前
背の高いお姉さんに連れられ、公園のフェンスを越えた山へ続く獣道を歩いていた。
木々が生い茂り、日差しを遮っているので道は薄暗くなっている。
ここでお姉さんの手を離したら迷子になってしまいそうだ。
そんな薄暗く道を抜けると少し開けた場所に出た。
先程よりもいっそう暗いその場所には、ポツンと一つ古い小屋があった。
その小屋の話を聞いたことがあった。
「この場所にはな、とある言い伝えがあるんだ」
「言い伝え?」
「ああ。『山奥にある御札の貼られた古い小屋の扉を開けると、オバケに連れていかれる』 って言い伝えだ」
父に連れられて、田舎に来るときに聞いた話だ。
そのときはさほど興味なかったが、もしかして……
そんなことを考えていると、お姉さんが小屋の扉を開けた。
その瞬間、この場所に強風が吹く。
風に乗ってなにか少しジメっとした雰囲気が漂ってきて、思わず目を瞑ってしまう。
次に目を開けたとき、僕の目には信じられないモノが映っていた。
顔が異様に大きく、パーツも歪んでしまっている鬼のようなモノ。
図体がデカい龍のようなモノ。
普段だったら絶対に見たくないほど怖いモノたち。
しかし、このときは何故か目を背けることはなかった。
逆に優しさのようなものまで感じた。
ふと、お姉さんが立っていたところに目を向けると、お姉さんの格好が変わっていた。
先程まで夏にそぐわないパーカーを着ていたのに、今はまるで炭酸飲料のCMに出てくるような人が着ているような真っ白なワンピースを着ていた。
異形なモノたちと、お姉さんは小屋の中に入っていく。
僕はそのあとを追いかけた。
◆
小屋の中には信じられないものが広がっていた。
小屋の中は"外"だったのだ。
小屋の中には色とりどりの花が咲く、花畑が存在していた。
「ググググググググ……」
鬼のようなモノが奇妙に鳴き始める。
「『この場所は君が行きたいと思った場所に繋がる。好きに楽しんでいくといい』と言っている」
龍のようなモノが低い声でそう言う。
確かに、この場所には来たいと思ってた。
この花畑は昔、母親と来た場所なのだ。
僕の頭の中はあたたかな母親の笑顔と、美しい花々が浮かんできた。
僕は思い出に浸りながら今日を過ごした。
帰りもまた、お姉さんに連れられていた。
「少年、約束してくれるか?」
「約束?」
「ああ。絶対に私たちのことや、小屋のことは親に話すな」
「うん。分かった」
僕は公園の出入口でお姉さんと約束した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます