戦士たちの別れ

 戦士たちの別れは淡白であった。

 充分な数の獲物を手にしたイサテの戦士たちは、一礼し、朝早くに去っていった。

 パデスの離別の挨拶は丁重で、この交流が短い間であったが有意義であったと、ベネスの者全てに対して深く謝意を示した。

 カサも別れを寂しく感じた。

 せっかく仲良くなったノキと、また離ればなれにならなければならない。

 たった十日あまりの事であったが、戦士の中に同じ年頃の友人がいないカサにとって、誰にでも気安いノキの存在は大きかった。

 ノキも、とび抜けて優秀なカサに友人がいない事に驚き、残念がってくれた。

「さよならカサ、また狩りの空で」

「さよならノキ。また狩りの空で」

 お互いの手首をつかむ、砂漠式の握手で二人は別れた。

 一方こちらも気の合うソワクとパデスは、お互いに目配せをしただけで、無言のうちにそれぞれの集団に戻る。乾いた砂漠の風のように、後にひかない別れである。

「ゆくぞ!」

 パデスの号令のもと鬨の声をあげ、イサテの戦士たちが一足先に帰路につく。

 去ってゆく彼らに、残されたカサが名残惜しげな視線をおくる。

 カサと彼らの間の空間を、スェガリ、獣の臭いが混じる風が吹きさらってゆく。



 やがてベネスの戦士たちも、狩り場を去る日が来る。

 ひとたびの静寂を取りもどした大地も、すぐ訪れる幾多の戦士たちの足音に、また眼を覚ます事だろう。

 夜が訪れ朝が来て、人の営みはつづいてゆく。



 戦士が邑に着いてすぐに迎え出てきたのは、小さな子供たちである。

「戦士だ!」

「戦士が帰ってきた!」

「おうい!」

 男の子たちにとって、戦士は憧れの対象である。

 多くの男の子が、戦士になる事を夢見、お気に入りの戦士に自分を重ねて得意になる。

 そんな子らが、邑の入り口にちらほらと姿を見せている。

 そんな彼らの目当ては、ただ一人。

 近ごろ頭角を現す有力な戦士長候補であり、あの無比の大戦士ガタウの槍を継ぐ者と噂される若い戦士、カサ。

 彼を見るために、朝早くからここで待っている男の子も少なくない。

 その、カサである。

 ヨッカからあらかじめ聞かされていたが、彼らの開けっ広げの笑顔に、カサは戸惑う。

 槍玉にあげられこそすれ、歓迎に値しない人間だと、カサはずっと思われていた。

 四方から投げかけられる視線の中に、知った顔がある事に気づく。

「……カサ! ……カサ!」

 ラノだ。戦士たちを遠巻きに追いかけながら、声を潜めてカサを呼んでいる。そのラノに、何人かの友達たちもつづいている。

 まわりの目もあって、返事を返す訳にもいかないカサは、首を小さく振ってラノたちに応える。

 ラノたちが笑い声を上げて走ってゆくと、カサはホッとする。

――戦士たちが集まっている所に来ちゃいけないって、後でちゃんと言っておこう。

 ため息をつくカサ。

 その安堵の奥底に、むずがゆさがある。

 ずっと疎まれてきた自分が、急に子らに懐かれるのに、戸惑いと照れくささがないまぜになる。

 まとわりつく子供たちを引き連れ、戦士たちが邑に戻る。

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