挫心
ラシェが祈りをささげる後ろに、同じく祈りを捧げる集団ができている。
皆が、心を一つにして、夕陽に頭を垂れている。
ラシェはひたむきにカサの無事を念じている。
その手の中には、カサに貰った赤い木片。
背後を固めるその集団には、ベネスの邑人も、サルコリもいる。
誰が最初に、ラシェと共に祈りだしたのか、今では判然としない。
ただ気がつくとこうだった。
ラシェも、自分の背で祈る人たちに気づいているが、なぜそんな事をしているのかは知らない。
ただ、祭りの時に、素晴らしい唄と踊りを見せたあの巫女が、一心に祈る姿に心を動かされたのである。
祈る人影は、一人また一人と増え、その数今や、百に迫る。
そしてその数は、今なお増えつづけているのである。
エルが遠くからそれを眺める。
あの日から、エルはラシェと一言も話していない。
強くなじった事を悔やみながらも、聞き分けのないラシェに対する苛立ちも消えない。
――謝ろうか。
刻を置いて素直になると、自分の言葉が過ぎたことも理解できる。
だがラシェの姿を見つけると、エルは逃げるようにその姿を隠してしまう。
ラシェの言うとおりだった。
サルコリの仕事は、日がな終わる事がない。
よく邑の者が言うような、寝ているだけの怠け者の集団ではなかった。
同世代だというのに、ラシェはグラガウノ(機織階級)の一番下に属するエルなどよりも、よっぽど働いている。
ラシェもまた、寂しい思いをしている。
だが自分が謝るべきだとは、思っていない。
何度かエルを見かけた時、逃げるように避けられてとても悲しかった。
――友達だと、思ってたのに。
ちょっと拗ねている。
いつか捕まえて、無理やり挨拶してやろうなどとも、考えている。
エルがいないと、ラシェには一人も味方がいなくなる。
ソワクもゼラもヨッカもセテも同じ目線で語り合ってはくれず、心休まる相手ではない。
ラシェに祈りを捧げる人間たちが、ラシェをさらに孤独にしている事に、エルは気づいている。
珍しく、この夕暮れにはコールアも姿を見せている。
目が合い、エルが胡乱にその顔を見つめ続けると、コールアが狼狽えて目を逸らした。
エルがコールアからラシェに目を戻す。
今日も陽が沈む。
寂しさが際立つ背中に、エルはどうしても声をかけられない。
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