第12話 いつでもお花見ができるお家
朝早く出発したおかげて、心配されていた高速道路の混雑にもあまり影響されず、十時過ぎには那須のインターチェンジを降りた。
あとは夏帆さんのお家まで洋二さんは車を進めていく。都内より道は広いとは言っても、車としては大きい部類に入るから、運転にも慣れが必要なんだろうけれど、いつもお仕事で動かしているものなのと、行き先も知っている場所だからか、運転手の洋二さんにも迷いがない。
春休みって、都内ではもう初夏みたいに気温が上がるときもあるけれど、それも途中で通った日光の山の上の方にはまだ雪が残っているのを見てくると、まだこの辺りは春がようやく本格的になってきたという感覚で、カレンダー的にも一カ月近く差があるのではないかと思えた。
「これならもう一度花見ができそうだな」
「この週末はお天気がいいから夏帆ちゃんがお庭でお食事しようって言ってたくらいだかんね」
今回の主催でもある夏帆さんとずっと連絡を取っていた奏天さん。久しぶりの再会はお母さんたちのメンバーも楽しみにしているし、私たちの世代も春奈ちゃんとの再会が楽しみだ。
程なくして、車は目的地に着いた。
「皆さん、お久しぶりです。お待ちしていました」
夏帆さんが庭まで出てきて出迎えてくれる。
「ごめんね、こんな大勢で押しかけちゃって」
「大歓迎です。せっかくですし、マジカルサイエンス部の復活記念ですからいいじゃないですか。お布団とかも人数分借りておいたので夜も心配ないです」
夏帆さんも、あの話を聞いて興奮が抑えきれなくなったそう。あの頃の話が出来るからって、業者さんにお布団を借りてまでお家に招いてくれたんだ。
「あ、春奈ちゃん! お久しぶり! 元気だった!?」
「待ってましたぁ! こんなに大勢来てくれてありがとうございます。もうすぐお昼の用意が終わるので、庭で待っていてくださいね」
赤坂春奈ちゃんのご両親になる冬馬さんと夏帆さんはもちろんマジカルサイエンス部の出身。南桜高校を卒業した後、二人とも美大に進学してご結婚。
そんな二人は冬馬さんが映像クリエイターとして、夏帆さんはイラストやグラフィックのデザイナーとして活躍している。CGの作成を請け負って映画のクレジットに載ったり、夏帆さんも負けじと本の表紙や挿絵に携わって表紙に名前が載ったりと、どちらもその才能には折り紙付き。
最初は二人とも私たちの場所からそれほど離れていないアパートに住んでいたのだけれど、春奈ちゃんが生まれてから、この場所に居を構えた。
春奈ちゃんは私たちと同級生なのだけど、早産だったせいか背も小さいし、特に呼吸器系が弱くて体調を崩しやすかった。それがきっかけで、空気と水がきれいで、庭もお家も広く間が取れるこの土地を探して移ってきたんだ。
お二人ともお仕事柄、自宅でも高速なネット回線があれば良いし、今は打ち合わせもオンラインで行えるから、都内に住む必要がないと言っていた。春奈ちゃんもお家近くのバス停から乗って地元の高校に通っているって。
だから、普通だったら乗り付けた車の駐車場所とかを考えなきゃならないけれど、夏帆さんも冬馬さんも一言。「庭に適当に停めてOK」だもん。そんな環境で育った春奈ちゃんも、とてもおおらかで優しい女の子。いつもは離れているけれど、こうやって時々遊べるのが楽しみだし、時間のある時はスマホのビデオ通話で話している仲でもあるんだよ。
「今日は風花ちゃんたちが来るからって、春奈が半分くらい作ったかな。男の子たち向けボリューム勝負のメニューは私たちだけど許してね」
夏帆さんが苦笑いしている。庭に置かれたテーブルにはお料理が用意されていて、うん、なるほど。崩れないように色とりどりのピックで留められたサンドイッチとか可愛く型抜きされたおにぎりがきっと春香ちゃんが作って、そこで時間を取っちゃったんだろうね。オーブンで焼いたピザとか揚げ物類は夏帆さんということなんだろう。咲来ちゃんと二人で頷く。
「これだけあればお腹いっぱいになるよ。朝早かったんでしょう? ありがたくいただきます」
お庭の隅に桜の木があって、薄いピンクの花を咲かせている。公園などにあるソメイヨシノと違って、
『昔はね、家の庭に桜の木があるのは縁起が悪いと言われていたのよ。でも、ここに来た時に、春奈がニコニコしながら見ていたのが忘れられなくてね。それで決まったの』
夏帆さんは昔そう教えてくれた。だから春奈ちゃんのお部屋は、この木が一番よく見える角部屋になっている。
それまで小児喘息で苦しんでいた春奈ちゃんは、ここに移り住んでから、お庭のこの木の下でおままごとをしたり、外遊びをするようになったおかげで、お薬の量を減らすことができたんだって。
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