第8話


 翌日、土曜日。

 昨日はいつもより早い23時に就寝した。

 0時からカイラルの第2陣は開始するが、夜中に起きていると生活リズムが狂う為、今日の朝からすることにしている。


 昨日は食事終わって以降、法律を無視して実際にある場所を走るVRゲームをした。

 寸分違わず作られた建造物、たくさんの受動車が走る道をバイクで疾走する。

 久々にしたこともあって、車両が追加されていたり、服も増えていたりと出来ることが増えていた。


 しかし、それらを試すこともなく新しいゲームを始める。

 8時に起きて、45分後にはカイラルをする準備が整った。


「誰も来ないし、宅配も無いよな?」

『はい。誰も来ません』


 俺の生活の管理をしているわけだから状況を把握しているのは分かる、だが言われると何だかモヤモヤする。


『VR機使用可能です。始める場合は合言葉をどうぞ』


 俺が言う前から起動していたようで、すぐに使える状態になった。


「VRゲーム、サイコー」


 眩暈の様な感覚を味わい、目を開けると桜の木の下に立っていた。

 ベンチに座り、左腕を振ってメニュー画面を出す。


 ゲームが並ぶ画面に移動すると、『ストレイファイター』のアイコン右上に黄色い点が付いていた。ゲーム内フレンドがログイン中の表示だ。

 長押しで調べると『サッカリン』の名前に黄色い点が付いている。名前の横には『4時間前からログイン中』と出ていた。


「5時くらいから何してんだ?」


 どことなく寂しさを感じながら、アイコンを長押しして消去した。

 何度かスクロールして、使用可能になっているカイラルを選択。

 大きく深呼吸して、起動した。


 ケルト音楽が聞こえてきて、視界が戻ってる。

 目の前には『カイラル:RS』と書かれた空。地面と先の見えない森が続いていた。


 左手をいつものように振るとメニュー画面が出てきて、ゲーム開始と終了、フレンドリストしかない。

 起動を押すと警告表示が出て、フレンドとゲームしたい場合はフレンドリストから招待を送るか受け取ってくださいと書かれてあった。


 一応読んでから起動すると、警告表示が出た。


 『アカウント情報を同期しますか? 同期しない場合はゲーム開始できません』

 迷わず同期した。


 そして再度警告『あなたはカイラルの2番、レセプトにログインしてください』

 画面には切り替わった警告が表示される。


 もう一度タップすると『ゲーム規約に同意しますか?』とあった。

 いい加減面倒になり、すぐに同意をタップ。

 ようやく画面が変わった。


 サーバーの選択のようで、10個のサーバーがあり2番目のレセプトを選択する。というより他は選択できなかった。


 次にキャラ選択、説明書きが出てきて2体までなら無料で作れるようだ。確認を押し、事前に作ったキャラを選択する。


 すると服装がVR部屋の物から、昨日作った物に変わる。

 ここでやっと『ゲームをはじめる』の文字が出てきた。


「長い」


 ボソッと漏れるが仕方ない。警告は必要なのだ。

 ゲームをはじめるを押すと、視界がひと際明るくなり、大量の白いブロックで出来た空間にいた。

 視界には0時00分と書いてあり、その近くに緑色と青色の横線があった。


『戦闘チュートリアルを行います』

「いや、お前かい」


 聞こえてきたのはAIの声。だがいつもと違い抑揚が感じられない。


『右手に何も持っていないことを確認して、白い点を押してください』


 右手を見ると指から少し先に白い点とそれを囲う円があった。

 押すとメニューが開き、画面が顔に近い場所で表示される。

 設定を探して、画面の距離、両手でメニューが開けるようにした。


 UI表示も変更できるようで、緑色のHPゲージ、青色のMPゲージ、現実の時間。

 パーティーをもしも組んだ時の為に、パーティーのHPとMPを見られるように設定する。


『メニュー画面のインベントリから各種武器を試してください』


 インベントリを開くと、大量の武器があった。

 棍棒をタップすると、装備する、捨てるの選択肢から装備するを選んだ。

 腰に少しの重さを感じて目を向けると、左腰に棍棒が付いていた。棍棒を装備する為のベルトと一緒に付いてきて、驚くほど質感が高い。


 MMOという所に目を向けていたが、感触がより本物に近くなっている。最近のゲームの中でも頭一つ抜けている気がした。

 棍棒を手に取ると、少し先に藁の的が出てきた。これで試すのだろう。


 近づいて一振り。

 真っ直ぐ立った藁は少しだけ揺れて、少しの間だけ藁の緑色のHPが減った。


『各種武器を試してください』


 次は片手剣。

 棍棒と同じように動かして叩きつけると、棍棒よりは藁のHPが減る。

 次は両手剣。


 思っていたよりも長く持ちづらいが、どうにか振り下ろす。

 片手剣と同じくらい藁のHPが減った。

 もしかすると、このゲームは最近のゲームより進化しているのではないだろうか。

 武器の速度、角度、力の向き、当たった後の動き、重心の位置からダメージを算出しているかもしれない。

 同じ武器でもダメージが同じにならない。人によって差が出るなら、チュートリアルは必須だな。


 それ以降、インベントリに入っている武器を全て試した。

 そして今、新しいチュートリアルに移っている。


『これが魔法の使い方です。実際に試してください』


 画面に出てきた使い方は4種類。

 短い杖の場合、長い杖の場合、素手の場合、近接武器の場合だった。

 インベントリを見ると魔法用の杖が追加されており、短い杖は30センチないくらい。長い杖は150センチくらいあった。


 問題の魔法の使い方だが、長い杖は動かずに魔法の名前を唱えると使えた。


「『ファイアアロー』」


 唱えながら注視する場所に飛んでいく、と書かれている。

 短い杖は魔法の名前を唱える前に謎の詠唱、杖を表示される軌道に沿って振ることで使える。


「え、えーと『我、求めるは火、第1の発射体 ファイアアロー』」


 素手は両手を表示される軌道に沿って動かし、体を動かし魔法の名前を唱えることで使えた。


「『ファイアアロー』」


 近接武器を持っている場合、長い詠唱を唱え切るか、魔法の名前を唱えて敵に既定ダメージ与えると使えるみたいだ。


「『ファイアアロー』」


 唱えて藁を攻撃し始めると最初に説明画面で見せられた通り、藁のHPの隣に紫色のゲージが出てきた。

 今、手に持っている武器は棍棒。

 それをダメージを受けずに10回攻撃できると発動できた。

 発動の瞬間、棍棒が輝き攻撃していた対象が薄赤く強調表示される。


 長い詠唱を唱え切る方は視界に半透明の画面が表示され、そこに詠唱が映し出される。それを読むようだが、面倒になってやめた。

 これは間違いなく使わない。


『戦闘チュートリアルを終了しますか?』

「はい」

『戦闘チュートリアルを終了します。生産系スキルのチュートリアルは始まりの町、見習い制度を利用して覚えてください』

『最後にスキルを選択してください。現状の所持可能スキル数は10個です。攻撃スキルの適性を表示します』

『各種スキルを1つずつ取ることを推奨します』

『スキルの熟練度を高めることで、新たなスキルが取得可能になります』


 その後、間髪入れずにスキルの選択に移ったかと思えば、どの武器が上手く使えたからどのスキルがいいと適性を表示してくれた。


 適性は高・中・低で表されているようで、魔法の適性が低いのはすぐに分かった。途中でやめたからだろう。

 遠距離攻撃武器の中ではスリングだけが高だ。


 近接武器の長物は中で、それ以外は高だった。

 短物では棍棒だけが中のため、練習する機会があればいいと思う。


 それからスキルを選択した。

 推奨された各種スキルは攻撃、防御、魔法だったようで項目ごとに分けられている。

 しかし、魔法を使う事はないし、防御よりも回避の方が多いだろうから選択しなかった。


 それに生産系のスキルを取ることもないだろうから、攻撃スキルだけになった。

 片手剣、両手剣、刀、短剣、両手斧、片手斧、斧投げ、飛礫、スリング。

 もしもの為に1枠だけ、あけている。

 スキルの選択を終えると、視界が暗転した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る