二人の戦士長

「過ぎたる願い聞き入れていただき、感謝したい、ベネスのガタウよ」

「さほどの事ではない、イサテの大戦士長パデスよ」

 ガタウとパデスは狩りの算段を始めた。

 二人の周りを二つの邑の戦士長たちが囲み、人員配置の相談をする。

「申し出たのは我々だ。幾らでも人は出す。よろしく願う」

 力量を知らない戦士に槍は任せられないと申し出は断り、槍はベネスの者だけと決まった。

 一番槍はもちろんガタウ。

 二番槍にソワク、バーツィの二人の二十五人長に四人の戦士長を加えた六人。

 三番槍にラハム、リドーの二人の二十五人長に、イセテとテクフェとあと二人の戦士長、こちらも六人。

 ここまでは、磐石の人事であろう。

 そして終の槍には、カサが呼ばれる。

「はい」

「——その、子供を?」

 よばれて進み出たカサに、イサテの男たちが懸念の声をあげた。

 このような戦士になりたての子供が、大戦士ガタウの狩りの終の槍を?

 当然であろう。背も低く、貧弱なカサが、ガタウに次ぐ槍を担うのだ。

 何よりカサは若すぎ、そして隻腕だ。

――戦士ガタウは、どういうつもりだ?

――我々を、軽んじているのか?

 イサテの男たちに動揺が広がる。

 パデスがソワクに話しかける。

「戦士ソワク。終の槍はお前だと思っていた」

 以前イサテの戦士団とあった時、ソワクはまだ二十五人長ではなかったが、類まれな戦士の資質は、パデスの記憶に強く刻まれていた。

 あれから長い時が経ったが、今日ひと目見てそれがソワクであると、パデスには判った。

 あの時よりもはるかに逞しく成長し、練達の戦士の風格を漂わせている。

 ソワクが不敵に笑う。

「カサでは不満か?」

 パデスは厳しい顔をする。

「体躯が細い。それに……」

「それに、どうされた」

 ソワクは楽しそうにつづきを待つ。

「あの少年は、片腕だ」

「うちの大戦士長も片腕だ」

 パデスはため息をつく。

「あの少年は、戦士ガタウではない」

 伝説の隻腕の大戦士ガタウ。

 その真似は、誰にでもできる事ではない。

 片腕を失った戦士など珍しくもない。

 だが、まず彼らは皆腕を失う前から優れた戦士であり、そして四肢を損じてのちは著しく狩りの能力を欠いた。

「カサは、カサだ」

 ソワクは気負った様子もなくパデスにそう答える。

――大きい男だ。

 己に劣らぬ体躯のパデス。

 ガタウに似た威厳をまとっている。

 音に聞くイサテのパデスである、狩りの腕も相当なものであろう。

――俺とどちらが上か。

 ソワクの身内に、打ち震えるような喜びがある。

 この男と槍を比べてみたいという衝動が湧き上がる。

「見れば、イサテのパデスにも判るだろう。カサに終の槍を任せるのは、カサにその力があるからだ。決してイサテの戦士たちを軽く見ている訳ではない」

 ソワクの自信に満ちた態度にパデスは、

「ならば、よい」

引き下がる。

 それからもう一度カサを見、

――あの少年が、この戦士ソワクよりも優れているというのか。

 他のベネスの戦士たちも、カサという少年が槍を取る事に、何の疑問を感じていないようである。

 一方、パデスの視線に気づいたカサは、居心地悪そうにガタウの陰に身を隠す。


 戦士たちを夜が覆う。

 狩りの時が訪れる。

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