第41話 初めて経験すればそうなるよね


 週明けの月曜日、放課後の理科室には亜友さん、光莉さん、養護の高橋先生にマジカルサイエンス部のメンバーを揃えてミーティングが開かれた。


 二人からは備品の準備を少しずつ進めていることが話されて、勘がいい子たちからは何かを進めているのか質問してくることも増えたとのこと。


「備品と言っても、学校の中で使われずに眠っているものだろう? 誰かに取られる前にさっさと運んじゃえ」


 森田先生が海斗くんと博史くんを見やっている。新学年度になる前の今のうちに大物は確保してしまうということだろう。


 その中で前回までに聞いていた内容も確認された。同好会だとしても、扱いは部活に準ずるから、基本は放課後の開放とすること。どうしても理由があって授業中に使いたい時は保健室に行って高橋先生が対応する。高橋先生としても、保健室は急病の子がいたり静かに使いたいこともあって、悩み相談などに使える別の部屋を探していたのが本音だったみたい。


 放課後のパーソナルタイムを過ごす時間としてのコンセプトは大体が原案のまま通ることになっていた。


「それだとリラクゼーションルームとしての役目が不十分なので、今回はこころ屋という校外の協力を得ることになりました」


 みんなが私たちを見る。こころ屋と言えば博史くんと私が関係してくることが必須になる。


「俺は母さんから何も聞いてないぞ。風花の方が何か動いているってちらっと話があったけど」


「まったく、もう少しお店の方に関心を持ってよね。今回はメニューの中で夢砂を使うことも話題ポイントなんだから……」


 私はカバンの中から小さな瓶を取り出す。


「今回は本当にお試しです。全員手を出してください」


 全員の手のひらの上に少しずつの夢砂を乗せて使い方の説明を始める。


「今回は砂浜、高原、夜空のイメージを夢砂に織り込んでいます。どれかを決めて握りしめて目をつぶってみると、その場に行ったような雰囲気を感じることができるようになっています。実際には座ったままですけど、イメージの中でなら自由に歩いたりすることもできます。試作品なので時間は一分前後です。実際の場所は動かないので危険はありません。場面が消えて暗くなったら、静かに目を開けてください。それではどうぞ……」


「うわぁ……」

「わっ、すげぇ!」


 みんなが歓声をあげるけれど、今は個人個人のイメージの中に入っているから隣の声は聞こえないはず。


 私はそんなみんなの様子を見ていた。お母さんから万一のために自分は使わないように言われていたから。


 腕時計の秒針がひと回りし終えると、みんなそれぞれのタイミングで目を開けて部屋の中は何事もなかったように元通りになった。


「これでお試し?」

「学校にいる感覚は全くなかった」

「本当に海岸で波の感触あったよ?」

「夏の高原の風がすごく気持ちよかった」


 私は夢砂を使っていなかったし、そういうものだという先入観があるから黙っていたけれど、初めてこういった分岐型の夢砂を使ったメンバーからすれば、新鮮な経験だったと思う。亜友さんと光莉さんの興奮している感想は予定どおりの効力があったという証拠なんだ。


「今回はお試しだったけれど、本物を作るなら三十分くらいで設定したらいいかなって思っています。アイディアはあと二つくらいは入れられると思うけど、みんなの意見が聞きたいです」


「集中できるようなカフェのBGM付きとか?」


「海の中とかいいかも。水族館みたいで」


「雲の上を飛んでいるように作ったら男子は人気ありそうだな」


 その三つくらいなら、あまり大きな魔法を仕込まなくても大丈夫だから、本番は全部で六メニューからスタートするということもその場で決まったんだよ。

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