第2話 クイズの行方


 解答は誰の目にも憶測の域をでないことが現時点で明白である。


 しかし、これはまだ幼い二人の少年のやり取りである。


 シェロの出した、「天才クイズ」をカムイが解きたい気持ちが見えている、そんな状況であった。


 一生懸命、想像を巡らせる。


 そこに何らかの可能性があるのだとすれば、その可能性を順序立てて、理屈づける必要があるのだ。



 「これだけでは、まだ解答としては不十分」。

 説明不足だと伝えてやれば、カムイも再度、熟考して答え直したかもしれない。


 シェロにもう少しの包容力があれば、その会話は好転していたかも知れない。

 このやり取りが二人のマイブームで、カムイが受賞した祝いだと言うのなら。

 もっと楽しめたかも知れない。


 出題者となれば、シェロはその答えを持っているだろう。

 ゆえに多少の優越感も生まれてくる。


 早く、カムイに正解を出して欲しい焦りがあるのだろうか。


 そして、シェロはヒントの継ぎ足しをした。

 カムイにしてみれば、意地悪されているようにも感じていることだろう。


 カムイは自分の推理を推した。


 

「でも警察は可能性があるなら、必ず疑うじゃん」



 シェロも何かを言いかけるが。



「話に信ぴょう性があったなら……というよりも」



 なぜ話が隣人の家に行くのだ。


 チッ! 

 カムイが天然ボケをするのでシェロが思わず舌打ちをした。



「その可能性を疑ったのは警察じゃなくて、カムイ君、きみだよ」



 カムイの説く可能性の中に登場する警察は、実在していない。

 勿論、クイズである以上は、その答えも限りなく仮定の話になるが。


 シェロは出題が書かれた羊皮紙をすでに手渡している。


 カムイ自身の推論に、カムイ自身が執着しすぎるとシェロはその可能性を否定的に捉えようとする。



 なにかしら急ぐ必要でもあるかのように。



 カムイはシェロの指摘にハッとした。

 やる気満々の先ほどとは違い、その表情に陰りが見える。



「う~ん……激ムズじゃないかコレ?」



 やはり難問ではないかと、シェロに問いかけるカムイが眉根を寄せた。

 出題されて間もないというのに。



 本当に謎解きは得意なのか。



 シェロも、そんなカムイに微笑で相槌を打ちながらも誘引する。

 そんなに容易く投げられては面白くはない。

 そう言わんばかりにヒントを差し出した。



「いやいや。通報をしたのは誰ですか?」


「少年……です」


「それなら警察は、少年の家に到着したはずだよ」




 シェロがそう言い切ると。

 カムイはしばらくの沈黙を決め込むが。




「えっ!」


「えっ、じゃないよ」



 少年の部屋の外で物語の展開と結末があるというのは、すこし早計ではある。

 よそで起きた事件の捜査だとするのは少し飛躍的な考えだ。


 このクイズの設問とは直接結びつかないのではと。

 シェロはそこを指摘するのだ。


 だが、カムイが少々首を傾げて問う。




「シェロくん、僕たちは同じマンションに住んでるじゃない?」


「それがなんだというの?」


「いや想像なんだけど、ひとつ隣の部屋に宅配ピザが届くことってあるじゃない」


「……まあ、あるけど」



 そう答えたシェロは、過去にひとつ下の階からの間違いの宅配ピザが届けられたことをカムイに話したことを思い出していた。


 ひとつ階を間違えるぐらいの事もあるのだから。

 隣の部屋に行ってしまうぐらいはあるでしょう、とカムイは問う。



 それでもシェロは、顔を横にブルっと素早く震わせて。



 ここで自分が言いくるめられてどうするのだと。

 そんな思いでピザ屋の思い出を振り切って──。




「──それじゃあ何か。君はピザの宅配と、殺人の通報で動く警察の仕事ぶりが同程度という認識なのか」




 シェロの表情は硬くもなく、決して視線も冷ややかなものではない。

 彼の指摘が増える度、カムイも自分が口にした事への根拠は打ち明ける。


 同程度の認識か、そう問われてカムイの口がさらに開く。




「だから人間、間違いはあるんじゃないかってことさ」




 人間なれば誰しも間違いはある。

 それについてはシェロも一理ありとの考えは示した。


 

 だから──。

 それは勿論、ピザの宅配も警官も同じではある。

 それで警察が隣の部屋を間違えて訪問した。


 すると偶然、玄関のドアの鍵が開いていて警察の権限で踏み込んだ。

 無論、鍵が掛かっていても、管理人を呼んで開けさせることはできるが。



 そこに本物の殺人事件を発見した。

 それにより殺人事件の捜査が始まった。

 というのが、カムイの推理だ。



 それでこそシェロのいう、【簡単な謎解き】という点に合点がいく。


 カムイはシェロに対し、そう説いたのだ。


 しかし、シェロだっておいそれとは引き下がらない。

 人間は確かにミスをする。


 そこに一理あることなど百も承知。

 それを安直に連想させない出題は考えて出していると言わんばかりだ。




「カムイ君、警察官は一人でやって来たのかね?」


「えっと……警察隊でしたね」




 カムイはシェロに問われて、出題の羊皮紙に目を通して答えた。




「警察隊といえば、少なくとも三人以上だ」


「うん。まあ……」


「殺人の通報だぜ!? 四、五人が駆けつけたって不思議じゃないだろ」




 警察官が単独でないことを強調する。

 それこそが彼の推理の矛盾点だと、シェロは指摘する。

 

 カムイが気づかねばならない矛盾点とは……。


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