第5話 部活(2)

「今日はとりあえず見学でいいかな?」

小谷先生はそう言うと、パソコンのキーボードをカチカチと音を立てながら打ち込む。私が「はい」と返事をしているのに、小谷先生は全く反応しない。ずっとパソコンの画面を睨みながら文字を打っている。聞いているのかな。小谷先生の顔を覗き込もうと、私は首を傾ける。すると、小谷先生が急にこちらに顔を向ける。私はすぐに元の姿勢に戻る。

「何してるんだい?」

「な、なんでもないです」

「そう」

小谷先生はそう言うと、急に立ち上がる。私は少しだけ後ろに下がる。小谷先生は私の前を通りすぎ、近くにあるコピー機から何やら紙を取り出す。それを私に渡す。

「これ、取り合えず部活の入部届ね。入るの決めたらこの紙に名前書いて私に渡して」

小谷先生はそう言うと、私に紙を渡し、そそくさと自分の椅子に座る。

「ありがとうございます」

私はそう言って一礼し、職員室を出る。廊下で待っていた菜乃花が私に駆け寄ってくる。

「入部届もらった!?」

菜乃花が目を輝かせて聞いてくるものだから、私は入部届を菜乃花の目の前に出して、「もらったよー」と笑いながら言う。菜乃花は嬉しそうに笑っている。


「今日はグループごとの活動になるから、色ちゃんは私のグループに入って!」

「わかった」

菜乃花はいつになく張り切った口調で私をリードしている。私が写真部に入るのがそんなに嬉しいのだろうか。疑問を持つ反面、そう思ってくれてたら嬉しいなと、すこしだけ恥ずかしい気持ちになる。

階段を登り、廊下を歩き、美術室の中に入る。教室の中には美術部と写真部がそれぞれの作業に没頭している。私はなるべく音を立てないように歩く。菜乃花の後ろをついていくと、菜乃花は何やら作業をしている女子生徒の前で止まる。

「咲良(さくら)さん、つれてきました」

菜乃花がそう言うと、咲良さんと呼ばれた人は手に持っていたデジタルカメラを机の上に置き、こちらに顔を向ける。メガネの奥にある綺麗な二重。これ以上黒くならないのではないかと思うくらい黒い長髪。綺麗な人。私は反射的にそう思う。咲良さんは菜乃花の顔を見た後、私の顔を見る。すると、その人は素早く立ち上がり、私の手を両手で握る。突然のことに私は状況を全然飲み込めない。

「えぇ!?」

「ようこそ写真部に!!」

見た目からは想像できない元気で大きな声に私は驚きを隠せない。隣で菜乃花がくすくすと笑っている。私は訳もわからず、ただひたすら菜乃花にSOSの顔をする。

「部長、驚かせちゃダメですよ」

「だって嬉しいもん!新入部員が増えてさ!」

咲良さんはそう言うと握っている私の手を上下にブンブンと振る。なんなんだ。この人は。え、ていうかこの人が部長?嘘でしょ!?私の頭の中はもうめちゃくちゃだ。

「色さん、今日は見学だけ!?」

「は、はい」

「りょーかい。分からないことあったら菜乃花ちゃんとか私に聞いていいからね」

「は、はい」

私がそう返事をすると、咲良さんは握っていた私の手をはなし、ニコッとした後、すぐに自分の作業に戻ってしまう。嵐みたいな人だ。


「びっくりしたでしょ?咲良さん、見た目と性格がマッチしてないから」

「うん、びっくりした」私はそう言いながら作業をする咲良さんを見る。

「だよね〜」

菜乃花は棚からプリントを数枚取りながら、ニヤニヤした顔で私を見ている。何か言い返そうかと一瞬思ったが、さきほどの部長さんのせいでそんな元気はどこにもなく、私はため息をつき、もういちど「びっくりした」と言う。菜乃花はそれを聞いて、「お疲れさんです」と少し笑いながら言う。

「今日はね、私のグループで写真のプリントをするよ」

「そーなんだ。グループって何人くらいなの?」

「今は三人だね、みんな二年生だから仲良いよ」

「へー」

二年生、ね。人見知りの私からしたら二年生だろうがなんだろうがあまり変わらない気がするが。

「色ちゃん、あっちだよ」

「うん」

私がそう返事をすると、菜乃花は私の前を歩き始める。


「お疲れさまー」

菜乃花がそう言うと、長机で作業している女子生徒と男子生徒がこちらに顔を向ける。

「新しく入った人?」女子生徒が菜乃花に聞く。

「うん、色ちゃん、自己紹介」

菜乃花はそう言うと私の顔を見る。自己紹介は正直苦手だが、しないわけにもいかない。

「えっと、色です。よろしくお願いします」

私はそう言って軽く礼をする。すると女子生徒が「こちらこそ、よろしくお願いします」と座りながら礼をする。礼儀正しい。

「うわぁ、どんな人だろ」

男子生徒はそういうとキョロキョロと周りを見始める。私は少しだけ、違和感を感じる。

「碧空(そらくん)、こっちこっち」

「あ、こっちか」

碧空と呼ばれた人は私と菜乃花がいる方に顔を向ける。

「あ」

私は自然に声が漏れる。昨日の人、だ。昨日の放課後の出来事がフラッシュバックする。

「泉碧空です。よろしくお願いします」

昨日私を撮った青年が、私に礼をする。

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