第6話

「それで、なんか嫌なことでもあったの?」


私の脇に手を回している彼女……後藤ごとう結衣ゆいはそういうと、大袈裟に首を傾げた。


「いや、別に………」

「別にじゃない!絶対なんか隠してるってぇ」


華奢な見た目からは想像もつかないほどの筋肉を隠した手で、私の腕を掴む彼女。


握力52のバケモノに握られ、また私は女のものとは思えない声を出す羽目になる。


あの伊織でさえ50なのに。本当に後藤ちゃんはすごい。


何事かとこっちを見た店員たちに苦笑いを返すと、「離してー」と気の抜けた声で訴えかけた。


「じゃあ隠してること話せ!!」


……実に単純な脅しだった。


「わかった、話すって」

後藤ちゃんの頑固さは、とてもよく知っている。


なにせ、2年間一緒にバイトしている仲なのだ。

異常に殺人が多いこの町での、2年間の絆は伊達じゃない。


私は諦めて、彼女の腕を引っ張り、店の裏側へと足を進めた。



--------------


「で、なんでそんな不機嫌なの?」

後藤ちゃんが目を爛々と輝かせてそう聞いてくる。


「…….前に話した、私が同棲してる幼馴染、覚えてる?」

私はそう前置きをすると、今の伊織と私の関係性について話しだした。


「一昨日、私の友達が殺されたんだけど。

その殺人事件の犯人に、幼馴染が浮上しちゃったのよね。」


後藤ちゃんが神妙な顔で頷く。


「……まあ勿論、私は幼馴染を信じられないし?色々あって幼馴染も私のこと信じらんないっぽいし。今めちゃくちゃ修羅場なの。」


大事な部分を少しづつはしょりながらも、私はそう説明した。


「そりゃ大変だ」


大真面目な顔で、後藤ちゃんが腕を組み頷く。


「それで、風ちゃんはどうするの?その幼馴染のこと好きなんでしょ?」


その彼女の一言で、私は飲んでいたお茶を吹き出す羽目になった。


「……んなわけ、」

「え?本当に?同棲してる男女がお互いに好き合わないことないでしょ。」


後藤ちゃんはガチトーンでそう言う。


「いや、同棲してれば相手の嫌なとこも見えてくるもんだから。」


私はそう弁明しつつ、じゃあ私にとって伊織はなんだろう、なんて考えた。


……いや、そんなのはどうでも良くて。


「別に、どうしようとかは考えてないよ。」


私はそう言って、ざわつく胸を落ち着けた。

嫌な汗かいた。ほんと、たまにとんでもないことを言い出すのやめてほしい。


……それで、伊織とのことに関しては、ぶっちゃけ、もうなるようになればいいと思っている。

こうなったのはしょうがないんだから。どうなろうが私の知ったことじゃない。


そんな諦め気味な私とは対照的に、後藤ちゃんはまるで自分事のように、真剣に解決策を考えてくれていた。

……どれも使えそうにはなかったが。


まあ気持ちだけを素直に受け取っておくことにしよう。


案が出尽くして固まってしまった後藤ちゃんを見て思う。


「……まあ、それだけの話だよ。話聞いてくれてありがと」


そう言って私が持ち場に戻ろうとした、その瞬間。


「閃いた!!」


さっきまでフリーズしていた彼女が、突然大声を上げた。


「真犯人、探してくる!!」


彼女はそう言い残すと、さっさと店の裏を出て行ってしまった。


「……はぁ?」


そして、あとには混乱する私だけが残された。

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