第33話
「若干、話が噛み合わないんだけど。なんか用?」
先ほどよりもさらに敵意を増して、女生徒はジェイドと目を合わせる。変なのに絡まれたし、そろそろ帰ろう。まさかついてこないよね。
「話が早くて助かる。私のために、カルトナージュ作ってくれない?」
今度は目だけでなく、ジェイドは体ごと女生徒に向けてお願いをした。余計な話をするのは下手な営業マン。上手い人はシンプルに終わらせる。これが一番無駄を削ぎ落としたお願い方法。
「は? なんで? やらない」
が、ダメ。女生徒は一ミリも心が揺れることなく、ジェイドの希望を粉砕した。そもそも誰なのこいつ? 同じ学校のようだが、見覚えはなかった。
一度目は断られるのは当然。できる営業マンの心得その二。簡単には引かない。ジェイドは図々しく懐に入り込む。
「できない、じゃなくて、『やらない』、なんだ。キミだね、一九区のカルトナージュ店の娘」
「そうだけど。やらないよ。安売りしないから」
女生徒も引かない。まだ見習いだが、それでも職人。お願いされたから、ではその技術は使わない。しっかりと手順は守ってもらう。簡単に安い金額で引き受けてしまうから、それに見合った技術までしか使われない。それでは発展はない。
「お金は払うよ、もちろん」
当然のこと。ジェイドも勢いだけでなんとかなるとは考えていない。なんとかなったら嬉しかったが、ちゃんとそこは弁える。自分は試食用にタダで配っているが、職人が全員そういう考えじゃないことくらいはわかっている。
やっぱそろそろ帰ろう。女生徒は踵を返し、駅の方へ向かう。いつかはこういうところで技術を発揮したい。その決意だけはできたから、もういい。
「じゃあお店通して。勝手にやったら、それこそ怒られちゃう」
そう吐き捨て、歩み出した。
ジェイドはそれに追随して、数歩ぶん後ろを同じペースで歩く。もうここまできたら最後はゴリ押しで突き抜けるしかない。
「それはできない。事情があって。悪いね。もしかしたら、そのあと正式に注文するかもだけど」
「じゃあ他あたって。同じ学校だから、とか安請け合いはやらないようにしてる。職人てのは、そういうもんなの」
駅までは五分ほど。適当にあしらっておけば、そのうち消えるだろう。女生徒はそう予測し、歩みを少し早めた。
そのペースに合わせながら、気にせずジェイドは質問を続ける。
「なんであそこにいたの?」
一番気になっていたこと。僥倖ではあったが、理由は気になる。あそこの装丁は長らく変わっていない。こんな時間までなにが足を止めていたのだろうか。
女生徒は包み隠さず明かす。別に隠すものでもないし、恥ずかしいものでもない。
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