第13話


 月曜日の4時限目は実践学習。


 基本的には学校用のVR機を使った、遊び等をする時間だ。

 西棟の2階にあるVR室には現在、1-Ⅴの生徒30人が集まっていた。

 相変わらずインナージャケットを奪われている俺は、委員長の言いつけを守ってVR機の隣に立ち、次の指示を待っている。

 チャイムが鳴り、授業開始された。


「今日は鷹峯さんが来たから私はその付き添い、皆は赤沢と一緒に金曜日の続きをして下さい」


 委員長の声にクラスメイトは頷いて、VR機のシールドを開けた。

 俺も一緒にシールドを開けると、委員長はこちらを振り返る。


「鷹峯さん、今回ルーム設定で私とあなた。他クラスメイトの2ルームを作っています。VRに入っても私が来るまで誰もいませんから落ち着いてください」


 そんなに落ち着きのない奴だと思われているのか俺は。

 頷いて、シールドを下ろしスマホを接続する。

 シールドのロックを確認した。


『VR機使用可能です。始める場合は認証機器に触れ、合言葉を言ってください』

「VRゲーム、サイコー」


 視界が暗転して、衝撃を感じずにVR部屋へ移動したようだ。

 学校用は性能が高かったりするのかもしれない。

 学校のVRアバターは制服を着ていて、何だか気持ち悪い。


 VRでは、いつもキッチリしていない楽な服だからベルトや上着の、動きを制限させる感じに違和感を覚えた。

 今、真っ白い地面に立っているのだが、影もなく周囲も真っ白だから重力を感じているのに上下が分からなくなる。

 確かにこれは落ち着いて、と言われるわけだ。


「鷹峯さん、ゲームを始めますよ」


 いつの間にか隣にいた委員長が、左手で何かを操作している。

 俺も左手を振ってメニューを出してみると、ログアウトと設定しか項目がない。

 設定は普通のVR機と同じだった。


「鷹峯さん」


 呼ばれて、気付けば周囲は暗くなっていた。

 夕暮れで橙色に照らされる教室。

 全開にされた窓から心地よい風が吹き込みカーテンを揺らす。

 教室を見回すと黒板には『下校の時間です?』と白いチョークで書かれていた。前時代的だ。


「今から、このゲームのタイムアタックをします」


 タイムアタック。

 何度もゲームをしてマップとか内容を熟知している人がする高尚な遊びだと思うのだが?

 初めてこのゲームをする俺に、させる内容ではない。


「このゲームは階段を下りる前に課題があり、クリアしないと下りられなくなっています。3回下りて門まで到達、門での課題をクリアすれば脱出でき、ゲーム終了となります」

「課題ってなにするんだ?」

「協力脱出ゲームですから、2人で協力して突破することです」


 具体的な答えが欲しいのだが、くれなさそうだ。

 頷いて返事していると、委員長が手招きをした。


「この入り口を開けるとゲームがスタートします。スタートすると互いの声が耳に届くので気を付けてください」

「わかった」

「それでは行きます」


 ドアを開けた、と思ったら急いで走り始める委員長。

 階段に課題があると言っていたが、そもそもここは階段からどれだけの距離があるのか。

 頭の片隅で気にしながらも、委員長の後を追いかける。


 どうやら建物の真ん中に階段があり、俺達がいたのは真ん中の階段から最も遠い端の教室。

 2つある内のもう1つの階段は行けないようだ。


 課題がある真ん中の階段に到達すると、大きな扉に嵌め込まれた小さなダイヤルロックがあった。

 4つのダイヤルがあるのだが、数字ではなく説明が難しそうな図柄だ。


「私が説明します。図柄合わせてください」

「わかった」


 扉から少し離れた所に双眼鏡と窓の外を示した看板があった。正解のダイヤルがあるのだろう。

 委員長が双眼鏡を覗き込み、こちらに指示を出してくる。


「一番上のダイヤルです!」

「上はない。右か左。左のダイヤルの上にプラスの印がある」

「それからです。上下左右がバツ印に囲まれた三角です」


 ダイヤルを回していくと、それが見つかった。

 他の図柄は全く違っている所から、最初の課題は分かりやすいものになっているんだろうと推測できる。


「次は7と5が合わさった印のダイヤルです!」

「はーい」

「Jが4つ並んで横線が入ってます」

「オッケー」


 残りも合わせ終え、第1の課題は終了。


 大きな扉を開けて階段を下りる。

 次の課題に向かう委員長を追いかけると、真下の階段ではなく渡り廊下を渡り始めた。一直線では行かせてもらえないみたいだ。


 次の課題は見てもよく分からなかった。

 『ここに立ってください』と書かれた場所があるだけだ。

 委員長に遅れないように急いで指定された場所に立つと、隣にいた委員長が消えた。


「え?」

『私に指示を出してゴールまで向かわせる課題です』


 階段の扉には下を見ろと書かれており、指示に従うと地面に埋め込まれた双眼鏡。

 双眼鏡を覗くと迷路の中に委員長がいた。ゴールと示されている場所は少し遠い。


『私には壁が見えませんから、見えるのは一面に広がる芝生です』


 どうやら、したことあるみたいだ。


「進めない地面も見えない?」

『もちろんです』


 大体の道筋をゴールから逆算して、委員長の下までたどり着く。

 頭の回転がいいのか速かったと思う。


「指示する。そのまま真っ直ぐ」

「左。曲がったら緩やかな左カーブになってる」

「そこ、左のヘアピン」


 指示を続けていくと委員長のスピードが上がり始め、今は走っている。

 その所為で、指示に遅れが無いよう必死だ。


「右、右、真っ直ぐ、そこ左、そのまま真っ直ぐでゴール」


 走っているのを確認して双眼鏡から目を離すと、数秒後、右側に委員長が現れた。


「フゥー。次行きます」

「わかった」


 次が校内最後の課題。先ほどと同じように渡り廊下に向かい、別棟の階段に向かう。

 今回の課題も開始位置の指定がされている。


 その場所に立つと、委員長の足元から椅子が出てきて強制的に座らせた。そのまま足が拘束され、手には黒い板。

 それを見ているといつの間にか俺は、機械仕掛けの鍛冶場のようなところにいた。


『私が材料の指示です。鷹峯さんは材料を集めて、そちらに書いてあると思われる加工方法で加工し、腕輪を2つ作ってください』

「わかった。材料は?」


 機械仕掛けの鍛冶場には3段の棚があり、1段に5つの材料が置いてあった。

 見た目以外に材料を示す要素がなく、似た材料や色の違うものが多数ある。


『必要材料は立方体の8つの角がへこんだもの、砂時計のような形のもの、球に円柱が刺さったもの、蜂の巣のようなもの』


 指示された4つの中に色違いは2つ。

 砂時計が白と黄、円柱が刺さった球は緑と黒。

 壁には色同士の組み合わせ表があり、番号が振られていて順番通りにしなければ別物になるようだ。


「完成品の色は分かるか?」

『分かりません。ただアルファベットと数字が書かれています』

「言ってくれ」

『1G、2R、3Y、4B』


 組み合わせ表の上と横に数字とアルファベットはあるが、Rまではない。組み合わせ表のアルファベットはブラフか。


「最初が緑、2つ目が赤、3つ目が黄、4つ目が黒」


 最初が緑で最後が黒の組み合わせは他にもあるが、2番目が赤なのは1つだ。

 急いで材料を抱え、加工に向かうと看板に加工方法が書かれていた。


 最初は釜に材料を入れて、材料毎に決められた秒数の合計混ぜる。

 次に釜を持って材料をざるの上にあげて台の上に移動させ、色ごとに決められた回数ハンマーで叩く。

 最後は熱された炉へ加工順に放り込む。


『緑、赤、黄、黒ですよ。できましたか?』

「ちょっと待て、加工は終わったはずだ」


 炉の火が異常に大きくなり始め、色が変わっていく。

 緑、赤、黄、黒。加工順の色に変化して火が消える。

 材料を放り込んだ場所には2つの腕輪があった。


 腕輪に触れると気づいた時には扉の前にいて、隣にはいつの間にか腕輪をしている委員長。

 俺の左腕にも腕輪が付いている。完成した腕輪に触れると、場所の移動と装備が設定されているようだ。


「次が最後です。いいペースですよ鷹峯さん」


 俺の視界には今の時刻しか表示されていない。委員長にはストップウォッチ機能があるのだろう。

 階段を急いで下りる委員長の後ろを追い、門近くまでたどり着いた。

 階段からここまで30秒も経っていない。


「これが最後の課題です、か?」


 そう首を傾げるのも仕方ない。

 絶対に3つ目の課題よりも面倒なものが来る、と思っていた。

 でも、門は開け放たれていて、そのままゴールできるようになっている。

 ただ、今いる場所から門まで地面には大穴があり、白と黒の板を張ったつり橋が掛けられてた。


 つり橋の近くには説明書きがあり『腕輪を持つ者がタイミングを合わせて同じ色の板を踏むこと、失敗すればゴールはできずにその場でリタイアとなる』とあった。


「1歩目が1枚目の黒、2歩目が2枚目の白です。1、2の掛け声に合わせて踏みしめてください」

「オッケー」

「せーのっ! 1、2!」


 説明が終わればすぐに始めるのが、委員長スタイル。

 慌てて右足を踏みだして黒い板を踏む。


 踏むと同時に聞きたくもない、古来からの体力測定種目、シャトルランの気を急かすような音が聞こえてきた。

 委員長の掛け声よりもはっきりと耳に入ってくる。そういう設定でもしているのだろうか。


 そのまま、気を急かされながらも委員長の掛け声を頼りにして、つり橋を渡り切り、門を抜けた。

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