背の高いお姉さんに連れられ、公園のフェンスを越えた山へ続く獣道を歩いていた。

 木々が生い茂り、日差しを遮っているので道は薄暗くなっている。

 ここでお姉さんの手を離したら迷子になってしまいそうだ。

 そんな薄暗く道を抜けると少し開けた場所に出た。

 先程よりもいっそう暗いその場所には、ポツンと一つ古い小屋があった。

 その小屋の話を聞いたことがあった。


「この場所にはな、とある言い伝えがあるんだ」

「言い伝え?」

「ああ。『山奥にある御札の貼られた古い小屋の扉を開けると、オバケに連れていかれる』 って言い伝えだ」


 父に連れられて、田舎に来るときに聞いた話だ。

 そのときはさほど興味なかったが、もしかして……

 そんなことを考えていると、お姉さんが小屋の扉を開けた。

 その瞬間、この場所に強風が吹く。

 風に乗ってなにか少しジメっとした雰囲気が漂ってきて、思わず目を瞑ってしまう。

 次に目を開けたとき、僕の目には信じられないが映っていた。

 顔が異様に大きく、パーツも歪んでしまっている鬼のような

 図体がデカい龍のような

 普段だったら絶対に見たくないほど怖いたち。

 しかし、このときは何故か目を背けることはなかった。

 逆に優しさのようなものまで感じた。

 ふと、お姉さんが立っていたところに目を向けると、お姉さんの格好が変わっていた。

 先程まで夏にそぐわないパーカーを着ていたのに、今はまるで炭酸飲料のCMに出てくるような人が着ているような真っ白なワンピースを着ていた。

 異形なたちと、お姉さんは小屋の中に入っていく。

 僕はそのあとを追いかけた。



 小屋の中には信じられないものが広がっていた。

 小屋の中は"外"だったのだ。

 小屋の中には色とりどりの花が咲く、花畑が存在していた。


「ググググググググ……」


 鬼のようなが奇妙に鳴き始める。


「『この場所は君が行きたいと思った場所に繋がる。好きに楽しんでいくといい』と言っている」


 龍のようなが低い声でそう言う。

 確かに、この場所には来たいと思ってた。

 この花畑は昔、母親と来た場所なのだ。

 僕の頭の中はあたたかな母親の笑顔と、美しい花々が浮かんできた。

 僕は思い出に浸りながら今日を過ごした。

 帰りもまた、お姉さんに連れられていた。

 


「少年、約束してくれるか?」

「約束?」

「ああ。絶対に私たちのことや、小屋のことは親に話すな」

「うん。分かった」


 僕は公園の出入口でお姉さんと約束した。

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