第4話 ネムの木

ネムの花 咲く夏の道 歩きゆく

午後の風の 止まりし時に


ギラギラと照りつける真夏の太陽に焙られながら、細い坂道を昇っていた。

やがて道は山に添ってぐるりと回る急峻な階段になり、思わず手すりを掴む。手すりは太陽に焼けて熱かった。

狭い階段ゆえ、すれ違う老夫婦に道を譲り、何となく会釈をした。

ふと振り返り、登った階段から路肩の木々を見下ろすと、ネムの木の花が覆い尽くすように見事に咲いていた。その向こうには、ふるさとの街並が眼下に見渡せる。ネムの花は帯締めの先に着いている飾り房の様な、白に桃色を滲ませた繊細な美しい花房である。風はなく、暑い陽射しに溶ろけるような夏の午後。

ネムの花は何の不平もなくそこに黙って咲いていた。辺り一面から響くような蝉の声に包まれて。


坂道を登りきるとそこでは父のお墓が待っていた。お盆なので、もうどのお墓にもたくさんの花が供えてある。父もうちはまだかと、ソワソワしていただろうか。

父との思い出はふと重く、私の心に濃い影を落とした。

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