第23話

「そうそれ。その人がイベントで、ショコラについて勉強してるみたいなことを、ポロっと言っちゃったらしいのよ。香水にもグルマン系っていう、ショコラの香りがあるから、それなのかわからないんだけど」


 ゆえに不確定。エディットも色々予想をたてたのだが、一番これが的を居ているという答えを持ってきた。違ったらすまん。


 深く思考しているジェイドだが、ひとつ違和感に気づく。


「ていうか、それだと別にWXYじゃなくて、他の店っていう可能性もないですか? 別にショコラトリーはウチだけじゃないですし」


 パリだけでも何店舗あるか。もし本当なら支店もあるような大きな店になるかと思うが、それでも相当数ある。信用できるかどうかでいうと、二割以下とジェイドは判断した。


「そ。だから噂。色んな尾鰭がついて、そんなことになってんの」


 考察係のエディットも半分以上はサジを投げている。だったらいいね、さらにウチだったら最高だね、程度。期待させすぎて、全然違った場合に恨まれたくない。保険はかけておく。


 しかし、ジェイドは明るく返す。


「まぁ、本当だったら面白そうですけどね。世界一の調香師と老舗ショコラトリーのコラボ」


 ショコラはもちろん、香りも楽しみのひとつだ。本当だったとしても、なんらおかしくはない。そうなると、ショコラの香水なのか、香りをテーマにしたショコラなのか。それとも全く違うなにかなのか。想像するのも楽しい。


 だが、その前に確実に存在するものがある。この店の春の新作だ。


「それよりも、新作のテーマが『フランス』ってねぇ。漠然としすぎてて、なーんも浮かばない。ま、私らには関係のないことよ。アメリさんとかがなんとかするでしょ。他の支店の人とか」


 そもそも自分は接客だし? と、エディットは切り替えている。季節ごとの楽しみ。春だから、カラフルなものとかかな、と期待に胸を膨らませて待つ。自分用と友人用と家族用と。何個買うかだけ。


「……」


「ジェイド?」


 さらに深く思案するジェイドを、エディットは不思議に思った。そんなにたくさん買うの?


 そして数秒後、意を決してジェイドはアメリに声をかける。


「アメリさん、新作って自分も考えていいんですか?」


 真っ直ぐ、射抜くような強さの瞳。


 なにやらメモ書きをしているアメリは、一瞬驚いた。が、すぐにニンマリと笑う。


「えぇ、もちろん。助かるわ。むしろ、ジェイドみたいに、ベルギーとか他の国の人達からも意見を聞きたいし。サポートしてくれるなら願ったりよ」


 ショコラの本場ベルギー。フランスだけでなく、他国からの違った視点があれば、より良いものが出来る。ジェイドの申告はアメリにはありがたかった。むしろ、こっちから声をかけようと思っていたくらいだ。


 しかし、ジェイドは表情を変えず、内心では不満を漏らした。


(サポート役か……まぁ、作れると思ってないよな、普通。製菓学校も出てないから、座学もわからないし)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る