第16話 明日の予定は変更!


 私たち五人が春奈ちゃんのお家に帰ったのは、予定時間の五時少し前。


「まぁ、萌恵先輩と瞳海が一緒だったから心配はしていなかったけどね。いろいろ話もできた?」


 お留守番と夕食づくりのお手伝いをしていた奏天さんが迎えてくれる。


「そうねぇ、話というよりも夏帆ちゃんのご招待の謎が解けたっていう方が正しいかもね」


 それを聞いて顔を曇らせた夏帆さん。春奈ちゃんの状況を話してしまうと逆に心配してこれだけのメンバーを集められなかったかもしれないと思っていたに違いない。


「夏帆ちゃん、最初から言ってくれればわたしたちも用意してきたのに。これを手に入れてきたから」


「夢砂……。萌恵先輩も瞳海先輩もご心配かけてごめんなさい。で、でもこんなに短い時間で原因が分かったんですか?」


 夏帆さんが信じられなさそうだ。


「瞳海ちゃんの力を忘れたの? 強さも感度もリハビリ済みよ。三分かからなかったくらいね」


「そんなに早く……」


「その前に食事にしましょう? 話はそのあとでもできるから」




 同じく遊びに行っていた男の子たちも全員が集まって、お夕飯はお昼が豪華だったからと、ミートソースのスパゲティ。でもお替りができるようにと麵はいっぱい茹でたって奏天さんも笑っている。


「パスタは残れば明日サラダに使うから大丈夫!」


「夕食係が瞳海じゃなかったからの手抜きかと思ったぞ」


「毎日瞳海の手作りを食べている裕昭は文句言わない! これでもちゃんと夏帆ちゃんが最初から考えていたんだから」


 このお互いの呼吸が、初代マジカルサイエンス部の特徴だったんだろう。これを私は短い時間で作らなくてはいけない。


「ほら、風花ちゃん。またそんな思い詰めた顔をしないでいいって。そのための打ち合わせもこのあとにやるから。そのために初期メンバーを全員集めたんだから」


「はい……」


 奏天さんも気を使ってくれている。


「じゃぁ、どっちから話をすっか?」


「それなら楽しい話を後に回すか」


 啓介さんもお父さんも学生時代に戻ったみたいだ。


「じゃぁ、萌恵先輩からお願いします」


「では、最初に宣言するわ。明日の遊園地の予定は別の日に変更する。みんなのその有り余った力を貸してほしいの」


 萌恵さんはいきなりこう切り出した。


「ずいぶん思い切ったこと言うじゃないか。それだけ差し迫ったことだというのか?」


「えぇ。今回のスケジュールじゃ、明日しか春奈ちゃんを救うチャンスがない。だから男手が必要なの」


 萌恵さんは、春奈ちゃんから聞き取ったことを説明してく。最初は明日の予定が変わったことに戸惑っていた男子組も話に引き込まれていく。


「萌恵先輩、その……、春奈の症状の原因って何か悪いものなのですか?」


「大丈夫。これは、春奈ちゃんと庭にある桜の木の出会いとお別れの話なのよ」


「え? あの桜の木ですか?」


 一番驚いているのは当の春奈ちゃんだ。


「あの桜の木はね、この土地の前の所有者だった魔法使いの女性が植えたもの。ところが、原因は木も知らないのだけど、突然その方がお別れも告げずに姿を消してしまった。あの木は自分を植えてくれてくれた女性にお礼が言いたかった。でも、ここ数年、それができなくなると桜の木は不安になった」


 今日の午前中に、萌恵さんが桜の木に手を当てて呟いていたのを思い出す。あれは木と会話をしていたんだ。


「桜の寿命は一般的には五、六十年と言われている。木が小さいから気づかなかったかもしれないけれど、あの木は樹齢七十年だそうよ。だから幹の中が朽ちかけている。春奈ちゃんの症状って、みんな人間で言えば老化現象に伴うものだと思わない?」


「先輩、でもそれがどうして春奈ちゃんと?」


「木は、自分を植えてくれた主人を探しているうちに、自分と心を通わせることができる友達を見つけた。それが春奈ちゃん。夏帆ちゃんも冬馬くんも、ここに来た時には春で、花がきれいな時期じゃなかった?」


「そのとおりです。春奈がよちよち歩きでしたけれど、自分で桜の方に寄っていった。それもあって、この場所を選んだんです」


「でしょう? あの桜の木と春奈ちゃんは魔法が使える。だから、無意識にお互いにリンクするようになっていた。木はそんな春奈ちゃんの成長を見るのが楽しみになった。でも時間ときが経って、桜の木は自分の寿命が近いことを知らせたくなった。そのメッセージが春奈ちゃんの体のあちこちに症状として現れた。これが全ての正体よ」


 萌恵さんとお母さんはあの数分でこれを読み取ったんだ。やっぱり二人ともすごい魔法使いだと改めて思った。


「萌恵さん、もし、そうだとして……、私いつもあの木にはいつも勇気づけられていました。お別れはしたくないです!」


 その話を聞いた春奈ちゃんが涙を流している。部屋からの景色には特別な思い入れがあるに違いない。


「大丈夫よ。それもちゃんと教えてくれたわ」


 萌恵さんは春奈ちゃんの手をそっと握って優しく頷いた。

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