さよなら、私の中の誰か

川本 薫

第1話 バイバイ

会えなくても生きれた日は

カレンダーに丸をつけた


喉がかわいて耐えれない真夏のように

いつだって誰を探していたんだろう?

かわくから、欲しかったのか、

冷たいから、あたためてほしかったのか、それは定かではないけれど、

私の知らないところで、

私の気持ちも変形した


許せないことは

ひとつやふたつじゃなかったはずで

確かに刺さった言葉もあったはずなのに、それさえも知らぬまに

いつしか瘡蓋になって

ペリっと剥がれた


誰も信じてないよ

気持ちには裏も表もあって

誰も信じてないよ


旅立つときは、一人がいい

そう思っていたのに

優しい言葉はふいに

目の前に落ちてくる


誰も信じてない心には

裏も表もなかったから

このまんまを差し出すしかなかった


落としたら大変なことになる

必死で抱きかかえた命は

いつの間にか私の背を越えた


そして、まるでタッチしたように、

歩けなくなった命を

私は胸に抱きかかえた


誰を愛したのだろうか? 

何に夢中になったのだろうか?

何が許せなくて、

何に向かって私は

まだ生きようとするのだろう?


わかったふりして見抜いたふりしても

全然駄目だった


予想外のことばかり、

明日は私の目の前に

それを差し出してくる


さようなら

本当は一度も言えたことがないんだ

さようなら

続けることが才能と言われたとおり

手もふれぬまま

影が遠くになってゆく


冬晴れの空の数時間前には

闇のような深い夜があって

冬晴れの空の数時間後には

空は青から茜色に暮れてゆく


予約ができたらいいよね

なにもかも


予約ができるなら

私は迷わずに冬晴れの 

2月の空の下で終わりたい


凛とした空気とその後ろで

待つ春の匂いと

すべての思いが見上げるほどの

青になって

あなたを見守ることができたら、

それこそが有終の美だと思うから


言えなかった ひとつ ひとつ の

さよならがどうか

2月の空の青になりますように








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さよなら、私の中の誰か 川本 薫 @engawa2023

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