第11話 自称悪役、無双する

 この世界の住人にとって、魔石ととは、『何か自分に利益をもたらしてくれる石』という認識なのだと思う。レアリティの高い、効力の大きいものならその速効性を認識できるだろうし、従って、俺の魔法が強化されたこと自体は、頭目にとって予想外のことというわけではないはずだ。


 だが、だからこそ、彼は驚くことになるだろう。


 これから急速に強くなっていく俺の魔法に。


「……どうやって防いだ?」


 頭目は水の剣を引きながら、困惑に顔を歪ませていた。


「貴様の実力はわかっている。素人に毛が生えた程度の魔法の習熟度。所詮は初級者だったはずだ。たとえ魔石の力があったとしても、我が奥義を止められるほどの領域には、とても届かないはずだ」

「もう一度試してみればいい」


 俺は指をくいくいと動かし挑発する。


「次はうまく行くかもしれないぞ?」

「――面白い」


 彼は言い、水の大剣を、今度は縦に振り上げた。そして、刀身をさらに巨大化させた。


「今度は全力でいく。止められるものか!」


 彼はそれを思い切り振り下ろした。


 俺は笑みを浮かべながら、背後に火球を放つ。火球は魔獣に当たると爆発し、その四肢を四散させた。それを見て、頭目の目が見開かれる。明らかに、威力が上がっていることに気付いたのだろう。


 そして俺はステータス画面を見ながら笑みを広げると、


「ファイアボール」


 掌に大岩のような火球を作り出し、それを水の剣へ放った。すると、水の剣は白い霧を発生させながら、大きく蒸発の音を立て、そのまま炎の熱によって蒸発してしまった。


「ば、馬鹿な――」

「フレアバースト」


 そして霧の中を、俺は炎の推進力で駆ける。魔獣を狩り、魔法を使って経験値を溜めていく。連中の周囲を高速で移動しながら。ステータスのレベルは、その間ぐんぐん上がっていった。まるで、ぶっ壊れたメーターみたいに。


「なんだ、いったい何をやっている――?」

「何って?」


 俺は頭目の懐に入って笑った。


「成長してんだよ」


 俺の火炎魔法のレベルは、このとき既に50になっていた。


 【取得経験値アップ(極)】は効率三十倍。すなわち、三十倍の速度でレベルアップ出来る。要するに、完全なバランスブレイカーだ。


 故に輩出率は紙のように薄い確率であるものの、出てしまえばレベリングは容易いとかいう次元ではない。欠伸をしていても強くなる。そう考えて貰って差し支えない。レベル50にすぐいくのは当たり前。そこからさらに上昇させれば、


 そこに、一人の天才が完成する。


 炎で加速させた肘鉄をその鳩尾にたたき込む。頭目の体がくの字に曲がった。


「ぐ、ぐあ――!」

「はっはぁ! いいねえいいねぇ! 楽しいねぇ!!」

「お、お頭ぁ! ふぁ、ファイアアロー!!」

「ファイアウォール」


 部下が放った炎の矢は、俺の作った炎のカーテンにかき消された。


「馬鹿な、こんな高度な防御魔法、さっきまで――!」

「くくく……はーっはっはっは!!!」


 俺は両手を広げ、大声で笑った。


「いいね! 実に爽快だ! 自分を痛めつけてきた奴に、仕返しをするのはなぁ!」


 俺は言いながら、部下達の懐へ潜り込む。


「ひっ――!」

「もうお前らに負ける気はしねぇ! いや、お前らだけじゃない!」


 俺は、彼らを火炎魔法で吹っ飛ばしながら叫ぶ。


「こうなった以上、俺は無敵だ! 誰にも止められねぇ! はっはっは! はぁーっはっはっはっは!!!」


 心地良い。

 

 全身を全能感が満たしている。


 いまなら誰にも負ける気はしなかった。


 俺は、最強の存在になったのだ!


「き、貴様は、貴様はいったい……」


 青ざめた顔で、頭目は水の龍を生み出した。


「貴様はいったい、なんなんだ!!」

「名乗るほどの者じゃないが、いま俺は気分がいい。教えてやろう」


 炎の翼をはためかせ、彼を見おろし、俺は口の端を上げる。


「俺の名はシルバ。この世界で一番性格の悪い、しがない悪役さ」


 俺の背後に炎の巨人が生まれた。それは、茫然と見上げる頭目へ拳を振り上げると、それを叩きつけた。木々を燃やし尽くす火柱を上げ、地面を揺るがしながら。


「ひぃぃぃぃ!!!」


 部下達が逃げていく。俺はそれを見ることなく、炎の中で立っていた。


 オレンジ色の光に照らされ、腹を抱えて高らかに笑いながら。


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