第12話 Side-ミハエル・ハルトマン

 俺、ミハエル・ハルトマンは、魔獣の森で今日も剣を振るっていた。


「はぁぁぁぁっ!!」


 声を上げながら、中型の魔獣を一刀両断する。俺は地面に倒れた死体を見おろしながら汗を拭う。見おろすと、手にはマメができていた。だが、それでも次の敵を見付けると、再び斬りかかった。


 魔法学校の入学まで二週間。それまでに俺はもっと強くならなくてはいけない。


 なぜならそこで、俺はある男と決闘し、勝利しなくてはいけないからだ。


 シルバ・ノーマンクライ。俺の父を殺した男に。


 俺はそのためにずっと生きてきた。そのためだけに魔法と剣を鍛えてきた。そのためだけに、およそ十数年間を過ごしてきたのだ。


 だから、万が一にも奴に負けることがあってはならない。絶対に奴に勝つために、日々研鑽を積まないといけないのだ。


 人は言う。復讐など空しいことだ。やめたほうがいい。何も得るものはないと。


 だが、俺はそうは思わない。復讐とは、自らを納得させるための決着だ。


 あのとき、父が死んだとき、自分は何もできなかった。その罪悪感を晴らす為の行為なのだ。自分は父の為に何かした。そう思える何かを得るための行動なのである。


「……だから、俺は復讐する」


 俺は魔獣を斬りながら呟く。


「奴に、必ず――」


 そう。そうだ。それが正しい事。


 正しい事の、はずだ――。


 目を細めて考える。だが、俺を肯定してくれるも者は誰一人いなかった。


 そのとき、地面が大きく揺れた。


「!?」


 驚いて尻餅をつく。ゴォォォン、と、低い轟音がした。音の方を見ると、火柱が天を衝いていた。魔獣の仕業? 否、誰かの魔法か? しかし、こんな威力の火炎魔法、見たことがない。いったいどれほどの使い手がそこにいるというのだろう。


 興味を惹かれて、木々をかき分けながらそちらへ向かう。段々と熱気が近づいてくる。遠くにちろちろと炎が燃えているのが見えた。俺はその奥で笑う一人の男を見た。


 そして、目を見張った。


「……なんで、奴がここにいるんだ……?」


 見た目はずいぶん変わっていた。だが、俺にはわかった。毎晩奴の姿を夢に見てきた俺には、はっきりと理解できた。


 纏う雰囲気。顔立ち。背の高さ。間違いない。


 そこには、十数年前に父を殺した怨敵。


 シルバ・ノーマンクライがいた。


 なぜここに。どうしてこんなことが。


 そんな思いとは裏腹に、足は勝手に前へ踏み出していた。


 そして、俺は彼に向かって、憎悪の叫びを上げた。


「シルバ・ノーマンクライ!!」


 

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