第18話
え、ホントに?
うそでしょ、と委員長に顔を向けると腹に違和感。いや異物感。
モブ兵士に腹を刺し貫かれていた。痛覚制限が効き過ぎて、痛みはほぼない。
HP残量を確認しながら、委員長に話しかける。
「それホント⁉」
「本当です。早く終わらせてください」
「ちょっと待って」
モブ兵士を蹴って、体から剣を引き抜かせると何度かメイスを素振りして重さを感じる。
体勢を整えたモブ兵士は上段に構えて、片手剣を振り下ろそうとしてきた。
振り下ろされる片手剣を避けずに、メイスで迎撃する。
重さを考えて少し早めに、いつもより力を入れてメイスを振った。
頭上に迫っていた片手剣が大きく弾かれ、体の傍を通り過ぎていく。
弾かれ体勢を崩しているモブ兵士の頭目掛けて、力を入れてメイスを振るとモブ兵士のHPが一撃でなくなった。
一撃では倒せない攻撃力が最大だと思っていた。どうやら違うようだ。
そもそも力が足らなかったようだ。
「鷹峯さんは斬撃系の武器ばかり使ってきたようですね。力を入れ過ぎない刃筋を乱さないことに慣れたのでしょう」
「分かってるよ」
嫌というほど理解した。
委員長に言われたのもそうだが、一撃で倒せたことから納得できた。
いつもの感覚でメイスを振ると速度が足らない。
さっきまでは、動かない相手をゆっくりとメイスで叩いていた。この場合、体に衝撃があるだけだろう。
斬撃系の武器ならば生身に当たるだけでも、一定以上のダメージを与えられた。
防具によって力の入れ具合は違うが、メイスほど力を入れることはなかった。
今日はメイスの良い練習になっている。
人とすることで練習効率も上がったが、カイラルをする時間は減った。
うれしくもあり、悲しくもある。
『次は必殺技です』
もっとリアルよりのゲームだと思っていたのだが、必殺技とは。どういうものなのか。
システム音声とともに目の前に白い画面が現れ、必殺技の説明を表示する。
必殺技は単体、範囲、役職の3つあり、役職の必殺技はバフやデバフで特殊らしい。
『現在持っている必殺技を表示します』
説明の画面上、さらに画面が出て、現在使用可能な必殺技を種類別で表示した。
単体技のヘビースイング、我慢。範囲技のフルスイング。この3つが今使える必殺技だ。
『単体技のヘビースイングを使って敵を攻撃してください。敵は動きません。必殺技は音声コマンド式、です。詳細は必殺技の説明を読んでください』
たくさん言われたが、説明を読めば大体分かった。
このゲームでは必殺技は音声コマンド式。技の名前を言えば発動する。
必殺技は武器攻撃力を上げるもの、と考えるのが分かりやすい。
必殺技毎に攻撃の仕方や防御の仕方で制限はあるものの、動きを決められてはいないようだ。
単体技のヘビースイングの場合は、振ることが制限で振り方に制限はない。
「ヘビースイング」
言葉と共に右のメイスが白い光を帯びた。
扱いなれていなかった時のように力を入れず、動かないモブ兵士を殴打した。
メイスを受けたモブ兵士は体を一度震わせると白く光って消えていく。
攻撃した場所はお腹だったのだが、一撃で倒すことが出来る。
『次は範囲技のフルスイングを使って敵を攻撃してください』
フルスイングの説明によると、武器が発光して長くなるから範囲攻撃が可能になるとあった。
敵が2人出現して、互いの剣が振れないくらい近くに並んでいる。
「フルスイング」
お膳立てされたモブ兵士に、倍の長さになったメイスで攻撃した。
重さ、重心は変わっておらず、不思議な力で攻撃範囲が伸びただけらしい。
2人のモブ兵士は攻撃を受けたがよろけるだけだった。ただ、ダメージは低いがよろける。
その後は役職技の説明動画を見て、チューとリアルは終わった。
終わるとチュートリアル開始時と変わらない、傭兵派遣組織の受付に戻ってくる。
「鷹峯さん、初心者クエストというものがあるようです。今日はそれを済ませてやめましょう」
「俺も受けないとダメなやつか?」
「パーティで受注すると大丈夫なはずです」
委員長が操作すると画面が現れ、初心者クエストを受注したことが分かった。
内容は武器屋、防具屋、薬屋、剣闘場をめぐるクエストのようだ。
中立の国を見て回ってゲームを楽しむために必要なことを確認するのだろう。
それから武器屋、防具屋、薬屋を回った。
武器屋ではメイスと斧以外のすべての初期武器を手に入れ、防具屋では今着ている防具を強化してもらい、薬屋ではHP回復薬を3本貰った。
今は剣闘場に向かっている。この国の中で最も大きい建物だ。
4階建てや5階建ての建物が並ぶ場所なのだが、剣闘場が大きすぎて距離があるのに見えている。
剣闘場に着いた時には、現実時間が21時になっていた。
見た目は、コロッセオと呼ばれている円形闘技場と似ていた。外から見る限りは。
近づいていくと、画面が出てきてクエストを達成した。
報酬は参加チケットと書かれてあり、受け取ると説明が始まる。
剣闘場に入れるのは剣武会に参加する時と観戦する時だけで、オフラインのNPC剣武会とオンラインの剣武会があるらしい。
オンラインの剣武会では名誉ポイントを賭けて戦闘するらしい。
オフラインで連携練習すればいいから、多分することはないだろう。
「鷹峯さん、少し遅れましたが今日はこれで終わりましょう」
「ここでログアウトしても大丈夫か?」
「はい、明日は早朝練習ですから忘れないでください」
「分かってる」
ログアウトを押して、VR部屋に帰ってきた。
委員長と離れられたため、思わず深呼吸をしてしまう。
いつもは他人の目とか気にならないのだが、知らない人と一緒にゲームするととても疲れる。
昼頃にも一緒にゲームしていたから、より疲れているのだろう。
『明日は朝早いですから、もう寝ませんか?』
「23時まではゲームする」
返事しながらカイラルを選択し、起動した。
町の中心部でログインして冒険者組合へ向かう。今日は昼が明るい日、でも21時過ぎだから暗くなっている。
暗い中でも謎の街灯で照らされており明るく、組合周辺は相変わらず人が多い。
見ている限りNPCとPCの区別がつかない。そこが面白いところだ。
「メクサさん」
クエストを受ける為にクエストボードで依頼を確認していると後ろから声を掛けられた。
思えば初めてゲーム内でおばちゃん以外に名前を呼ばれた気がする。
「はい?」
「メクサさんFランクに昇格できます。受付で手続きをお願いします」
「わかった」
受付嬢に続いて窓口に向かうと、トレーを出してきた。
現実ではあまり見ない現金をのせるトレーだ。
「組合証を渡してください」
たしか、装備できるのが3箇所くらいあって首を選んだはずだ。
首元に手をやるとチェーンの感触がした。スカーフをしたままどうにかチェーンの留め具を外す。
トレーに置くと、受付嬢はトレーを回収して組合証をチェーンごと持った。
そのまま、しゃがんで窓口の下で操作していると箱を閉じたような音、電車の扉が開閉するような音がして、受付嬢は立ち上がった。
トレーに置かれて差し出されたのは、今までとは違う金属板だった。
今まではデコボコした銅色の板だったが、今回は端の方だけ銅色で、他は鈍色の金属板だ。
『Mexa:F』と書かれている。ちなみにチェーンも鈍色だ。
「クエストボードのFランク依頼を受注可能です。がんばってください」
笑みの少ない笑顔で言われたから、何とも言えない表情をしてしまった。
スカーフのおかげで気付かれてはいないだろう。
会釈してクエストボードに向かう。
一先ずクエストボードに表示されているFランク依頼10個を全て受け、南へ向かった。
ペアウルフや耳鉈ウサギがいるここで、予定通りスキル熟練度を上げる。
使いやすい武器を見つける。そして、武器を購入したい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます