた装備の確認をすると、カイラルとは違い耐久値はないようだった。


「やったな。アイツらどうしてるかな?」


 慌てている所を見に、倒れた場所に向かう。

 すると、そこには俺が倒した男よりも良い鎧を着た男がいた。

 顔はあの男に似ているが、にじみ出る怜悧さは全く違う。

 建物の陰に隠れて見ていると、取り巻き4人に指示を出しているようだった。


「馬車は?」

「もう来る頃かと」

「副隊長。あの者、殺しても良かったのですか?」

「構わん。私の替え玉が平民を襲っていたのだぞ。自ら手を下す方がよかった」

「では何故、傭兵に襲わせたのですか?」

「襲わせたのではない、襲われるのを見ていただけだ。今後手配される傭兵の質を見たのだ」


 ゲームらしさ全開で、遠くにいる俺まで声が聞こえてくる。

 字幕表示で対応してくれれば、良かったんだがな。


 その後、すぐに豪華な馬車が来て副隊長を乗せ、周囲を取り巻きで固めて北門へ向かった。

 どうやら俺はダシに使われたようだ。


 でも、今回のイベントは成功だろう。相手を倒せたし、レベルも上がったから。

 時間になった為、東門へ向かった。

 護衛依頼は複数の傭兵と行う依頼で、目的地はゼンツキ教国。2時間ほどで到着するらしい。


 東門の奥、チューリッツの外には大きな2頭引きの荷馬車があった。

 あれだろう。

 傭兵は俺の他に来ているのが3名だ。


「護衛依頼で来ました」


 馬車に近づきながら話しかけると御者席から、護衛いらないだろと言いたくなるくらいゴツいおっちゃんが出てきた。


「おう、お前で最後だな。今から教国まで2時間頼むぞ」

「はい」


 護衛依頼に来るのは、俺が最後だったようだ。

 俺は護衛方法を知らないから、どうなるのかと思っていたが、始まる前にヘルプが出てきた。

 先行する人、馬車内で護衛、馬車後方の人で分かれるようだ。

 他の傭兵が黙って動いてしまい、俺は馬車内で護衛。


 少し会話があってから役割決めるものだと思っていたのだが、これもまたゲーム的なところだろうか。

 馬車内には大量の木箱、樽が並んでいる。

 さすがにそれを踏むべきでないと考え、動かして隙間を作り座った。

 走り始めて思ったのは想像以上に揺れるということ。バイクの方が乗り心地は良い。


 乗り心地の悪さを助長しているのは、2頭引きで速度が出ていることが理由だ。

 外にいる護衛の傭兵たちは、ジョギングしている。

 ベテランたちが新人を気遣って、馬車内の護衛にしてくれたのかもしれないな。


「おっちゃん。この道を進めば教国なのか?」

「おう。教国までずっとこんな風に踏み固められた道が続いてる。この国からだったら、どの国へもこんな道だ」


 それにしても隣国まで2時間とは、近すぎやしないか。

 それから1時間、何もせずに馬車の中で座っていた。


「おう。ここで馬を休ませてから、出発する」

「わかりました」


 小さな村、マップを開くと見回り依頼が出ていた廃村だった。

 しかし、周囲に村人らしき人達はいる。

 復興しているということか?

 それとも逃げる準備をするべきなのか?

 いや、そもそも護衛依頼が怪しいのか?


 考えがまとまらない間に、見回り依頼のヘルプが表示される。

 ヘルプによると、見回り依頼は残っている家屋内に人がいないか捜索。家屋の捜索が完了していくごとに、達成率が上昇していくらしい。


 村にはそこそこ人がいて、武器も持っていないため現状は脅威と感じない。

 一先ず、村の人を無視して家を見て回ることにした。

 村のはずれに向かい、小さな家をノックする。


「すみません。入りますよ」


 返事もないため、ドアを開けると木や土が入り込んだ使われていない家だった。

 ドアを閉めて家から出ると、視界右上の達成率と書かれた場所に8%と表示されている。

 休憩をどのくらいするのか分からない為、急いで家を確認していく。


 村の端は使われていない家ばかりだったが、中心に近づくにつれて人が住んでいるようだった。

 ただ、気になる事が1つ。

 男しかいないのは、どうして?


 疑問はあるが家に入って行くと、達成率は上がり残すところ最後の1軒。

 他の家よりも大きく、頑丈そうな2階建ての家。これは村長の家だろう。

 作りの良いドアは金属製のノッカーが付いていた。

 三度ノッカーを叩く。


「すみません」


 今回は入らない、というより入れない。絶対に誰かいる。

 家の中でドタドタと音がして少しすると、重そうな足音がゆっくりと近づいて来た。


「はいはーい」


 陽気そうな男がドアを開けた。

 村にいる男達と同様にこの男もガタイが良い。

 金髪に無精ひげ、碧眼に頬傷。騎士と言われれば納得できるくらい強そうだ。


「あのー。ここって廃村だったらしいんですけど、村の人達が戻って来たんですか?」


 俺はプレイヤーで死んでも生き返る、だから特に気にせず聞いた。

 俺の言葉にタッパのデカい男は、顔を抑えてうずくまる。


「うわぁあああ! かあちゃーん!」

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