第二章 記憶のジグソーパズル

 僕はきっと今日も毎日同じ生活をする。

朝スマホのアラームで起きると、スマホにはすでにリマインダーの通知が来ている。それを朝確認するとパソコンを起動し、パスワード0314を今日も入力してロックを解除する。そしてファイルを開き、三つのデータを一つずつ朝起きてから確認する同じ日々を過ごす。そして今日が事故から三ヶ月が過ぎたことに、僕はとても驚きを隠しきれずにいる。昨日の記憶が無いため、僕は全てパソコンに記入してある日記などを頼りにしながら全てを読み終えると、リビングに行き五十代くらいの女性がいた。

その人は僕に

「翔ちゃんおはよう、今日大学はお休みだからゆっくり過ごして居よ。それじゃ私仕事だから味噌汁たちを温めて食べてね」

そう言って僕の母親であろう人は仕事へとでかけた。

僕は言われた通りに朝食の準備として、卓上テーブルにラップをしてある焼きサケを電子レンジで温め、味噌汁の入っているお鍋を温め、全てを温め終えると、ご飯をよそって朝食を食べる。一人家でシーンとしながら、外を車が通り過ぎる音を聞きながら朝食を食べ、食べ終えると自分の部屋に戻りまた、昨日の自分がかいたのであろう日記を読み、スマホの写真を見ながらこの人が誰でなど覚えようとした。

きっと今日また寝てしまったら、今日覚えたことなど明日には忘れてしまいそうなことだが、恋人である白石真白との会話で昨日の僕は少しでも、自分の記憶を少しでも長く記憶出来るように頑張ろうと思ったらしいので、今日の僕は昨日の僕の気持ちを引き継ぎ、僕は一生懸命昨日の出来事や家族、友達の名前を覚えることに時間を割き、気が付けば夕方、僕は丸一日人の顔と名前を覚えることをして過ごし、夜就寝した。

 夜が変わり、また新しい朝が今日もやってきた。

僕はいつものようにスマホのアラームで目を覚ますと、スマホにはきっといつも通り来ているであろうリマインダーの通知で、パソコンを確認パスワード0314と表記されている通知が来ていた。僕は重たい体を起こしながらパソコンを起動しいつものファイルを読み返すと、昨日頑張って覚えていたことを今日も全く何一つ覚えていなかった。

僕は結局今日も何一つ変わらず朝起きてパソコンを確認しリビングに向かうと、また五十代くらいの女性の人が居る。

僕はおはようございますと声をかけると

「翔ちゃん、おはよう。今日は病院に行くからご飯を食べたら出かける準備をしてね」

そう言って僕はこの人は僕の母親なんだと理解し

「わかった」

と言ってご飯を食べ出かける準備をした。

 僕がご飯を食べ支度するまでに一時間ほど時間がかかり僕は母親にお待たせというと

「それじゃ、行こうか」

母親はそう言って家の玄関に鍵を閉めて母親が運転する車へと乗った。

僕は車で病院に向かう途中何を話して良いのか全くわからないまましーんとした時間が過ぎ、三十分ほどで病院に着いた。僕はここに来た記憶は無いがきっと僕が交通事故に巻き込まれたときに運ばれてきた場所なんだろうとあらかた予想はつき、受付を済ませ診察室に行くとやはりそうだった。

病院の医師が僕に

「退院した以来だね、元気だったかい?」

と言ったのだ。

僕は全くこの医師と会った記憶が無いので曖昧な返事をすると

「まだやっぱり記憶は戻ってないんですね」

病院の医師はそういった。

僕の母親はそうなんですと言って

「毎日朝起きると昨日のことは忘れて、まだ私の名前さえも思い出していないんです」

と長々と話し始め、病院の医師は僕に

それじゃ、今日は脳のMRI検査をするからねと言い準備をさせられ検査を終えると

「脳には何も異常は見当たりませんね」

と医師は言った。

すると母親は医師に

「それじゃ、なぜ全く記憶が戻らないんですか」

「前は一時的な物だと言っていたじゃないですか」

母親は医師にそう何度も尋ねる。

そんな母親の熱さに医師は落ち着いてくださいと言って

「私も最初は一過性全健忘かと思ったのですが、もう事故から三ヶ月も経ちそれでも記憶が戻らないのは私もあまり訊いたことがありません。ですが、ごく一部の人でも一年後に直ったと言う人もいれば二・三年間時が経ち記憶が戻ったという人も極まれにいらっしゃいます。もしかしたらそうなのではないでしょうか?」

母親は本当にそうなのでしょうかと言いながら病院の医師はそれじゃ又三ヶ月後にもう一度病院に来てもらえますか、そのときまでに詳しく私は勉強しますのでと言い母親はわかりましたと言って、半日かかって病院が終わった。

 病院が終わり車の中で母親が僕に

「今日のことは日記に書くのはよしなさい。あなたにはもっと楽しいことを記憶した方がいいわ」

僕はきっと明日の僕を見て、あまり心配して過ごして欲しくないのだろうと思い

「わかった」

と答えまた静かな車の中になった。その沈黙が嫌だったのか、母親は途中、音楽かけるねと言って音楽をかけながら、家までのドライブが始まった。

 家に着くと家の玄関にある一人の女性が立っていた。僕とあまり歳は変わらなさそうな彼女は、片手にビニール袋を持って家のチャイムを何度か押している。

僕はこの人は一体誰なんだろうと思いながら声をかけると、なんと僕の恋人らしい。僕は少し驚いたが母親は僕の恋人を見ると

「久しぶり、真白ちゃん」

「お久しぶりです、翔君のお母さん」

そう母親は話二人は少し話し始めた。

僕は二人の会話について行けずに外でぼーっと立っていると、僕を見て気づいたのか

「うちに上がって、真白ちゃん」

母親がそう言うと

僕の恋人らしい真白さんはお邪魔しますと言って家に上がった。僕は二人が家の中に入った後に家に入り、玄関の鍵を閉めてリビングに行くと、母親がお茶を三人分用意してダイニングテーブルで二人は話をしていた。今日の僕はこの真白という人との記憶は全く無いが、僕はなんだか少し恥ずかしい。結婚の挨拶をしているようで僕だけかもしれないが、なんだか恥ずかしく今日はあまり話すことはなかった。


 翌日今日は大学にいく。

そう昨日の日記に書いてあった。

僕は今日も朝目が覚めると記憶が無いまま、パソコンを確認する。

いつも朝起きて昨日の思い出を思い出してみると、思い出す記憶は事故の瞬間、僕が空へ飛んだときと、地面に思いっきりたたき落ちた時の記憶しか残っていない。そんな嫌な記憶を朝起きてからいつも思い出してしまう。そんな記憶に嫌気を差しながらも僕は、今朝も一通り全てのデータに目を通して、朝リビングに行くと僕の恋人白石さんがいた。

僕はおはようございますと声をかけると

「おはよう、翔太君。今日は一緒に大学へ行こうね」

と彼女は声をかけてきた。

僕はハイと答えると母親はきっと今日もバタバタとしながら

「翔ちゃん、おはよう。ご飯温めて食べて真白ちゃんと大学に行くんだよ」

そう言って母親は家を出て行った。僕は朝食を温めていると

「なんだか朝から二人だと新婚みたいな感じがするね」

僕はそうですかと言うと

「そうだよ、毎朝こうして二人でご飯食べて仕事に行って、夜も一緒にご飯食べて一緒に寝て、また朝になったら一緒にご飯を食べる。これこそ夫婦って感じじゃん」

彼女はニコニコとしながら言うが僕にはあまりわからない、それでも僕は彼女を喜ばせるためになるほどとか言って相づちをしながら、ご飯を温め、ご飯を食べ終えると僕は大学に行く支度を済ませ、リビングで白石さんが僕を待っているので少し急いで準備を終えた、再びリビングへと急いで戻り、僕はお待たせしましたと言うと、彼女はそれじゃ行こうかと言って僕らは大学へと向かった。

 朝は人が多い。

きっと昨日の僕ももっとその前の僕も、大学に行っているならそう思っていたかもしれない。

だけど昨日は日記によると病院に行っていたので大学は休んでいたので確実にそう思ったかは知らないが、きっと昨日の僕も今日の僕も考えることは同じだろうと一人思いながら白石さんに

「大学ってここからどのくらいかかるんですか?」

と訊いた。

すると彼女はバスで三十分くらいだよと言って、家の近くのバス停からバスに乗り大学まで行くと白石さんが僕に

「今日の最初の講義は一緒だから、私についてきて」

僕はありがとうございますと言って彼女について行き講義を受けて二限目は僕の受ける講義は何もないよと言われたので、大学のキャンパス内を歩き回ることにした。

きっとき記憶がある僕なら知っているであろうこのキャンパス内を僕はぐるっと回った。

全てが初めてに思える僕はとても新鮮でとても面白い。

僕はそんな風に思ってキャンパス内を歩き回り、最初に居た一号館の生徒休憩室の椅子で休憩していると白石さんが僕の所へとやってきた。

そして僕はどうやら三限目講義があるらしい。らしいとではなくあるが正しいだろう。

僕は白石さんに三限目に行われる教室へと案内され、僕は一人講義を受け講義が終わるとまた、白石さんが僕の所へと来て

「今日はもう終わりなので家に帰りましょう」

と言った。

僕はそうなんですねと言って、大学から家に帰る途中白石さんと一緒に大学のバス停まで歩いているときにものすごい頭痛が僕を襲った。

歩くこさえ出来ないほどの痛みが頭に来て僕は倒れ込んでしまい、頭痛の痛みが徐々に増すにつれて、僕の意識がどんどんと遠くなっていった。



 僕が意識を戻したのは、倒れたその日の夕方。

空はすっかり夕焼け色に染まっており、僕は体を起こし周りを見るとそこは病室だった。

病室では僕の心臓のモニターが付けられており、一定間隔のリズムで音が鳴っている。

僕は今自分が置かれている状態を振り返り、少し自分の中で考えると、大学帰りにものすごい頭痛が襲ってきて、その場に倒れたのを思い出した。

それできっと、白石さんが救急車を呼んで病院まで運んでくれたんだと思った。

そしてそれを思い出して一人ぼーっとしていると

「やっと目覚めたんですね、翔太君」

僕はその声が聞こえる方向に目を向けると白石さんだった。

彼女は涙を流し

「よ、よかった、意識が戻って」

そう言って僕の元へ駆け寄り

「意識が今日はもう、戻らないかと思っちゃいました」

とかすかに聞こえる声で言った。

僕をそんなにも心配してくれている彼女に、とりあえず救急車を呼んでくれたことに、ありがとうございますとお礼を言うと

「そんなお礼とか言わなくて良いけど、今体調は大丈夫?」

彼女は心配そうな目をして僕に言った。

僕はハイ、おかげさまで元気ですとい言い、彼女に僕が眠っていた時に見て、今でも鮮明に覚えていたので夢の話しをした。

今さっきまで眠っていた間で見た夢は、まるでその場所がリアル世界のような夢で、白石さんと僕が、大学一年の時に白石さんがなぜか泣いているときに僕出会った夢を見たんです。僕は夢の中で見たことを話すと、彼女はついさっき止まったはずの涙を再び流していた。

僕はなぜだろうと思い彼女に

「どうして、泣いているんですか?」

と訊くと

「その夢は、夢では無く本当に起こった出来事なんですよ」

彼女は涙を流しながら言った。

僕はそうだったんだと言いながら僕は

「きっと、もう少ししたら、記憶が戻る兆候だったんですね、きっと」

と白石さんに言うと

「多分、そうですよ」

と言って彼女も笑った。

そんな僕らが話していると母親が僕の所へと来て

「起きたんだね、ところで気分は大丈夫かい?」

僕は気分はとても良いよと言うと

「翔太君、記憶を夢で見たんですよ」

と真白さんは言った。

すると母親は本当なのと真白さんに言うと

「ハイ、本当です。私に話した夢の話しが本当にあった出来事の話しだったので」

母親はちょっと先生に話してくると言って、病室から出て行き二十分後にまた戻ってきて僕に言った。

「その夢は記憶が戻る兆候かもしれないらしい」

僕は先生に

「本当なんですか?」

と訊くとはっきりしたことはまだ分からないが、記憶が戻る可能性は高い。

僕はその事を聴きとても嬉しかった。

もし記憶が戻ればまたいつものようにきっと過ごせるようになるからだ。僕はそんな淡い期待を込めながら今日から二・三日経過観察のため病院に入院することを伝えられた。

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