第11話

 リザルト画面を確認してから時間が迫っている為、町へ帰還した。

 町の南出入口近くまで来た時、始まりの町でよく見る獣人種がこちらに手を振っていた。


「おーい」


 遠目から性別は分からないが高い声だ。

 それよりも誰に手を振っているのか、後ろを確認するが誰もいない。


「黒いスカーフしてる、あなたですよ」


 その言葉に思わず立ち止まり、確認したのにもかかわらずキョロキョロしてしまう。

 自分を指差していると、相手は何度もうなずいた。

 何が始まるのか、一応相手の頭上に赤いカーソルがない事を確認して近づく。

 遠目だから性別が分からないのだと思っていたが、近づいても分からなかった。


 顔は中性的、顔を隠していないから変装マスクをしているのだろう。

 身長は割と高めで、俺の目線の先に額がある。

 装備は腰までがマントに隠れて見えない。下のズボンは作りが良く、ロングブーツは流線的な模様が彫り込まれていた。


 武器は腰にでも付いているのか、マントで見えない。


「何ですか?」

「えーと。始まりの町、南から帰ってきたって事はペアウルフ狩ってきたんだよね?」

「狼みたいなのは狩ったけど」


 リザルトを見た時は碌に説明を見ず、牙とか部位でしか判断してなかった。

 インベントリを開いて確認すると、確かにペアウルフの素材だと書かれてある牙と爪と毛皮、魔石がある。


「えーと、私その牙と爪、出来れば毛皮が欲しいんだけど……」


 尻すぼみになっていく声が、申し訳なく思っているのだろうと考えさせた。

 申し訳ないと思うほどの価値が、この素材にはあるという事だろうか。


「できれば、売ってほしいんだけど」

「? 狩って来ればいいだろ」


 何故、自分でゲームを楽しまないのか。

 今はダメでも少しずつ上手くなれば、それでいいだろうに。

 どうしてそんなことを言ったのかと返答を待っていると、恐らく彼女だと思しき存在は第三者に話しかける。


「それは言い過ぎ、私はダメ元って言ったでしょ」


 誰に話しているのか、通話しながらゲームしているのかもしれない。

 俺がボーっと見ていると、相手はすぐに気が付いた。


「あ、えーと。私、今配信しててコメントに返事したから、気にしないで」


 カメラがあるなら別だが、どこから撮ってるかもわからない状況だと全く気にならない。


「分かった。それより自分で狩れない理由でもあるのか?」

「私、第2陣で始めたんだけど装備も整ってないし、生産系のスキル上げてるから戦闘が上手くできなくて」


「VRで上手く戦闘できない原因は運動が苦手ってだけだろ? 俺は問題なかったぞ」

「でも私、魔法使いで」

「ならパーティー募集でもしたらいいだろ? 初のVRMMOだからな」


 そう、初なのだ。

 大多数の人に呼びかけ、見知らぬ人とパーティーを組む。

 いろいろな人と一緒にゲームをする。


「そうね、また試してみる。けど、やっぱり素材を売ってくれない?」


 相手に渡すか考えようとした時、俺は自分へ課している日々の目標が浮かんできた。

 『一日一善』

 いつか、何かしら良い事が返って来るだろうという打算的な目標だ。

 それを達成すべきものとして考えると、次のような答えが出た。


「分かった」

「ほんとに、ありがと」

「それで、渡したいんだけど、どうやって渡すんだ?」

「インベントリを開いて、画面を開いたまま私を視界に入れてタップして、そしたら金額の設定と渡すアイテムを選べるから」


 言われたとおりにしてみると、アイテムの選択画面に出た。

 ペアウルフの牙、爪、毛皮を別画面にある送る専用のスロットに入れる。

 決定をすると金額の設定画面で『0』と設定して決定を押した。


「あ、きた。け、ど……」


 人差し指を伸ばしたまま、止まっている相手。

 インベントリ画面でタップしても名前は不明だった。


「いらないのか?」

「欲しいけど、良いのタダで?」

「いいけど、でき——」

『12時50分です。残り5分です』

「でき、なに?」

「時間無いから早く受け取ってくれ」


 残り5分で組合に行きクエストの報告。体力を回復させる為に宿でログアウトしなければならない。


「別に急ぐことないんじゃない。ここで出会ったのも何かの縁、お話ししましょう。たぶんだけど、あなたも第2陣なんでしょ?」

「第2陣だけどそれはいい。後5分で予定に間に合わなくなるんだ、それでもお話するか?」

「はあ、わかった。受け取るから行ったら?」


 芝居がかった仕草で出入り口への道を譲る、恐らく女性プレイヤー。

 嫌味ったらしいのか、俺の考えすぎなのか。それが相手のコミュニケーションツールなのかもしれない。

 立場が入れ替わってないか。相手が求めるものを渡したのに。


「ああ、悪い」

「私、毎週土曜日の20時は絶対にゲームの生配信してるから見てね。名前は——」


 名前を聞いた時、歩き出そうとしていた足が一瞬止まった。それだけの衝撃があった。

 止まったのを取り戻すように急いで歩き、組合に向かう。

 入ってクエストの報告・買い取り窓口へ向かうと、白い画面が出てきてクエストの完了報告を行った。


 耳鉈ウサギの討伐完了報告、ペアウルフの魔石3つを買い取りしてもらい銀貨1枚と銅貨40枚になった。所持金は銀貨1枚と銅貨90枚。


『ミッションを達成しました。ミッション内容を更新します。報酬として銅貨40枚を獲得しました』


 更にお金が増え、銀貨2枚と銅貨30枚になった。

 報告後、組合を出て宿に向かう。

 宿は冒険者組合の通りにあり、場所も近い。


「次は、第2の町に続く森のボスを討伐しよう、か」


 スキル熟練度を上げて、装備を新しくしてHPポーションをたくさん購入してからになるだろう。

 急ぎ宿屋の前に到達して、出てきた画面を操作していく。


 どういう部屋に泊まるかを選択すると、次にどういう効果の部屋か選択する。

 一番狭い体力回復部屋を選択して銅貨10枚を入れた。


 気づいた時にはベッドがあるだけの部屋に入っていて、横になりログアウトを選択する。

 そのままVR部屋のメニューからVRを終了した。

 


 脳みそが揺れるような感覚と共に目を開くと、目の前にはロボットアームがあった。


『12時55分になりました。準備は整っています』

「検索。アレハンドロさわじま」

『結果を表示します』


 驚きに固まった名前を検索してもらうと、壁に検索結果が表示された。

 どうやら配信サイトの生放送を表示したようだ。


『いやー、どうにかこうにかペアウルフの革、加工できたー! 後は裁断して縫っていくだけ』


 着替えながら見ていくと、周囲には職人らしき人達が見える。

 生産系のスキルを上げていると言っていたな。

 見習い制度でスキルを得たようだ。


 今まで戦闘ばかりだったから、生産系スキルを得てみるのもいいかもしれない。

 素材の入手を人に頼るのも嫌だから、まずは戦闘だが。

 着替え終わり、ARゴーグルと木刀を持って家を出た。


 ARゴーグルをつけると、視界にはアレハンドロさわじまの生放送が映っている。

 今は土曜日の13時前、20時からも生放送をすると言っていたから間違いなく運動不足だろう。


 VRは現実の運動能力が反映される。運動不足な人は戦闘を楽しめないことが多い。

 俺はVRが開発された当初から運動を続けてきたから、どんどん動けるようになっていきゲームが楽しくなっていった。

 VRで得た動きを現実に、現実で覚えたことをVRに。現実とVRは俺に良い影響を与えてくれる。

 だから俺は欠かさず運動をして、ゲームを楽しむのだ。


 エレベーターがB2階に到達したと同時にスマホを操作して、配信画面からトレーニング用のアプリに切り替える。


『準備運動を忘れずにしてください。施設の真ん中に移動後、トレーニングを開始します』


 その後、運動は14時まで続け、所定のルーティンをこなした。

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