第10話 また生徒会が頭を抱えるのか?


 春休みに入った最初の土曜日の早朝のこと。私たち、新旧のマジカルサイエンス部の総勢十二人は高速道路で一路那須を目指していた。


 え? バスをチャーターしたのかって? そんなことをしたら交通費だけでお金が大変なことになっちゃう。最初は各家ごとに車で向かうか新幹線を使うってことを予定していたんだけど、思いがけないところから斬新なアイディアが飛んできたんだよね。


「悪いね洋二。まさかこんな時間から動ける手があったなんてさぁ」


 運転席の隣で声をかけている奏天さん。


「奏天先輩にしては気づかなかったのが意外です。そういうのは最初に僕に声をかけてくださいよ」


 そう答えるのは杏子さんのご主人でもある洋二さん。お仕事の場所は幼稚園。杏子さんみたいにサポートが必要な子どもたちをも快く引き受けてくれるし、連絡帳に「その子ができたこと」を毎日書いて教えてくれると大人気の先生なんだって。子どもたちの送り迎えのためにスクールバスを運転することもよくあるとか。


 奏天さんから声がかかって承諾したところまでは良かったのだけど、そこで十二人もの移動をどうしようという問題を、一気に解決する一言があったって。


「僕が運転すればいいのでは」って。


 それも、幼稚園も春休みで、期間中は誰も乗らないからと職員用に使うコミュータータイプのワゴン車を借りてきてくれた。これは大人で十四人乗りだから園児送迎用のマイクロバス、いわゆるスクールバスではないけれど、お勤め先の幼稚園の名前が小さく書いてあるのはご愛嬌ってことで。


「まさか、咲来さくらちゃんのお父さんにお願いすることになるなんて思わなかったよ」


「私だって、まさか車まで借りてくるなんて思ってませんでしたよ。公私混同もいいところです」と手厳しい。


 私たち学生組はみんなで後部の座席に固まっていたから、前と後ろで会話も違っている。


 でも、共通しているのは全員が新旧マジカルサイエンス部員ということだ。思い出話もあればこれから何をやっていこうかと相談話もある。


「夏帆ちゃんも復活には大喜びで、『是非協力させてください』って乗り気だったわよ?」


「また先生たちとか生徒会が頭を抱えなけりゃいいんだけどな」


 またって……。まぁ、うちの両親とか奏天さんたちの話を聞いていれば、その当時からして「マジカルサイエンス部」になる前の「科学部」からは想像もつかないようなイベントを桜花祭で繰り広げていたことを考えれば、先生や生徒会の警戒度やため息は横に置いておいて、今年と来年の秋にはそれなりのスケールで考えなくちゃならない。


 しかも、今年は南桜高校創立五十周年記念の年だから、どちらかといえばメインは今年。つまりここから半年の間に考えなくちゃならないんだよね。


 生徒会での登録上では、マジカルサイエンス部が復活するのは四月一日。年度を超えたときだというから、今はまだ準備中という段階にあるという。


 私たちが、学校帰りや春休みになってもカフェ・ジャスミンに集合しているのを見て、お母さんたちもいろいろと考えてくれてはいるみたい。


「風花ちゃん、昼間は遊びになるかもしれないけれど、夜の時間はみんなで考えれば何かのアイディアは出ると思うわ。私たちも最初どうしていいか分からないところから始まったのだから」


「萌恵さん」


 高校三年生の時に、部員全員から「高校で部活に入った記念でもいい。そこで楽しんだ思い出を作ってほしい」と熱烈なスカウトを受けて入部し、一緒に参加した桜花祭では「あんな楽しい文化祭は最初で最後だった」「みんなの仲間に入れてもらって幸せな高校生活だった」との名言を残し、最後には盲目だった障害すらも奇跡の回復を見せて卒業することになり、当時の三年生からは『夢のかなう部活』とのキャッチコピーまで贈られた。


 そんな数々の奇跡を起こしてきた名誉ある部活を再起動するのだから、それなりの準備は必要なんだ。


 そんな私の緊張を分かっているように、萌惠さんはにっこりと優しく笑いかけてくれた。

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