5.これは便利ではないか?
ベッドに腰掛けて、考える。
経験値は重要だ、と思う。
しかしスキルをバンバン獲得している今、スキルの方が重要じゃないのか、とも思う。
このゲームのようでいて、不自由なシステムには文句を言いたくなる。
仕様が分からないから経験値を捨てて冒険者ギルドへ向かうのは悪くない手だとは思うのだが、俺のゲーマーとしての勘が待ったをかける。
スキルが重要なら、宿内でできる限りスキルを鍛えるのはどうだ?
どうやら聞き耳で得た情報によれば、同郷の奴は戦闘能力が高そうだ。
間違ってもクラスが自宅警備員などではないだろう。
もしも俺と同じように、簡単にスキルを獲得できるとしたら、既にかなり強くなっていてもおかしくはない。
……同じ地球人として対等な関係を持てるならともかく、現状だとそうはならないだろうなあ。
魔物という危険な生物が蔓延る世界らしいし、強さが社会的な地位に大きく影響するのは想像に難くない。
ならば今すぐに同郷の地球人と接触を持つのは、危険があるかもしれない。
レベルを上げて、スキルの習得に努めよう。
少なくとも、戦闘では勝てないにせよ、役に立つ特技のひとつでも得なければ対等な関係を構築できそうもない。
俺はまず、ベッドに上がって腕立て伏せを始めた。
筋トレなんて普段しないから、すぐに腕がプルプルし始める。
しかし歯を食いしばり、腕立て伏せを続ける。
《〈経験値2倍〉のスキルを習得しました》
…………は?
スキルを得る予定ではあったが、予測とはまったく違うスキルが入手できた。
てっきり筋力増強とかそんな戦闘に役立ちそうなスキルを目当てにしていたのだが。
ともあれ、〈経験値2倍〉はすごそうだ。
いや、実際に凄いのだろうけど。
ところで自宅警備員のクラスのレベルが上がると、何が変化するのだろうか。
分からない。
だがレベルは低いより高い方がいいに決まっている。
経験値が増えるならお得だと思っておこう。
続いて腹筋を鍛えることにした。
自力で腹筋ができないので、ベッドの縁に足を引っ掛けてなんとかする。
日頃の運動不足は深刻だな。
何度かの腹筋運動をしていると、ホロウィンドウがポップアップした。
《〈経験値2倍〉のスキルが〈経験値3倍〉に進化しました》
うーむ、どうやら筋トレは経験値増幅スキルになるようだ。
一体なぜかは分からないが。
腕と腹は鍛えた。
よし次はスクワットにしよう。
《〈経験値3倍〉のスキルが〈経験値4倍〉に進化しました》
《自宅警備員がレベルアップしました》
《〈通信販売〉のクラススキルを習得しました》
お、なんかいきなりみっつもウィンドウがポップアップしてきたぞ。
全身が痛いのでベッドに寝転んで、スキルを確認する。
〈通信販売〉か、クラススキルということは、自宅警備員のクラスがレベルアップしたことで、習得したわけだよな?
やっぱりレベルも重要そうだ。
〈通信販売〉を起動する。
これは……!!
見覚えのあるユーザーインターフェース。
俺が愛用しているインターネット通販のサイトそのままだ…………が、販売品目がちょっとおかしい。
どうやらこの世界の物品しか購入できないらしいのだ。
しかも極端に安いものから高いものまで千差万別、そして品目がかなり少ない。
だがこれで着替えが入手できる。
販売品目の「ファッション」に飛ぶと、「新品」と「古着」に大別されるようだということが分かった。
新品と古着を見比べると、かなり値段に差がある。
それに新品はなんというか、俺がいま身につけているようなシンプルなものではなく、色がついていたりしてカラフルである。
今の粗雑な衣服に不満はあれど、かといっていきなり小綺麗な服を身に着けたらおかしいと思われないか?
そもそも初期所持金に限りがあるのだ。
無駄遣いしていいわけがない。
俺は古着から上下と下着を購入する。
あとは……タオルが欲しい。
身体を拭きたいのだ。
あと歯ブラシ……はないのか。
うん? 歯磨き用の木の枝ってなんだ?
これで歯を磨くのか?
安いので購入しておく。
ふと気になって「本」のカテゴリを見ると、何冊かの本が売られている。
ただし馬鹿高い。
金貨数枚が相場らしい。
おっと『魔法の基礎』は欲しいな。
カートに入れようとしたら、「現金が足りません」と警告が出た。
どうやら所持金を超える買い物はできないようだった。
決済をすると、現金が減少した代わりに〈アイテムボックス〉に商品が届いた。
素早い配達だ、これは便利ではないか?
◆
《名前 コウセイ 種族
クラス 自宅警備員 レベル 3
スキル 〈人類共通語〉〈簡易人物鑑定〉〈聞き耳〉〈通信販売〉
〈アイテムボックス〉〈経験値4倍〉》
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