第17話 わんじろうの見解
「刑事さん、余計なことかもしれませんが……」
カムイが何か、閃いたように口を開く。
聞き手の此処堀巡査が返事をする。
「なんですか?」
「事件物は、結末からエピソードを描くと聞きます。……だから逆さまに読み解いていくのでしょうか」
巡査の口元に白い歯がこぼれた。
「察しがいいですね! そうすれば別の解釈も出てくるかもしれないし、ヒントが見えやすくなるかもしれないと思っています」
「それじゃ、残りは4つですね」
「一応そうなります。では続けていきます。この4つはそれぞれ別物でありながら、何かが連動しているように思えます。見ていきましょう」
巡査は手渡したクイズの問いを指差しながら、考えを述べる。
まず仮確定のものに印を加えていく。
☆ ☆ ☆
① 少年がひとり部屋のなかに居た。
② 少年はある空想をしていた。
③ 空想の内容は、殺人事件だ。
④ 少年の頭の中で殺人事件が起きた。
⑥根拠⑤ すると少年は、現実の世界で110番通報をした。※保留
仮確三⑥ すぐさま警察隊が出動してきた。
仮確二⑦ 警察官たちは、他殺の線で捜査に乗り出した。
仮確一⑧ さて警察はなぜ、殺人事件の捜査を始めてしまったのか?
☆ ☆ ☆
「まず⑤は⑥の根拠だと言いましたが、通報の根拠がまだなので保留にしています。残る4つはね、ざっと見て欲しいんです」
巡査がそのように促すと皆で①から④までを下から上へ、上から下へと視線を移動させる。
すると、早速カムイが挙手をして質問を出そうとする。
「はい、カムイくん。どうぞ!」と巡査が意見することを許す。
「こうなって来ると引っ掛かるのですが、少年は何人いるのですか?」
「──と言いますと?」
「⑤の少年が通報者なので、刑事さんたちが来たのです。その通報者はボクになりますね。実際はシェロの母親ですけども。ボクも依頼すると思いますから」
巡査も警部も、「ほう!」と感嘆の声を漏らす。
巡査はそれなら、書き加えておこうとカムイに勧める。
「ではカムイくんに手渡したメモに記入して置いてください。コピーは沢山用意してありますから」
「えっと……こんな感じかな」
☆ ☆ ☆
秘伝カムイの見解
仮確定⑤ するとカムイは、110番通報をした。
☆ ☆ ☆
⑤の通報者はカムイ。それは皆でほぼ確定としたようだ。
カムイの手元のメモ用紙をのぞき込みながら、警部も意見を出した。
「そういう見方をするか。どうやら少年が複数人居ることになる様だな。……①から④の少年が誰なのか意見を出してみてくれたまえ」
「はっ!」
骨織警部に敬礼をすると、此処堀巡査がすこし訝しげに口を開く。
「通報がカムイくんと仮定した場合、通報が何の為かを問えば、シェロくんの失踪ということになって、現時点で少年は二人になりますね……」
「どうしたんだね、ココホレ君? 浮かない顔をして」
「はい警部。③までの少年はシェロくんで間違いないでしょうね」
「③までかね。④は保留かね?」
「それじゃ、ボク追記しておきます」
カムイは自分のメモ用紙に書き加えた。
巡査はカムイに目をやると頷く。
「残りの問題は、空想と殺人になります」
「刑事さん。空想は、想像で仮説をたてるときに頭の中でしますよ」
巡査の言葉に継いで、カムイが助言するように意見をだした。
巡査もそれは同感であると肯いた。
しかし──。
「殺人は、言い方を変えれば、死者がいないと成立しません」
「うん……? つまりガイシャがすでにおるという見立てかね?」
「ガイシャ?」
「被害者のことです。そして警部、おっしゃる通り死人がすでにいると考えればどうにか辻褄が合うのです」
結局、殺人事件が引っかかっていたのだ。
此処堀巡査はシェロ失踪とは殺人事件の捜査を警察に行わせるための手段だと、前述していたわけだ。殺人事件が起きているがまだ誰も気づいていない。
「警部、カムイくん。僕も書き出して見ましたのでご覧ください」
「ココホレ君……いつの間にそんなものを」
巡査はそう言って、A4用紙数枚を二人に見せた。
☆ ☆ ☆
ここほれ わんじろうの見解
①「シェロはひとり部屋のなかに居た」。その部屋は自宅の部屋だ。
失踪の日の前日の深夜にひとりで部屋のなかに居た。
だが深夜にも関わらず、電話をする母親ミクの声が聴こえた。
母親の話す内容から、通話相手がカムイの父親ムサシだと気づいた。
②シェロは全てを聴きとれてはいないが、何か不吉な予感に包まれる。
母とムサシの会話から事実確認をしなければならない内容を耳にしたのだ。
恐らく、シェロにとって死ぬほど怖い話を。
その先を憶測だけではかり知ることが困難と判断して、盗聴器を仕込む。
日時は変わって次の日の午前二時ごろ、再びミクがムサシと通話を再開。
その通話内容で次の日、誰が死ぬのかを事前にひとりだけ知ってしまう。
ここで怖い仮説を色々とした。「シェロはある空想をしていた」
③「空想の内容は殺人事件だ」
ミクとムサシの会話内容から殺人事件が連想されたのだ。
④「少年の頭の中で殺人事件が起きた」
恐らく、その時点ではまだ起きていない。
だが、決行される日がその日にの夕方に決められていた。
それもずっと以前から。
シェロは急いで失踪の準備に取り掛かる。
それが、このクイズの作成だった。
決して悟られてはならない相手だ。警察への通報は到底できないのだ。
なにせ、相手は自分の親なのだから。
カムイくんの事を考えれば尚更だ。
真相究明のために身を隠しつづける覚悟だ。
警察の誰かが不審に思うように、盗聴器をそのままにした。
しかも眠っているカムイくんの指紋付きだ。
部屋からも指紋を消し去っていて、シェロ失踪についてはその疑いが
カムイくんに向くようにしてあった。
カムイくんの周囲に常に警官を立たせておくことで、彼は安全に包まれる。
それからシェロが失踪する、そこから数時間経過後、カムイくんの帰宅。
帰宅後、カムイくんは父親のムサシと居合わせたミクから母親の死を聞く。
その状況があり得ない死にざまだった。
登山し、噴火口に転落。
シェロくんはその真相が偽装で双方の片親は火口に転落していないと。
事前に知っていたのだ。
偽装してまで別れさせる真の理由が知りたかった彼は、今も近くにいる。
そこから監視しているのだ。
④の少年はカムイくんだ。
シェロ失踪直後から頭の中で様々に不安を巡らせる事も想定済みだったのだ。
警察に会ってから、聴取で殺人事件のことを唱えるのはカムイひとりだけだ。
「カムイの頭の中で殺人事件が起きた」
これは証拠となる2枚の羊皮紙をシェロが持ち去った為に起こること。
そうすることでカムイの口からでしか、殺人事件は伝えられない。
カムイの頭の中に謎の空想をする少年も閉じ込めた。
シェロは、カムイに天才クイズと称したので、クイズっぽく繋がる様に。
言葉を選んでうまく並べたのだろう。
☆ ☆ ☆
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