第8話 side-ハロルド・マルチネス

 私、ハロルド・マルチネスの人生は、ひと言でいえば、【不運】である。


 幼い頃から絵本の騎士に憧れていた私は、剣の修行と勉強を続けてきた。


 自分で言うのもなんだが、熱心ではあったし、そのままいけば騎士になれたのだと思う。


 だが、その道は突然断たれた。父親が、遊ぶ金ほしさに強盗殺人を犯したことによって。


 犯罪者の息子。その汚名は否応なしに私につきまとった。いまでも、面接にいったときの騎士の言葉をよく覚えている。


「悪党の息子は悪党。悪党に、夢を見る権利なんかないんだよ」


 私はその言葉を胸に刻んだ。


 そうだ。悪党に夢を見る権利などない。


 だからこそ、あの男の言葉が気に入らなかった。


「悪党だって夢を見て良いだろ」


 そう断言するあの男の言葉が。


 ♢♢♢


「ど、どうしましょう。お頭」


 部下の一人があわてた様子で言う。


「魔石はまぁいいとして、あの娘が解放されたら、俺らの顔が割れますよ!」


 あの娘、シルフィ・アーデウスは、侯爵家の娘だ。数時間前、屋敷を襲撃して攫ってきた。その後俺たちは追撃を撒くため魔獣の森に入り込み、そこで王都騎士団になりすまして別の街まで行く。そういう手はずだった。魔獣を狩っていたのもその偽装のためである。


 そして、そこにあの、意味不明な男がやってきたというわけだ。


 本当に意味が分からない。まず、堂々と戦闘を仕掛けてきたことが謎だ。無論、後々考えればそれもブラフであったことがわかる。わざと好戦的な人間を演じておいて、私の注意を戦闘そのものに固定し、最後には馬を奪う。まんまとやられた。それは認める。


 だがそれ以上に謎なのは、奴の立場だ。


 奴は悪人なのか、善人なのか?


 もし前者なら、私たちはそれほど追詰められてはいない。魔石目当ての簒奪者。それならシルフィの縄を解かないことだって考えられる。だが、後者で――そもそもシルフィが目当てだとしたら、これは私たちにとって未曾有の危機である。


「追うぞ。足跡は残ってる」


 従って、追撃をすることは確定路線だった。それを確かめなければ、枕を高くして眠ることができない。


 奴は弱い。これは確かなことだ。私よりも遙かに弱いだろう。追いつければ簡単に倒せる。


 だが、ここでも懸念事項が一つある。


 もし、もしもあいつが、私たちが追いつくまでに、


 強くなっていた場合の話だ。


 魔石を手に入れた奴がどんな能力を身につけているのか。それが未知数である以上、先ほどのような簡単な戦いとはいかないかもしれない。


 ――となると……。


「行くぞ。お前ら」


 私は言い、歩き出した。


「色々と確かめに行く。ついてこい。なるべく、足音を立てずにな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 作者です。八話はいかがだったでしょうか。


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