第3話 盗撮(3)
え、撮られた?私が?突然のことに私の頭は完全にパニックになっている。どう、しよう。何を、どうすればいいのだろう?逃げる?それとも写真を消すように言う?消してくれるのか?盗撮をするような人が。私は必死に混乱し切った脳を使って自問自答をする。すると、
「え」
青年が独り言のようにボソッと呟く。青年は顔の前で構えていた一眼レフを下ろし、青年の目が見える。自然と目が合う。その時、私の思考回路が動き出す。
警察。
私は急いでスマホを制服のポッケから取り出す。電話マークをタップして急いで110と打ち込む。早く、電話しないと。私は電話ボタンを押そうとする。
「すみません、何か失礼なことでもしましたか?」
突然の声に肩がビクッと動く。スマホから目を離し、顔を上げると、青年が私の目の前にいる。163㎝の私より10センチ以上高い身長で、私を見下ろしている。
私は怖くなり、青年の胸部を両手でめいいっぱいの力で押す。青年は「うわ!」と驚いたような声を漏らすと、後ろによろめき、尻餅をつく。青年の制服のポケットからスマホが落ちる。
この人は危ない人だ。早く逃げないと。私はスマホを手に持ったまま走り出す。横断歩道を駆け抜け、家までの道をひたすらに走る。
家の玄関の前まで来たところで私は立ち止まり、走ってきた道を見る。青年はどこにもいない。追いかけては来なかったらしい。良かった。私は安堵からか、はぁ、と長く息を吐く。
「そうだ、電話」
私は手に持っていたスマホを見る。すると、画面にLINEの通知が表示される。私は表示されている通知をタップする。
『部活おわったよー』
(うさぎのスタンプ)
菜乃花からのライン。私はキーボードを表示して、文字を打ち込む。
『お疲れ様!』
私はいつも通りに返信する。その時、先ほどの青年のカメラが脳裏を横切る。私は急に怖くなり、周りを見渡す。青年がいないことを確認し、家の中に入る。
「はあ」
私はバッグを椅子の上に置き、ベッドの上にダイブする。私は部屋の中を見渡す。私以外、生き物一匹いない。私は顔を枕に押し付ける。疲れた。私はそのままゆっくりと、目を瞑る。
「しきー、ご飯できたよー」
一階からお母さんが大きな声で言う。私はゆっくりと枕から顔を離す。手に握っていたスマホの画面を見る。7時4分。寝てたんだ。私はベッドから足を出し、床につけ、立ち上がる。そのまま部屋を出る。
「色、寝てたの?」
お母さんがダイニングテーブルの上に唐揚げが盛り付けされた大皿を置き、私の顔を見る。私は目をこすりながら「寝てた」と言って、自分の椅子に座る。お母さんがテレビをつけると女性ニュースキャスターが今日の出来事を淡々と語り始める。
「ただいまー」
玄関から春弥の声が聞こえてくる。お母さんが「あ、帰ってきた」とお決まりのセリフを言う。
「色、お父さんの荷物持ってあげて」
お母さんはそう言うと、エプロンを脱ぐ。私は渋々「はい」と言って席を立つ。玄関に向かうと、お父さんが春弥の車椅子を押している。お父さんの鞄は玄関に置いてある。
「あ、お姉ちゃん!ただいま!」
春弥が私の顔を見ながら言う。私は目を合わせないように顔を下に向け、視界に入った鞄を手に持つ。
「鞄、部屋に持っていくよ」
「ありがとう、色」
お父さんは口角をあげてそう言うと、春弥を一階の部屋に連れていく。私は階段を登ってお父さんの部屋の中に入る。そして、いつものようにお父さんの仕事机の上に鞄を置く。ついでに、お父さんのバッグの中からお弁当箱をとる。
「今日ね、僕もドッジボールしたんだよ!僕だけ特別ルールで、僕の代わりに他の子が僕の身代わりになってね!その人が当たったら僕が外野に行ったんだ!」
「そうなの?ドッジボール楽しかった?」
「楽しかったよ!ボールも投げたし!」
「春弥、帰りの車の中でも楽しいって言ってたもんな」
「うん!」
お父さん、お母さん、春弥がいつものように小学校の話で盛り上がっている。私は黙々とご飯を食べる。小学生はなんでこんなにも馬鹿なのだろう、と真剣に考えてしまう。
「色は?学校どうだった?」
お父さんが唐揚げを口に運ぶ。その時、私は帰り道での出来事を思い出す。写真を撮られた。そんな言葉が私の脳に浮かぶ。
「普通だよ。特に何も。」
私は無愛想にそう答える。お父さんは少し残念そうに「そっか」と呟く。
「ご馳走様」
私はそう言って食器を重ねて手に持つ。そして、キッチンに食器を置き、水を軽くかけて、リビングを出る。
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