第3話

 オード・シュヴァリエは、自身にとってカルトナージュとはなにか? と聞かれたら、真っ先に「うーん、生きがい?」と返す。そもそもカルトナージュとはなにか、というところから始まるのだが、フランスの伝統工芸で、豪華に装飾すること。デコレーションともいう。


 フランス語で『厚紙』を意味するカルトンが語源で、その名の通り厚紙で箱を作り、生地を貼って装飾する。それだけ。それだけなのだが、無限に種類がある生地を使ったり、元からある空き箱を装飾したりと、生活に彩りを加える、誰にでもできるデコレーション。


 しかしこれが伝統工芸になってしまうほど、フランスのカルトナージュは豪華なもの。ランプシェードからキャリーケースからなにからなにまで、貼りに貼ってひとつの作品にしてしまう。ここまでくると素人にはできないし、買ってしまったほうが早いし安い。世界各国から旅行者が訪れるパリ。お土産にカルトナージュは鉄板なのだ。


 そんな理由もあって、カルトナージュ専門店はパリに多い。需要があり、伝統工芸を廃れさせないように、若い世代も育てている。世界各国へと技術は渡っているが、専門店の出来は段違いに美しい。もはや工芸品というより、芸術品と言っていいのだ。  


 パリ一九区にあるカルトナージュ専門店『ディズヌフ』。そこがオードの実家であり、お店であり、修行場でもあり、勤務地でもある。通っているモンフェルナ学園には自宅から通っており、一応は高校卒業資格であるバカロレア取得を目指して頑張ってはいる。頑張ってはいるが、どうせ店を継ぐことになるだろうから、あまり勉強は頑張ろうとは思わない。それよりも装飾したり、なにかしら貼り付けたい。


 カルトナージュの材料店をやりつつ、初心者向けにレッスンを行うのも楽しいが、目標としてはやはり、様々なイベントであったり、店のショウウィンドウに飾るようなものを依頼されること。こういうのは大抵、大手カルトナージュ専門店の偉い人だったりが依頼されて請け負う。もちろん腕が立つから依頼されるわけではあるが、それゆえにまた有名になり、さらに依頼が集中する。そうなると、自分達にはまわってこない。


「なにかいい案はないもんかね」


 自分の作るカルトナージュに自信はある。ならば、そこに入れるなにか。なにかがあれば。

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