4.経験値が入手できなくなるだと?

 日が昇る。

 結局、ベッドでゴロゴロしながらなかなか寝付けないでいたが多分、いつもより眠れたような気がする。

 時計がないから分からないけど。


 それにしてもシャワー、浴びたいんですけど。

 あと着替えも欲しいね。


 今日は外に出てみるか? と思っていたら、ホロウィンドウがポップアップした。


《自宅警備員がレベルアップしました》


 ……は、なぜ?

 いや自宅警備員だし、もしかしたら宿から出なかったのが良かったのか?


 俺は食堂に顔を出す。

 昨日はほとんど人がいなかったが、今朝は多くの客が食事を取っていた。

 人間族ヒューマン獣人族セリアンが半々くらいだろうか。

 武装している人が多い。

 もしかしたら冒険者ギルドに所属しているのかもしれない。


 俺は空いているカウンターの席につく。


「おはよう、コウセイ。いい天気だね」


「おはようございます。確かにいい天気ですね」


 外は晴れやかで、陽の光が踏み固められた土の道路を照らしている。


 女将のアナベルがトレーを運んできた。

 朝食はパンと目玉焼きとミルクだった。

 フォークで目玉焼きを食べて、ミルクで口を潤しながらパンを咀嚼する。

 なかなか美味だった。


 食事の間、聞き耳を立てて他の客の会話から何か情報収集できなか試していると、ホロウィンドウがポップアップした。


《〈聞き耳〉のスキルを習得しました》


 途端に、ザワザワとしていた店内の会話が指向性をもってひとりひとりの会話を取捨選択できるようになった。

 冒険者と思しき一党の会話に焦点を合わせる。


「……でさあ、昨日は大変だったわけよ」


「マジなのか? まあ見どころのある新人なら、歓迎できるんだが」


「選ばれし勇者がどうとか言ってた割に、弱かったけどな。でも戦いの中で勘を掴んでいくというか……最後の方はなかなか見応えがあったぞ」


「へえ。そりゃ将来が楽しみだな」


 ……勇者?

 手紙の文面が脳裏に浮かぶ。

 あの手紙の言い方だと、俺以外にも選ばれし者とやらがいるような感じだった。

 同じ街に、ふたりいてもおかしくはないだろう。


 どうする、接触してみるか?


 同じ地球人同士なら、困ったときに助け合える気がする。

 よし、冒険者ギルドに行ってみよう。


 俺は「ごちそうさま」と告げて、席を立った。

 そういえば、冒険者ギルドってどこにあるんだ?

 逡巡しているところで、俺が聞き耳を立てていた連中が席を立った。


「女将さん、ごちそうさん!」


「あいよ、お粗末さん!」


 冒険者たちが宿の外に出ていこうとする。

 よし、連中を追いかければ冒険者ギルドに着きそうだな。


 思いがけない幸運に、俺は扉に向かう。

 そして扉に手をかけた瞬間、ホロウィンドウがポップアップした。


《警告。外出中は自宅警備員の経験値が一切、獲得できません》


 ドアノブにかけた手が止まる。

 ……は? 経験値が入手できなくなるだと?


 俺は一旦、出した手を引っ込めて、踵を返して自室へと向かうことにした。


 ◆


《名前 コウセイ 種族 人間族ヒューマン 性別 男 年齢 30

 クラス 自宅警備員 レベル 2

 スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈アイテムボックス〉》

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