第12話
カイラル第2陣が始まって2日経った。
月曜日、学校の駐車場から教室までの道中で、カイラル第2陣としての進捗を振り返っている。
土曜日は運動や食事をして以降、再度ログインした。
そのまま、町を出て何度もペアウルフや耳鉈ウサギと戦闘を繰り返し、お金を貯めた。
日曜日は運動しない日としていることで時間ができて、22時頃には武器と防具を更新可能なくらいのお金が貯まった。
ただ、無駄に取り過ぎたスキルの熟練度を上げることが面倒になっている。
武器はどのスキルを集中的に上げるか悩んでいる為、まだ購入していない。
防具は胴と腰、靴、腕、手を購入した。
一揃いの物を購入したかったのだが、武器のお金が無くなる為、一揃いの装備をパーツごとに組み合わせた継ぎはぎ装備となった。
今日はスキル熟練度を出来るだけ上げて、使いやすい武器を複数見つける。
出来れば武器の購入までしたい。
明日以降で第2の町に続く森のボスを攻略して、ミッションを進める予定だ。
ただ、第2の町に続く森のボスの後に、東西の魔物の群れを討伐しよう、というミッションがある。
このミッションでは同じミッションを行う人同士をサーバーを跨いでマッチングさせるらしい。
昨日、23時にはゲームを終えた為、調べていた時に配信者が言っていた。
群れに対して複数人で当たれるのはありがたい。
他にも次のワールドクエストの時にステータスの称号欄が、これまでの戦闘方法により決まるとSNSに書いてあったりもした。
複数の書き込みがあった為そうなのだろうと思っているが、称号によってステータスの上下があったりするのだろうか。
どの書き込みも何故か曖昧に書いていた。
AR眼鏡に映る時間割と課題を確認していると、教室の目前で男委員長と出会った。
「おはよう鷹峯くん。ちょうどよかった」
「おはよう、何がちょうどいいんだ?」
「今日の5時限目——」
「練習は参加しない」
不快感を与え、相手にすることを面倒だと思わせる為に被せて話したのだが、委員長は笑った。
そう言えば赤沢とか呼ばれてたか。
「実は今日、スポーツ大会の出場種目を決めるんだ。例年はVRだけの大会だったんだけど、現実でもARを使った種目だったり、普通の種目も行うらしいんだ」
「それで?」
逃げるに逃げられない、そんな感じがする。学校行事は在学中に避けては通れない問題だ。
間違いなく今回の事も避けられないだろう。
「5時限目、どの種目に誰が出場するかを決めて、練習計画を立てるから残ってね。先生方からも1年生全員にメッセージが来ると思うから」
「わかった」
諦めがついた状態で教室に入った。
ARグラスの耳元からは棒読みの笑い声が聞こえてくる。
『ウフフフフ』
反応したくないがどうにか仕返しをしたいため、ミントタブレットを口に4粒放り込む。今日は現時点で6粒だ。
それ以降は何も言わなくなった。
スポーツ大会の種目決めの為、5時限目が終わるまで絶対に残っているように、とのメッセージが届いた。
だが、もしものことを考え、いつものように午前にはすべての課題を終わらせた。
時刻は11時50分。
昼休憩で食堂に移動しようと席から立ち上がると、隣には委員長、坂下の方だ。
「メッセージで知っていると思いますけれど、5時限目に——」
「知ってる、そんなに警戒することないだろ」
「ゲームの為に昼から帰る人なんです鷹峯さんは。人とは価値観が違っていることで何かの拍子に帰る可能性があります」
ない。
絶対にとは言わないが。
「食堂行くんだけど、どいてくれない?」
スマホを持って移動しようとするのだが、進行方向には委員長。
委員長はキョロキョロしながら、俺の動きを妨げている。
声を掛けた時にはキョロキョロもなくなり、移動してくれた。
「食堂に行きましょう」
後ろから声を掛けてきた委員長の腕には、俺のバイク用インナージャケットがあった。
インナージャケットがないとバイクで通学できない。毎朝ICの確認をするのは不具合があれば門の前で待ちぼうけするからだ。
わざわざ声を掛けてきたのは、このためらしい。
「俺のジャケット」
「5時限目が終わるまで私が預かっておきます」
「わかった」
前を歩く委員長と食堂に向かう。
生徒棟から出て食堂までの短い道で後ろから声が掛かる。
「わったん、カイラルどうだった?」
「お、カマタニ。めっちゃ面白かったぞ」
「どういう感じだった? VRに違和感とかあった?」
「ほとんどない、痛みは普通のゲームより感じる。視界も問題ない、匂いも違和感はなかったな。体はもちろん普通に動く」
食堂で頼んでいた昼食を受け取るまでカイラルの話は続いた。
VRの感覚の話。何をしたのかを話していった。
そのまま帰らないのに、いつもの席へ向かってしまい、委員長にジトッとした目を向けられる。
「鷹峯さん、カイラルをしているんですか?」
俺が嫌がっているのを気にせず、対面で食事を開始した委員長が聞いてきた。
ジト目はカイラルの事に向けられているようだ。
いつものようにヘルメット等を置いていない為、隣の席に座るカマタニ。
カマタニが俺よりも早く反応する。
「え、坂下さんカイラル知ってるの?」
お前、話聞かれてないだろ。と目を向けているとカマタニの前に男委員長が座った。
赤沢だったはずだ。
「『トモキ』は知らなかったか、こいつVRゲームメチャクチャ上手いんだ」
「へー、そうなんだ。それなら三騎士でも一緒にしない? 『シタン』もしてるし」
シタン?
カマタニが赤沢にそう言ったのは分かったが、一瞬何を言っているのか分からなかった。
それってあだ名なのか?
「三騎士は持っていません。最近は箱庭シミュレーションゲームをしてます」
「え? 『武士道 ウェポン』してなかったか?」
「時々です」
『武士道 ウェポン』。攻撃が武器主体の格闘ゲームだ。
このゲーム、一撃一殺モードと体力増強モードが流行っていた。
それがあまりにも流行りすぎて通常のルールと2つのルールを追加した、ルール毎のランクマッチができたほどだ。
「はあ、それで鷹峯さんはカイラルしているんですか?」
「ああ、第2陣で始めた」
会話によって止まった食事を再開する。
今日は俺の好物であるエビを使った料理、エビ定食。
エビフライ、えび天、エビチリ、エビの唐揚げと素揚げ、エビの春巻き、エビマヨサラダ、エビ殻出汁のスープ。
エビ好きの俺は美味しく食べているのだが、対面の坂下委員長は顔をしかめていた。
「エビばかりですね」
「ああ! 単品複数を一皿で頼み続けてるとメニューの提案してくれるから、こんな風になる」
「そうですか。それよりもスポーツ大会の話です」
カイラルの話は続かないようだ。
興味があると思っていたのだが、しているかどうかにしか興味はないらしい。
「どの競技に出るかって事?」
「そうです。メールに種目一覧が添付されていたと思いますけれど、釜谷さんは何に出場しますか?」
食事をしながら視界にメールが表示され、添付されているファイルが勝手に開かれる。
俺が開いてないのを知っていたから、開いてくれたのだろう。
「うちのクラスは希望が大体は通るらしいから、VRスポーツチャンバラかな。次点でその審判」
「俺もそれかな」
カマタニは、俺とは違うタイプの早く帰りたい勢だ。
コイツは人と関係を築くのが上手いから帰ってもどうこう言われない。そんなカマタニが指定した種目だ、早く終わるに違いない。
そう思い後に続くと、クラス委員長が揃ってこちらを見た。
2人の視線から希望が通らないクラスなのだと分かる。
「鷹峯くん、僕たちのクラスは優勝を目指している」
「そういう事ですから、4時限目の実践学習の時間はテストをします」
一応、無言でうなずいておく。
勝ちに行くとか確かに言っていたが、テストするとは本気具合が窺える。
普通、入学して早々の行事は仲を深める為だとか、和気あいあいと楽しむものじゃないのか。
和気あいあい、からクラス内で最も遠い俺が言うのもなんだが。
視界に表示される種目には選手人数と審判人数があり、野球やサッカーは数少ない教師が審判をするようだ。
種目の横には予定されている時刻があり、案の定、カマタニが言っていたVRスポーツチャンバラは9時から12時で終わるようだった。
俺もそれがいい、終われば帰れるだろうから。
「テストでやる気がなさそうであれば、帰る時間が最も遅い『先生方の手伝い、各クラス2名』に選びますからそのつもりで」
一覧の下の方に書いてあったのは『先生方の手伝い、各クラス2名 16時から19時夕食有』だった。
夕食だすから手伝いしてねってことか。これは困る。
「ダイジョブ、ガンバル」
やる気のなさから、何とも言えない返事が自分の口から飛び出した。
黙ってエビ定食を食べることにする。
「大丈夫か。初めてだろ実践学習」
「鷹峯くんは初めてだな、毎日昼から帰ってるから」
「そうですね。何度も残ってくださいと言っているのに帰りますから」
仕方ない。学校にいるよりも家でVRゲームしている方が楽しいんだもの。
「実践学習はじめてだったら学校VR専用アプリ『下校の時間です?』したらどうだ?」
「協力脱出ゲームですね。私は何度かしています」
「脱出ゲームのVRはあまりしないから、面白そうだな」
俺は特に考えもせずそう言った。
それ以降はカマタニと赤沢がしているゲーム、通称三騎士の話を聞いて教室に戻る。
歯磨きをして12時45分には4時限目の教室、VR室へ向かった。
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