気後れ
エルが隣に座ると、カサは言いようのない居た堪れなさをおぼえる。
どうしてここから切りあげようかと、そればかり考えてしまうのだ。
エルが美しい所為である。
物心ついた頃から控えめだったカサは、腕を失って以来、人前に出られなくなった。
今はさほどでもないが、それでも心にこびりついた劣等感は、かさぶたのようにカサの心にへばりついたままだ。
そしてその劣等感は、エルが魅力的であればあるほど、カサの心を苛むのである。
――どうせ僕など、相手にされるまい。
そんないじけた気持ちになるのである。
「カサは――」
沈黙に耐えかねたのであろう、口を開いたのはエルからである。
「すごい戦士なんでしょ?」
「……え……」
「ソワクが言ってたわ。カサは、若手で一番いい戦士なんだって」
「それは……」
違う、とカサは思う。
確かに、カサの狩りの腕は認められ始めている。
だがそれがいい戦士であるかというと、それは違う気がする。
「僕は別に、そんなにいい戦士じゃないよ。身体も小さいし」
「でもソワクが言ってたもの。カサの年辺りでは、カサが一番いい戦士だって」
エルが名前を連呼するので、カサは一段と恥ずかしくなる。
「ソワクはいい戦士だよ。一番は大戦士長だけど、次の戦士はソワクだってみんなが言ってる」
「本当にそうなんだ! ソワクが自分で勝手に言ってるだけかと思ってたわ」
それからまた笑う。エルの笑いには屈託がない。
それは、ソワクやゼラと同じ、陽性の風である。
カサにとってその空気は、心地よいと共に、劣等感を刺激される物でもある。
ソワクのようにお互いを知っているのならばいいが、エルのように初対面の人間だと、まだ縮こまってしまうのである。
――周囲から見て、僕はやはり気の毒な不具者なのだろう。
その意識が、エルとカサの間に壁を生む。
「ソワクは、そんな嘘つかないよ」
「そうね」
また笑い、
「じゃあカサがいい戦士だってのも、本当じゃないの?」
本当である、少なくともソワクはそう思っているし、周囲も評価を固めつつある。
だが、カサ自身はそう思っていない。
「僕は、他の子よりも早く戦士になっただけから」
だから狩りを少し知っているだけなのだ、と口の中でモゴモゴと言う。
そして、左手で右腕の欠けたところを隠すように抱く。見られたくない、という無意識が、カサにそうさせるのだ。
「でも大戦士長に可愛がられているんでしょ?」
答えにくい質問である。
「槍を教えてもらっているだけだよ。優しくされてるわけじゃない」
「そうなの?」
「うん」
すぐに返事ができたのは、くりかえし訊かれた質問だからだろう。
ある時は嫉妬混じりに、ある時は羨望混じりに。
それからしばらく、エルと話をしていると、ソワクを引きずったゼラが戻ってきた。
「どうだった?」
ソワクが小声でさぐるが、
「うん」
カサは答えを濁した。
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