秘伝カムイと黒耳シェロ

ゼルダのりょーご

第1話 幼馴染


 秘伝カムイ、13才男。<ヒデンカムイ>

 黒耳シェロ、14才男。<クロミミシェロ>


 小説家としてweb投稿に励んでいる、幼馴染の二人である。

 二人は同じマンションの住人で部屋が隣り合っていた。

 カムイは、直木賞のようなミステリ系を好んで書く。

 シェロは、ファンタジー冒険譚を好んで書いていた。


 各々が小説を書いている。

 書くブームが到来して、ごく最近始めたばかりだ。

 二人で力を合わせた合作を世に送り出そうとかではなく。

 書きたい世界が違うので、それぞれの路線を歩んでいるようだ。



 つい先日のこと。

 年下のカムイが、小さな賞に引っかかる幸運に恵まれた。


 シェロが祝いをしてやろうと、彼を自分の部屋に招き入れた。

 部屋は6畳。子供部屋としては十分なスペースだ。

 土曜日の午後。昼食を済ませた後のことだった。


 彼らは時折、知恵比べをする。

 それには言葉遊びのようなものも含まれていた。


 お互いにまだまだ知識や常識といったものに抜け目があるようで。

 自分の考案したものに矛盾点がないか、互いを試す。

 そんなやり取りを、部屋の中で話し合うのが目下のマイブームだった。


 シェロは、カムイに出題をする。


 カムイが得意、というより好きなジャンルは推理、推論、謎解きだ。

 シェロは、そんなカムイを試したいのだ。


 本日は、シェロがカムイを唸らせる番のようだ。



「やあ、カムイ君。今日は俺がとっておきの出題を考えてきた。挑戦するかね?」

「望むところだよ。ジャンルはなんですか?」

「題して、天才クイズだ。答えられたら天才レベルだよ」



 シェロがとびきりの笑顔を見せた。

 嬉しそうに穏やかな顔をして、カムイはシェロの笑顔にうっとりする。



「なんかムズかしい計算とか、させられそうだけど」



 言いつつも、カムイは甘ったれた声をシェロに聴かせる。

 目を伏せて、もじもじとして見せた。

 シェロが否定しつつ、さらに優しくしてくれることを期待するように。



「いやいや簡単な謎解きだ。いつも通り気楽にいこうか」




 期待通りの対応がかえってきたのでデレっと鼻の下を伸ばした。


 それなら喜んで受けるとカムイはいった。

 シェロはひとつ年上なので、たまに小難しい話をすることがあった。


 なんとか理論とか、なんとかの法則とか。

 勉学の追い付いていないものは嫌だと、カムイは心配したのだ。

 

 シェロはそんな意地悪問題ではないから、気を楽にしようという。

 長年の付き合いで、その反応を知りながら、一度は嫌がる振りをするのだ。

 わりと甘えん坊なのだ。


 そして、それならば安心だと。


 カムイはチャレンジ精神はあるよ。と顔にそう書いて見せるのである。

 ジャンルを問うカムイにシェロは、「まあ、出題するからよく読んでね」と。

 カムイは素直に、「うん」と返事を返した。


 シェロは、一枚の羊皮紙に黒インクのペンで書かれたものを差し出した。

 羊皮紙は大きさが限られているため、あまり長文をしたためられていない。

 また同時に解答用の白紙のものも、傍に準備しているようだ。

 白紙のものは書き損じにもそなえて、複数枚用意されていた。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 【黒耳シェロの天才クイズ】


 少年がひとり部屋のなかに居た。

 少年はある空想をしていた。

 空想の内容は、殺人事件だ。

 少年の頭の中で殺人事件が起きた。


 すると少年は、現実の世界で110番通報をした。

 すぐさま警察隊が出動してきた。


 警察官たちは、他殺の線で捜査に乗り出した。


 さて警察はなぜ、殺人事件の捜査を始めてしまったのか?



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 





「えっ……ちょっと待って、ちょっと待って。なんかおかしいよ」

「謎解きは得意じゃん。さあ頑張って答えてよ」



 カムイは出題自体に矛盾があるのではないかと眉根を寄せる。


 しかしシェロはそこが謎解きだと言い、答えを考えるようにといった。

 こんな短文の出題から導き出せる明確な解答が本当にあるのだろうか。

 そこへの疑問符を心の片隅に残しながら。


 まず、カムイは思いついたことを口にしていく。


 事件が起きたのは少年の空想の中だけ? 

 いやそうじゃない──。

 そうじゃなければ成立しないのが、この謎解きなのだ。


 そう考えたカムイの瞳に力がこもる。



「少年が通報したら、偶然にもお隣で通報内容に似た事件が起きていたんだ。きっとそっちの捜査を始めたんじゃないの?」



 恐るおそる答えを出すカムイは疑問符を付けて、こうではないかと打診する様にいった。



「カムイ君。さっそく想像力を働かせてきたね。うん、悪い推論じゃないけど。それってあくまでも可能性の話だね。けど断定するには薄すぎない?」


「どういう意味なの可能性、薄すぎって。ボクのこたえは矛盾してるの?」


「そもそも出題には、ご近所の話なんて出てないよ。」




 なにやら見当違いの推理をしていないか、と言わんばかり。

 確かに、そのように断定できる要素が出題のなかには出ていない。


 だが、想像力で答えを導き出せというのなら、カムイの推理も的外れとも言い切れない。


 このような短文の出題では、はっきり言って明確な解答を導き出すこと自体が不可能に近いと言わざるを得ない。

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