第10話 自称悪役、変身する

「――!! 君!!」


 地面を転がり、そのまま河原の岩に激突した。体を襲う熱。爆風を受けた箇所が箇所が燃えるように熱い。俺はそれを感じながら仰向けに倒れる。


 空を見上げると、数人の男達が、炎の翼を背中に生やして空に立っていた。


「どうやらこちらにとって致命的な能力は得ていないようだな」


 視線を向けると、頭目が森の奥か荒河辺に出てきていた。頭目は剣を抜きながら言う。なるほど、部下に様子見をさせたわけか。確かに、こちらの変化した能力が未知数である以上、それが最善の手と言えるだろう。


 俺は起き上がろうとし、がくりと倒れ込む。震える腕を茫然と眺めた。


「どうやらもう動けないようだな……ウォータージェイル」

「ひっ!」


 見るとシルフィの周囲に水の檻が出来ていた。これで彼女は逃げられない。


「魔石は――使ったようだな。それでもこの程度の攻撃で倒れるところをみると、よほど貴様の修練が足りていないらしいな。まぁ、即死しない程度には強化されているようだが。ともあれ――」


 彼は剣に水を纏わせ、その切っ先を俺に向けた。


「これで、終わりだ! 誘拐の目撃者は、これでいなくなる!」


 その瞬間。俺は、彼に蹴りを放った。


「~~ッ!」


 頭目の顔が跳ね上がる。俺はその間にがばっと起き上がると、


「フレアバースト!」


 炎の威力を使い、一気に後方。森の中へと自らの体を吹き飛ばした。


 あぶねぇ。冷や汗が垂れる。魔石で魔法防御力が上がっていなければ、マジで死んでた。あいつが演技にひっかかるタイプで助かった。


 とにかく、いったん奴らから距離を取って――。


「同じ事だぞ」


 背後を振り返る。空中に敷かれた水のレールに乗って、頭目がこちらへ接近していた。部下達も、それぞれ炎の推進力を使ってこちらへ近づいている。


「防御力が上がろうとも、貴様の能力が低いなら同じ事だ」


 彼の剣が青く光った。纏っていた水が音を立てて逆巻く。頭目は剣を掲げた。水は刀身となって巨大に伸びる。天を衝かんばかりの大剣が完成した。


「水流魔法奥技:セイレーンセイバー」


 レベル40が使える奥義、セイレーンセイバーは、そのまま横薙ぎに振り抜かれた。それは木々を水流のカッターのように切断しながら、俺の方へと近づいてくる。


「フレアボール!」


 俺はそこに魔法を放つ。だが、当然の様に火球は切断された。


 刃がこちらへ迫ってくる。全身から血の気が引く。


「死ねぇ!」


 そして、刃は俺の喉元に触れると、


 そこで、止まった。


 頭目の顔が驚愕に歪む。彼が驚くのも無理はない。


 なぜなら俺は、両手に纏った炎で刃を受け止め、チェンソーのようにギャリギャリと回転する鋭い刃を押しとどめていたからだ。先ほどまで、まるで歯が立たなかったはずの火炎魔法を使って。


「ど、どういうことだ。さっきは確かに――」

「残念ながら。俺はさっきとは違う」


 俺は笑いながら、ちらと視線を下に向けた。


「ちょっとばかし、強くなったんでね」


 そこには、黒焦げになって倒れる小型の魔獣がいた。頭目が眉を寄せる。


「たった一匹狩っただけで、この奥技を止められるほどに成長したというのか? そんな馬鹿な話が――」

「あるんだな。これが。最も――」


 俺は水の剣を弾いて言う。


「レベルアップっていう概念を知らないアンタには、わからんだろうがな」


 俺は背後を見る。そこに、開きっぱなしのステータスがあった。


 そして、ステータスの下部、【取得スキル一覧】の最も下には、こんなスキルが書かれていた。


【取得経験値アップ(極)】


 そう。俺が先ほど言葉を失っていたのは、取得経験値アップのスキルが手に入らなかったからではなかった。むしろその逆。


 目的である【取得経験値アップ(特大)】を超えるレアスキルを獲得していたからだった。


「「「ギャオオオオ!!」」」


 同時に、俺の背後から魔獣達が現れた。彼らは俺を睨み下ろし、威嚇の顔を作る。魔獣エンカウント率上昇の効果はてきめんらしい。突如現れた魔獣達に頭目は面食らっているようだった。


 だが、俺は笑っていた。


「さぁ、餌も大量に湧いてきたところで」


 俺は炎の拳を構える。


「レベル上げの時間だ」

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