二の槍、三の槍、そして終の槍

「イヤー!」

 二番槍、ガタウにつづく槍は二十五人長ラハムとその部下テクフェ以下、八人の戦士長だ。

 ドキュッ! ザチュ!

 二本の槍が、獣の右後ろ足に突き刺さり、その場に縫いつける。

 槍は深々と突き立つが、いずれもガタウの一撃ほどの威力は無い。

「グオオオオオオオオオッ、オッオオオオオオオオ!!!」

 獣が吼えた。肺を絞り喉をふるわせ、全身で痛みと怒り、そして憎しみをぶつけてつけてくる。

 そこにブロナーたちの三番槍、計八人が殺到する

 ドドドッ、ズキュッ!

 両側面から、獣の身体を槍ぶすまに突く。

「ゴワアァ…ッ!」

 左右一六本の槍が獣をその場に縫いとめる。

 ドスッ!

 終の槍、とどめの一撃は二本の牙を首に下げた二十五人長ソワク。

 大きな体躯を持ち、部族内でもガタウに次ぐといわれている若き戦士長が、背後から心の臓を見事つらぬいて、獣にとどめを刺した。

 胸先からつきでたソワクの槍の褐色の槍先が、勝ち誇るようにのぞいた。

「コア……!!」

 肺からしぼり出した最後のうめきと共に、獣がゴボリと、大量の血のかたまりを吐き出す。

 ビクン……!

 ビクン……!

 ビク……!

 激しく三度痙攣し、獣の広げられていた前肢から、ゆっくりと力が抜け落ちる。

「よし」

 ガタウが狩りの終わりをつげる。

 二番三番槍の戦士長たちが、獣の身体から槍先をぬいてゆく。深く刺した者は、硬直した筋肉に巻き込まれ、一度では抜けないようだ。くりかえし体をゆすりつ捩じりつ、槍身を引き抜いてゆく。

「フッ」

 最後にガタウとソワクの槍が、気合いとともに同時に一度で引き抜かれた。

 かろうじて直立を保っていた獣の身体が、ゆっくりと体勢をくずす。

 ドウゥッ……!

 地響きと、盛大な砂煙を巻き上げ、獣――コブイェックの大きな身体が大地にひれ伏す。

 その途端、その場にいた戦士たち全員が、割れんばかりの歓声をあげる。

――ウオオオオオオオオオオオ!!!

 言葉にならない原始的な叫び、戦士たちの喉から吐きだされる音は、意味をなしていない。

「アアアアアアアアアア!!」

 皆が叫び、飛びはね、歓喜に身をふるわせる中、カサも必死で声をあげていた。

 幼い顔を真っ赤にし、息をおおきく吸いこんでは、声を張りあげる。表情には全面に歓喜と興奮。

 カサだけではない。他の新顔の戦士たち、トナゴやウハサン、いつもはすまし顔のヤムナでさえ、大声をあげて飛び回っている。

 初めて味わう、心地よい一体感。

 カサは本物の「狩り」を知った。

 このとき年齢十四歳、我々の暦に換算すると、十一・二歳である。


 カサの奮える華奢な膝を、ゾロリとスェガラン――獣の臭いをふくんだ夜の風――が吹き抜けてゆく。

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