第11話 結局、いつも頼っちゃうんだよね…
「風花ちゃんが全部を背負うことはしなくていいのよ。まだ役割だって決まっていないってことみたいだから、そこから始めれは良いと思うわ」
「萌恵さん……」
「大丈夫。みんな私たちの子どもだし、私たち親の世代だってウズウズしてるのがたくさんいるからね」
萌恵さんは奏天さんを見ながら笑顔で続けてくれた。
「あんまり悩みこまないでいいと思う。誰も風花に部長まで押し付けようとは思ってないぜ? 母さんもそう言ってるし」
その話を引き継いだように海斗くんが入ってきてくれた。
今でも海斗くんのご両親である祐一さんと萌恵さんのことを、私たちの両親は名前の後に「先輩」を付けて呼ぶ。それは誰かが決めたのではなくて、その呼び方があまりに自然になっていて、高校を卒業してこれだけ長い時間が経っても抜けていないことは、この二人から受けた影響や存在がどれだけ大きかったのかを示しているんだよね。
そんな二人を両親に持つ海斗くんは、誰に対しても親切だし、私たちにちょっかいを出そうものなら、毅然と対応してくれる。
うちとは学区が違っていたから、中学校までは違っていたけれど、いつもジャスミンで遊び相手になってくれていたことも覚えてるし、高校の入学直後で同じクラスになってからは何度も助けてもらったっけ。だから……、私の中にも海斗くんには他の男の子よりも少し違う感情が芽生えていることも……正直自覚している。もちろんそれは誰に言ったことも行動で示したこともないけれど。
海斗くんだって私のことをどう思っているのかなんて知らない。親つながりの中で一番頼りないから仕方なく手を貸してくれているのかもしれないし。
もしそうだとしても、この一年を振り返って、私が感謝しているのは本当だから。
バスは東北道に入って北に進む。都内の建物ばかりの市街地ではなく、少しずつ空き地や畑が車窓に流れるようになった。
私たちは都立の学校に通っているとは言っても、そこはいわゆる「東京23区内」ではなく、正確には「都下」に位置する郊外都市の一つだ。そんな住宅地だから少し歩けば児童公園もあるし、駅の反対側に行けば広い河川敷を持った大きな川もある。
どちらかと言えば私はビルが立ち並ぶコンクリートの中にいるのは苦手なタイプのようで、高校最初の遠足で都心部に行った時もそうだった。
いろいろと都庁の展望台や国会議事堂の見学まではよかった。その後にお台場の遊園地で自由時間となったとき、私は動くことができなくなってしまった。
すぐに海斗くんが気づいてくれて、先生の許可をもらって、近くの海辺にある公園に連れてきてくれた。集合時間まで確認していたし、スマホの電話番号まで渡していたから、みんなが行くアミューズメント施設には戻るつもりがないのだと私にも分かった。
午後の海風に吹かれて、ようやく息苦しさから解放された私。でも……。
「せっかくの自由時間なのに。私はここで時間までいるから、戻ってくれて大丈夫だよ?」
私が調子を崩したのは自分でも原因がわかってるし、それはあくまで自己管理の甘さ。彼の時間を専有しちゃいけないって分かってる。
「風花は昔からいつもそう。そんなに強がる必要ないのに。今日はずっと歩きだったから俺も疲れた。先生にも言ってあるし、これなら風花のボディーガード……は無理でも、無茶しない見張り番くらいは出来るからさ」
「ごめんね……。私が弱いから……」
「またまた。風花はそのままでいいんだって。本当に親子そっくりだな」
海斗くんは言葉は呆れたように言ってるけど、顔は笑っている。
「母さんが、風花は瞳海さんにそっくりだって、いつも言ってる。限界まで我慢しちゃうところも、自分を卑下しちゃうところも。本当は博史の方が気付きやすいポジションにいるのに、あいつは気が利かないからな……。それ以上に風花のカモフラージュが上手いって言うか。俺は騙されないぞ? 母さんからみっちり仕込まれたからな」
そうだよね。お母さんはいつも萌恵先輩には心配をかけたっていつも言っている。
私はその娘だもん。世代が変わっても、その関係は変わらないのかもしれない。
「ここは、風があっていいな。屋内で遊んでいるより気分が休まる気がする。俺も風花と同じ体質なのかもしれないな」
結局、あの日の海斗くんは、そのまま帰りの集合時間まで私の話し相手になってくれていたんだ。
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