第4話 カムイの解答


「でも少しだけ考えてみて。殺人事件の通報でないなら、警察隊なんか来るか?」


「だ……だよね?」




 だよね。



 と言いながら、カムイは苦笑いをする。


 いよいよ考えられる隙がなくなってきた。

 焦りの苦笑だった。指先で前髪を軽くかき上げる。




「さ、殺人の通報は現実にされた。そこまでは確定なんでしょ?」




 なぜか出題者に質問を出すカムイがいる。


 君のための謎解きなのに、なぜ俺が答えなければならないのか。

 シェロも一瞬だが、眉間にしわを寄せた。



 チッ! 

 と小さく舌打ちをする。

 だが苛立つ顔は見せないようにして、やさしい声で質問に答えてやるのだ。




「そうだよ。だからその時点で、現実味がないなら相手にされないよね」




 つまり、クイズの中の少年は、到着後の警察に力説する必要性はないのだ。

 警官が隊を組んで出動してきたら、他殺の線で捜査が始まったということだ。


 カムイの認識は、今このように変わった。




「うああ!──そうか!」




 突然、カムイが叫んだ。

 ついに閃いたのだ!

 正解を見たりとその顔には書いてある。




「通報後、駆け付けた警察はこの少年が殺されていたのを発見したのさ! だから他殺の線で捜査をしたんだよ! この出題には引っかけがあるんだよなっ!」


「ふうん。引っかけね。じゃあもう全容を説明してもらってもいいかな?」




 全容を説明してみてくれとシェロにいわれた。

 つまり、今度ばかりは否定はされなかったのだ。



 通報者の少年の死体が駆けつけた警察官たちの目の前にあったのなら、警察が殺人事件の捜査に乗り出した決定的理由になるので、これで一応の矛盾点はなくなる。



 カムイの認識はさらにこう変わった。


 カムイは得意げに謎解きに入る。



 シェロがあらかじめ用意した羊皮紙を一枚、カムイに差し出した。

 カムイはペンを執り、手短に謎解きを書き記していく。



 お互いの質問解答の結果をしっかりと残し、前言撤回を軽視しない姿勢をとる。

 それにより慎重な推論、考察を脳内で構築、整理していく力が身につく。



 それが二人の、この駆け引きの目的であり、ルールなのである。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【秘伝カムイの謎解き】



 少年はひとりで自宅の部屋にいた。

 少年は殺人事件の空想をしていた。

 空想の完成度が高まっていく高揚感に見舞われた。

 少年は無意識に、現実の家の電話の受話器を手に取ってしまった。


 少年は110番通報をするも、少年は空想のなかで事件を語ったにすぎない。

 だがその内容は。

 少年自身がその日、殺害されるという告白。

 その助けを求める声が迫真に迫るものだった。


 空想の殺人の通報と知らず、受けてしまった警察は確認のため出動した。

 駆けつけた警官隊の目に飛び込んだのは、通報内容どおりの少年の死体。


 警察はその場で殺人事件の捜査本部を立てる決定に至ったのだ。


 だがこれは少年が他殺を偽装した、「自殺という自作自演」だ。

 少年にはかねてより自殺願望があり、その故の空想なのである。

 ゆえに犯人は存在しない案件なのだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 手渡された羊皮紙は一枚で解答用。



 それほど多くの情報は書き留められない。

 手短に記さねばならなかった。

 ゆえに不安も残るのだ。



 他殺を偽装した。



 自殺願望があったのに、自殺として生涯を閉じることができなかった。

 少年は空想家だった。



 ボクも小説を書き始めたばかりだが、空想は楽しいものだ。

 そういう人間は、WEB小説サイトを見ていれば良くわかるのだ。

 死の際に試みてみたい……そういう心理が働いたのだ。



 きっと、一人で寂しく死ぬのが嫌だったのだ。



 カムイは思いを募らせていく。

 微笑みを浮かべながら。

 鼻歌も聞こえて来そうなぐらい、楽しそうだった。



 等々、詳述は別紙に書き留めた。



 考えをまとめたものをより詳しく書き残して行く。

 子供時代にどの様な事に惑わされ、悩んだのか。

 近い将来、物を書くための財産になる。

 今回のことも互いの自信に繋げていくための訓練なのだ。



 どの道これらは、いずれも仮定、想定の話だ。

 あまり深刻になる必要もない。



 それは書くブーム到来で、二人が物を書くことを決めた折に、シェロから教えてもらったことなのだった。



 WEBサイトによっては、小説投稿には年齢制限がない。

 カムイも中学生に上がる前から趣味としてたしなんでいたものだ。



 カムイはご満悦といった表情でシェロを見ようと顔を上げた。

 だが彼が解答を書き終えてシェロに目をやろうとしたが。

 シェロはいつの間にか部屋を出ていた。



 どうやら羊皮紙に慎重に書き込むあまり、集中しすぎてシェロの離席に気づけなかったようだ。



 集中は必至。



 ペンで書くので誤字は許されない。

 余分に用意されていた羊皮紙だが。

 なるべく書き損じは避けたいものだ。




「あれ? シェロくん……。声を掛けてくれればいいのに」




 さては正解を出した時のために、ご褒美の特別なおやつを運んで来るため、リビングへ行ったんだ。



 カムイはそう思って鼻歌を歌っていた。


 20分が経過した。


 カムイも退屈になり、シェロのことが気がかりになった。



 シェロたちの自宅はマンションの一室。

 階段などはない。

 リビングもすぐ隣にある。



 この日は早朝から家族が外出中だ。

 シェロの部屋の他にもう一室あり、そこが両親の部屋だ。


 

 シェロとカムイは互いに兄弟は居ない。

 お互いに一人っ子だ。



 カムイの家も同じマンションで隣り合った部屋だった。

 つまり互いに三人家族。

 部屋の間取りも全く同じである。



 秘伝カムイの小説賞の受賞。



 それを祝うためだと、シェロは言っていたが。

 二人は毎日のようにお互いの自宅を訪ねて、いつも一緒だった。



 だが今日という、この日だけは特別だ。

 幼馴染で仲良しの二人。

 生まれてはじめての記念祝賀会だ。



 当然のことながら、その祝福を受けるのは、カムイひとりだけだ。

 

 

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