第24話
当然だろう。ショコラの歴史は長い。見習いがそうそう出せるとは思っていない。ジェイド自身もわかってはいる。だが、殻を破るにはきっかけが必要だ。
「いえ、自分も案を出したいんです。なので、時間がある時でいいので、作り方を教えてください」
盗める技術は盗む。わからないところはちゃんと聞く。使える手段は全部使う。結果を残してこそプライドは保たれる。
その気迫をアメリも感じ取り、戸惑う。なにか違う、と。
「もちろんだけど、ジェイド、なんか変わった?」
纏った雰囲気に、貪欲さが見える。隙を見せたら噛み付いてくる、野生の動物のようだ。
しかしジェイドは破顔して、愛くるしいペットの顔も覗かせる。が、発言はなかなかに野望に満ちている。
「いえ、なにも。いいものを作って、店長とかオーナーの座を奪ってやろう、っていう野心が芽生えただけですよ」
さらっと。まるでカフェでブレンドコーヒーを頼むかのように、ごく自然にジェイドは「上に行く」と言ってのけた。まだ見習いではあるが、目指さない理由はない。まわりの雑音が消える。
それを聞き、アメリは目を見開いたが、笑みを浮かべてジェイドの腰のあたりを軽く叩いた。
「それ、すごくいい」
彼女自身、まったりとした『なんとなく』で作る新作は嫌だった。やるなら、これから先のWXYの看板となるような商品を。その意気込みが必要だと感じていた。いつものように新作を、みんなで仲良くワイワイと考える。悪くはないが、刺激が欲しかった。
それを見習いが気づかせてくれた。本来なら自分が言わねば、という悔しさもあるが、この際どうでもいい。
「やっぱり、やるからにはゴンブスト通り店が、新作の入賞タイトル、あるのか知らないけど、全部総なめにするくらいの意気が必要! わかった!?」
と、他のスタッフの士気を上げる。みんなそれぞれ、成功失敗は置いておいて、なにかしらクセの強いものを作り上げるだろう。他の支店もきっと、ウチでは考え付かなかった爆弾を持ってくるはず。楽しみでしかない。
「は、はい!」
空気を一変して、他のスタッフも気合を入れ直す。下手なものは作れないぞ、と。作ろうものならアメリに一年は小言を言われ続ける。しかし、全力で考える新作は楽しい。それは知っているから、閉店後にあーでもないこーでもないと、今日も議論に熱中する。
「ちょっと、ジェイド。なんかあったの?」
起爆剤となったジェイドを捕まえ、エディットは問い詰めた。以前までの彼女なら、サポート役でも満足していた、むしろ喜んでいたと思う。が、数日経ったらいつの間にか、なにやらドス黒い欲が出てきてしまっている子になっていた。
だが、当のジェイドはあっけらかんとしている。むしろ、こっちの方が素の人格。本当の彼女は、欲しいものは『奪う』、そういう考えだ。エディットに耳打ちする。
「私はショコラに夢中になりたいので、恥をかくことにした。それだけです」
「はい?」
どういうことよ、とさらにエディットは説明を求めるが、まぁまぁ、とジェイドは制した。
とはいえ、課題はたくさんある。
(困ったね。デカいこと言ったけど、案なんかなにもないよ)
自身が作れるのはボンボンショコラやプラリネなどの基本的なもの。そして観光客向けとなると、保存がきくものとなる。なにで勝負するべきか。今のところ全く頭には浮かばないでいた。
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