第7話 自称悪役、困惑する
「なに――?」
頭目の驚愕をよそに、俺の足下でファイアボムが爆発する。
それほどの威力ではなかったが、黒煙は周囲を覆った。俺の狙いはこれだ。これで奴は眼が利かなくなった。こちらが自由に一ターン動けることになる。
これで一発逆転してやる――!
黒煙に身を隠し、足の火傷に歯を食いしばりながら、頭目の背後に立つ。
無防備なその背中を見て、俺は笑みを広げた。
「舐めるな!」
だが、頭目は背後に向かって剣を振るった。
「煙に紛れようという魂胆は分かっているぞ! これで――」
しかし、頭目の言葉は続かなかった。
既に、そこに俺はいなかったからだ。
「残念でした」
俺は舌を出して言いながら、頭目の背後からダッシュで駆け抜け、馬車の方へ駆け込む。そして、馬の背中に乗った。一頭立ての馬車だった。繋がれているのは角の生えた痩せ馬で、とても背後に山と積まれた魔獣の死体を運べるとは思えない見た目だったが、俺は馬の腹を蹴った。
「どうせ魔法で強化されてんだろ! ちゃっちゃと走れ!」
それを合図に、ブルル、と馬はいなないた。そして、体を真っ赤に光らせると、一気に、筋骨隆々としたばんえい馬のような巨体に変わった。
「ヒィィィィン!」
馬は走り出す。荷台を引き、猛スピードで。
振り返る。頭目が驚きに目を見張るのが見えた。
「残念でした! 誰もてめぇを倒そうとなんか思ってねぇよ!」
離れ行く頭目を見ながら、俺は奴に投げキッスをしてやった。
「こっちの狙いは最初から馬だっつーの!」
そう。俺は最初から、やつと事を構えるつもりはなかった。
あくまでもぶっ倒すぶっ倒すと言っていたのは、奴に俺の目的を悟らせないためである。こっちの目的は、あくまで魔石。それ以上でもそれ以下でもない。
だが、奴はそれを読むことができず、俺への反撃に行動のターンを使った。
その間に、俺は馬を手に入れたというわけだ。
ざまぁみやがれ。俺は鼻歌を漏らしながら視線を戻す。
「ふぅ。色々痛い思いはしたが、魔石の確保はこれにて完了だな。まったく、何が王都騎士団だ。全然たいしたこと――……」
「ん~~!!」
……なんだ。いまの音。
俺は振り返る。そして、口をぽかんと開けた。
馬車の荷台。そこに、縄で縛られた少女がいたからだった。オレンジ色の短髪をした、闊達そうな少女。それが、布の猿ぐつわと荒縄で縛られている。
……なんで魔獣狩りに来た王都騎士団が、女の子を縛り上げてるんだ……?
「んん~~!! ん~~!!!!」
うるさいので、猿ぐつわと縄を燃やしてやった。彼女はぷはっと息を吐く。何度か呼吸を整えた。そのあとで、
「君、ありがと~~!!」
と俺に抱きついてきた。
「あたしのことをあの密猟団から助けてくれてありがとう! 死ぬとこだったよ! 本当に、感謝してもしきれない!! 君、優しくていい人なんだね~~!!」
「……密猟団……?」
「うん!」
「王都騎士団じゃなく?」
「何言ってんの?」
彼女は小首をかしげた。
「あいつら、魔石を密漁してるならず者達だよ」
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作者です。七話はいかがだったでしょうか。
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