第17話


「現状は鷹峯さんと呼びますが、オンラインする場合はホークと呼びます」

「わかった、ヒル」

「まだ、このゲームを始めてはいませんよね?」

「ああ」

「進行度を同じにできそうですね、ゲームをはじめます」


 革製の手袋に覆われた左手が俺には見えないメニュー画面を操作した。

 すると、遠くに見えていた長大な壁がすぐ近くに出現した。いや、俺達が移動させられたようだ。


 目の前には開いた門と槍を持って片手剣を装備している金属ヘルムで顔を隠した門衛が4人、2人は目の前の馬車を検めていて、もう2人は馬車以降の人達を監視している。


『あなたは戦争中の3国、その国境にある国へやって来た戦士だ。この国は中立であるが傭兵派遣を行い、戦争に必要な兵力を提供することで中立を保っている。この国では劣勢な国へ傭兵を派遣して3国のどれかが力を持たないようにしている。貴方には自由がある。国に所属し騎士を目指すもよし、傭兵として戦うもよし、ただ、戦わないという選択肢はない』


「次、来い」


 ゲームの説明が終わると野太い声の門衛が俺たちを呼んだ。ヘルムで頭が覆われ声はくぐもっている。

 2人の門衛は槍を構え、誰何した。


「そこで止まり、名前と国に来た目的を言え」

「マウント・ホーク。傭兵になるため来た」

「グッド・ヒル、同じ理由です」

「そうか、国の中心部まで行くと傭兵派遣組織が見えるはずだ。そこで登録したら入国税は取らないが今日中に登録しないと犯罪者として傭兵達に追われるからな、注意しろ。登録したことは組織から俺達に通達される。行け」


 2人で門を抜けると、視界に表示されたのはUI。

 視界の上端真ん中にゲーム内と現実の時刻。その左にはレベルと名前、HPMPゲージ。左下にはパーティのレベルと名前、HPMPゲージ。


「このゲーム、MPとかあるのか?」

「自然回復以外の回復方法が存在しない必殺技発動用の力ですね」


『称号:ハロー、チューリッツを取得しました』

 右下にはログが表示されるようで称号の取得が分かった。

 中立国の名前はチューリッツらしい。


「急いで登録して、早くチュートリアルを受けましょう」


 委員長は楽しさが勝っているのか、言うだけ言って走り出した。

 いや、時間が無いから急いでいるんだろう。もう10分経っている。

 委員長を追って、傭兵派遣組織で個人登録を、受付嬢に勧められてパーティの登録を終えると白い画面が現れた。


『パーティメンバーがチュートリアルを受けます。共に受けますか?』


 はい、をタップするとまた平原に戻された。隣には委員長がいる。

 最初は操作説明が行われ、左手でメニュー画面を開いたり、痛覚制限の設定の注意事項があった。


 次にこのゲームで行う事だが、名誉ポイントというものを上げていくことが基本的な楽しみ方になるそうだ。

 名誉ポイントは派遣組織でクエストを受けたり、戦闘したりして上げることが出来る。


 しかし、このゲームは騎士のゲーム。

 騎士道精神に則ったロールプレイが、名誉ポイントを上げる為に求められる。

 名誉ポイントはレベルが上昇するごとに増減するらしい。


 レベルはあり、ステータスポイントもあるが、戦闘傾向から勝手にステータスポイントが割り振られるそうだ。

 チュートリアルの説明が終わると、そのまま戦闘チュートリアルに移行した。


『1対1の訓練を行います』


 システム音声と共に、俺と委員長の位置が離れた。

 少し離れた正面には金属ヘルムに鎖帷子を着た兵士が現れる。

 顔は布で隠されており、シルエットで人の顔だと認識させる。おそらくは大量に出てくる兵士なのだろう。


『武器を構えてください』


 モブ兵士が腰から幅広の片手剣を抜き、切っ先をこちらへ向ける。

 こちらもメイスを両手に持ち、左を相手へ、右を肩にのせて構えた。


『攻撃してください。相手は動きません』


 VRの戦闘系ゲームに慣れていない時は、攻撃するのを躊躇してしまう人が多いらしい。

 ゲームとはいえ人に攻撃するストレスを感じて、諦める人も多いと聞く。

 もちろん俺は躊躇しない。


 4歩走り、右足を前へ出すと同時に右のメイスをフルスイング。

 狙い通りに頭へ当たるが、柔らかいものを叩いたように反発してモブ兵士の形は保たれたままだ。


『防御してください。攻撃前に攻撃方向を通知します』


 メイスを構えて待っているとモブ兵士が歩いてくる。


『上から下』

 振り下ろしの攻撃通知の後、ゆっくりと攻撃したモブ兵士。

 武器の重さだけの攻撃をメイスでしっかりと受け止めた。

 モブ兵士は剣を戻し、再度構える。


『右から左』

『左から右』

『下から上』

 4つの攻撃を防御し終えると、モブ兵士は少し離れた。


『攻撃を逸らしてください。攻撃前に攻撃方向を通知します』

『攻撃を弾いてください。攻撃前に攻撃方向を通知します』

 防御の訓練は念入りに行われた。


 攻撃を受け止める、受け。攻撃方向に受け流す、逸らし。攻撃に対して攻撃を行う、弾き。

 それらを4つずつし終えると、モブ兵士は近くに来て武器を構えた。


『敵を倒してください。敵は動きます。攻撃方向の通知は行われません。あなたの攻撃から敵は動き始めます』


 たくさん言っていたが、敵は普通に動くから気を付けて倒せということだ。

 相手が動く、そのことに緊張が走るわけもなく、先ほど同様にメイスを頭に叩き込んだ。


 相手の頭上ではなく、俺の見やすい位置にHPバーが出てきてモブ兵士の残り体力は5分の1だった。

 攻撃したため動き出したが、構わず両手のメイスを叩き込む。


 ダメージを受けたが、問題なく倒し切ることが出来たようで、モブ兵士の体は白く光って細かい粒になり空へ消えていく。

 離れた位置にいる委員長を見ると、ちょうど始まったらしく走り込んでいる所だった。


 長剣の切っ先を後方へ向け、左肩でモブ兵士にタックル。

 モブ兵士がよろけたところで首元に長剣のフルスイング。

 首に赤い線が走り、体力が一撃でなくなったのか蒸発するように白く光って消えていった。


『今度は敵が2人になります。敵を倒してください。敵は合図とともに動き始めます』

 少し離れた位置にモブ兵士2人が出現して、同じ武器を構えた。

 2人を相手にするときは1対1を2回すればいいと言うが、もっと良いのは奇襲で1人を倒し切っておくことだ。


 合図される前にモブ兵士へ突撃する。

 先ほどと同じように右足を踏みこみ、同時に右のメイスを振りかぶった。

 振り下ろすと、モブ兵士の前に柔らかな壁があり攻撃は弾かれた。


『始め』

 弾かれて体が逸れたままの状態で動くことも出来ず、一撃もらう。

 満タンだったHPが3分の1削られる。


 メイスを使うだけで、体の動かし方が変わったわけではないのに弱くなる。

 いつもなら攻撃に合わせて逸らすことが出来た。

 しかし今回は、攻撃に合わせて武器を動かす事すらできていない。


 違和感が消えなくて、仕方なくモブ兵士で練習をする。

 一先ず、最初に攻撃を拒まれたモブ兵士を叩き続け倒した。

 もう1人は俺に何度か攻撃をしていたが、良い位置に当たっていないのかHPは半分残っている。


 練習する状況は整った。

 やることは簡単、攻撃を弾くだけ。

 両手に持ったメイスを構えて攻撃を待っていると、モブ兵士の刺突。


 左のメイスで右へ弾く。

 振り下ろしを右のメイスで弾く。

 袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ。9方向の攻撃を全て弾いたのだが、違和感は消えない。


「鷹峯さん、早く終わらせてください」

「練習中」

「後でしましょう」

「上手く動けてない、違和感を解消中」

「鷹峯さん、メイスは重いんです。弾く時にメイスが遅れています」

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