その日から毎日、お姉さんたちは僕に楽しい景色を見させてくれた。

 本当に、その場所にいるときは嫌なことは忘れられていた。

 だが、少し怖いと感じることもあった。

 異様にお姉さんの愛が強いと感じた。

 何故かは知らない。

 母親と離れて寂しい思いをしている僕を慰めようとしてくれているのだろうか?

 多分そうだ。

 別に少し『怖いな』とは感じるものの嫌な気持ちはしなかった。

 しかし、そんな楽しい日々も長くは続かなかった。

 その日は、早くからお姉さんたちのところへ行き、長く話したりしていたためかいつもよりも気持ちが昂っていたのだろう。

 お姉さんのことを話してしまったのだ。

 父や祖父母の顔が曇った。

 小屋のことは言っていないが、恐らく僕が口に出した『背の高いお姉さん』という言葉で確信したのだろう。


 翌日、僕は公園に行くことは許されなかった。

 祖父母の家の裏庭にある、大きな蔵の中に入れられた。

 しばらくすると、外が騒がしくなってくる。

 大人たちの声が聞こえてくる。

 僕のせいだ。

 楽しい気持ちに任せてポッと話してしまったから……。

 涙が出てきた。

 子供ながらに悟っていたのだ。

 あのお姉さんたちが大人たちに酷い目に合わされるということを。

 僕が、優しくしてくれたあの人たちのことを裏切ってしまったことがどうしようもなく悲しくなったのだ。

 すると、涙で滲んだ視界が明るくなった。


「泣くな少年」


 お姉さんの声がした。

 蔵の出入口を見ると、いつも小さな小屋に行くときに着ている真っ白なワンピースのお姉さんが立っていた。

 そのワンピースは、ところどころ赤く染まっていた。


「なんで今日は公園に来てくれなかったんだ?仕方がないから私が迎えに来たぞ。さあ、今日も行こう。少年は今日はどこに行きたいんだ?」


 お姉さんが僕を抱きしめ、いつもの調子で話しかけてくる。

 僕は、僕の身体をギュッと掴む手を払った。


 なんで?


 何故、お姉さんの手を払ったのか分からない。

 でも、何故か今日のお姉さんからはいつものようなあたたかさがなかったのだ。


「そうか……」


 お姉さんの顔が寂しそうに歪んだ気がした。

 お姉さんはそのまま蔵から出ていってしまった。


 どれくらい時間が経ったのか分からない。

 日は落ちかけ、空を茜色に染めている。

 喧騒はもう止んでいた。

 更に時間は進み、もう殆ど日が落ちた頃に父が迎えに来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る